「種種雑多な世界」水木うららさん
2024.11.302023年02月24日
山本ふみこさんのエッセー講座 第8期第6回
エッセー作品「マーブルチョコレート」海瀬和美さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第8期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「空っぽ」です。海瀬和美さん作品「マーブルチョコレート」と山本さんの講評です。
マーブルチョコレート
結婚して4年目にやっと生まれたという私は、1800グラムと低体重だったせいもあり、とても大事に育てられた。
決して内臓が弱いわけでも虚弱であったわけでもないが、右股関節が脱臼していて病院通いをしていたので、毎朝食後黄色い錠剤のビタミン剤を飲んでいた。
それは、病院から処方された薬ではなく、両親が私のためにと大きなビンに入った薬を買って飲ませてくれていたものである。
その日は、4歳下の妹のフーちゃんと同い年の従兄弟のヨット君が遊びに来て2人は遊んでいた。
2人でおとなしく遊んでいたので、母も目を離して居たのだと思う。
突然大きな声で、
「これを2人で全部食べちゃったの」
と母が、叫んだ。
びっくりして、私が居間に行くと、いつも茶箪笥の上に置いてある私のビタミン剤の大きなビンが空っぽになって転がっていて、妹とヨット君からはものすごい匂いがしていた(ビタミン特有の匂いだと思う)。
母は私に留守番をしているようにいい、あわてて2人を近所の医者に連れていった。
迎えに来た伯母(ヨット君の母親)に母は、
「あーよかった。ビタミン剤は沢山飲んでも害はないから大丈夫だって。
でもしばらくは、茶色いおしっこと匂いがすごいと言われたけど」とホッとしたように話していた。
母が「でもどうやってあんな高いところの薬のビンを取ったのかしら」というと、ヨット君が四つん這いになって「ボクがこうしてフーちゃん(妹)が上に乗ってとったんだよね。マーブルチョコ甘かったけど、噛むとまずかった」と言った。
妹はいつも私だけが飲んでいた黄色い薬をお姉ちゃんだけマーブルチョコをもらっていると思っていたのだろう。
いつか自分もあのチョコレートを食べてみたいと思っていたのだと思う。
母と伯母はこの話を時々していたなあ。
「あの時は、子どもに薬を沢山飲ませてしまって害があったらどうしようとすごく心配だったけど、フーちゃんがお姉ちゃんにだけマーブルチョコをあげていると思っていたのはショックを受けた。
小さくてもちゃんと見ているんだと反省したよ」
山本ふみこさんからひとこと
これは本当の話です。ことの顛末に目を凝らさずにはいられません。ええ、つかまれましたとも。フーちゃんとヨット君が食べちゃったのは、本当に本当のビタミン剤だったのか。それとも……。
なんてね、手に汗握りました(私は、和美ちゃんが毎日飲んでいたビタミン剤、ほんとうはマーブルチョコレートだったのじゃないか、と思ったりしたのです)。
「マーブルチョコレート」、物語のようでしょう? なぜそうなったか。
それは、書き手が坦坦と構成を組み立て、正確に綴っているからです。こういうとき、興奮して書くと、すべてが台無しになります。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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