「種種雑多な世界」水木うららさん
2024.11.302023年02月24日
山本ふみこさんのエッセー講座 第8期第6回
エッセー作品「大人の集まり」磯野昌子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第8期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「空っぽ」です。磯野昌子さんの作品「大人の集まり」と山本さんの講評です。
大人の集まり
母名義の土地を私が相続して、そこに父がアパートを建てた。40数年経過し、建て替える頃となる。
居住権の問題があり、波風の立たぬ様住民に退去してもらい解体後、新築完成するまでには3年かかった。
すぐにでも入居募集をと構えていた管理会社に、2ヶ月間待ったをかけた。
「何をするんですか?」と不動産屋と建築業者は不思議な顔をして言った。
3棟のうち1棟を私が自由に使う。そこで大人の集まりをするので、他の2棟に居住していると気がねするから、その2棟を業者のモデルルームにしないかと提案した。
以前、見学した家が、オーナー承諾のモデルルームとして使われており、家賃はそっくり業者が支払っているのを聞いていたのだった。
この意外な提案に業者は嬉しそうだった。脈ありと睨んだ私は、もう一歩踏み出す。
新築した家は、電気・ガス・水道は使えても家財道具は何もなく空っぽの状態である。会合を開くには、食事の用意もあり、家電・家具が必要となる。そこで、家賃を安くするからレンタル品を用意して欲しいと頼んでみたのである。
私が希望したのは、冷蔵庫・電子レンジ・テレビ・ダイニングセットを2ヶ月間借りることであった。私の予想で約20万円くらいかなと思い家賃は5分の1でいいと話す。
業者の顔がほころんだように見えた。3分の1でもよかったのかも。
何もなかった部屋が、一揃いして客を迎え入れる態勢ができていた。
テレビ台も食器棚もテーブル3台、イス12脚もあった。
会合が始まって2か月間、13回延べ60名近くの人が集まった。同級生・ボランティア仲間・趣味のサークルなどの人だった。
コロナ禍のときで意図して欠席の人もいたが、皆久しぶりに会えたと感謝された。
2ヶ月後、荷物をすべて車に積み込んだとき、何もなかったもとの貸家に戻った。
振り返ってなごり惜しい思いにとらわれていた。この家は、すでに契約済になっていると聞く。
また、空っぽにして「大人の集まり」をやろうかなんて考える。
そのとき私はいくつになっているだろう……
山本ふみこさんからひとこと
夢のような大人の会合。「磯野昌子」の夢の描き方、算段のつけ方、実行力。憧れますね。
また、空っぽにして「大人の集まり」をやろうかなんて考える。
こう書いておきますとね、かなうものなのですよ。書くことの力を信じて、書いてゆきたいなあと、思わされています。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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