「種種雑多な世界」水木うららさん
2024.11.302023年03月25日
山本ふみこさんのエッセー講座 第9期第1回
エッセー作品「遺影を撮りにいきました」宮澤睦子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第9期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「昨日」です。宮澤睦子さんの作品「遺影を撮りにいきました」と山本さんの講評です。
遺影を撮りにいきました
遺影を撮りに行った。
テレビで紹介されていた写真館は、「おばあちゃんの原宿」として知られる巣鴨にあり、メイクと髪のセットもしてくれると聞いた。
紹介されていた写真には、どれも素敵なマダムが写っていた。
撮りに行こうと思い、友だちに話すと、
「そんな早く撮ったら、実際の葬儀の時に、顔が違う、と言われるよ。」
と、笑われた。それでも撮りに行くことを決意した。
葬儀に来てくれた皆の心の中に、1歳でも若い私を残したい。
早速電話し、無事に1か月後に予約をとりつけた。それからは、肌のお手入れに励んだ。
服は顔が明るく見える白を薦められた。
当日は、髪をセットしてくれ、ばっちりメイクしてくれた。
眉がキリリとしている。こんな素晴らしいメイクは結婚式以来だ。
撮影をしていると、次の予約の人が現われた。
30分早く着いてしまったと言う。その人がいる空間での撮影は恥ずかしくて、軽く心の中で舌打ちをしたけれど、人のことは言えない。
かくいう私も30分早く着いてしまい、外でぶらぶら時間をつぶしていたのだから。
何枚も撮ってもらった中から、写真を選んだ。顔のシミが気になり、目ももう少しパッチリして欲しい。さりげなく修正をお願いしてみたけれど、
「修正はしません。ありのままが一番です。」
と、言われた。
出来上がった写真は、額縁に入れてもらい、押し入れの中に納めた。そこで、はたと気づいた。
私がこの世からいなくなったら、家族葬にして欲しい。戒名も位牌も仏壇もいらない。常日頃、家族に話している。
こんな立派な遺影って必要なのかな。
遺影の場所は伝えてあるけれど、当日飾られるのかな。忘れられないだろうか。
それでもいい。撮ったということに満足している。
あれから、3年が過ぎた。当時、ありのままに写っている自分の写真を見て、
「もっと、若く見えるように撮ってもらいたかったな。」
と思ったけれど、今は違う。
「3年前の私って、若い。」
山本ふみこさんからひとこと
まず、タイトル。素敵です。こうきたら、読みたくなります。
なかみも、素敵です。大げさになりがちなテーマを、坦坦と綴っておられますね。ありのまま正直な心情が語られているのも、好ましく、この作品のテーマは遺影だけではないことにも気づかされます。
「やってみる→ これは必要だったのか→ やってみたことはよかった」が成立しています。とても明るくて、こちらにぽっと何かが灯りました。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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