「さつまいもの天ぷら」横山利子さん
2024.09.302022年06月28日
山本ふみこさんのエッセー講座 第7期第4回
エッセー作品「奥は深いぞ」小坂美千代さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第7期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第4回の作品のテーマは「憂鬱」です。小坂美千代さんの作品「奥は深いぞ」と山本さんの講評です。
奥は深いぞ
たとえば「憂鬱」という文字を書く。
パソコンを使えば簡単だ。ところが手書きとなるとちょっと骨が折れる。
だいたい「鬱」は読めてもすらすらと書ける人など、そうはいない。
辞典を引いたところで「鬱」の文字は拡大鏡でも使わなければ、正確に写し書くことは難しい。
今どきはスマホで検索して、画面に触れて二本の指をキュッと動かせば、容易に大きな文字となる。まったく便利だ。
書くときも、小さなマスに表記するとなれば、文字の部位たちはゆずり合いながら、一文字を形成しなければならない。
「さあ、つめて!つめて!」「あなた、少し大きすぎるわよ。これじゃ一マスに収まらないわよ」なんて文字の部位たちの話し声が聞こえてきそうだ。
漢字には長い歴史があり、紀元前、中国で四つ目のある蒼頡(そうけつ)なる人が発見したという伝説があり、甲骨文字から始まり篆書(てんしょ)ができ、秦の始皇帝が隷書で文字を統一した後、草書、楷書と変化してゆく。
漢字には「六書(りくしょ)」という構成原理があり、一文字一文字意味を持っている。そして、人に顔があるように、文字も字面(じずら)という顔をもつ。
憂鬱の「憂」だが、うれい、おもいなやむ、心配する、の意味がある。
これに「亻」人偏(にんべん)を添えると「優」となる。おもいなやんでいても、人が隣に寄り添うとやさしくなれるのかもしれない。
キッチンまわりにも、「檸檬」「醤油」「牡蠣」など、読めるけど書けない文字がたくさんある。
冷蔵庫を開けると麒麟ビールが入っている。
今夜はよく缶に書かれた文字を見て、文字のうんちくでも話しながら飲むことにしよう。
山本ふみこさんからひとこと
文字や漢字への造詣の深い書き手です。造詣が深い、というのは素晴らしいことですけれど、時にうるさくなり、読者の共感を妨げます。
「奥は深いぞ」の素敵なのは、ぐっと身近な話も取り上げるところ。結びは、ことにいいでしょう?
「キッチンのまわりにも、「檸檬」「醤油」「牡蠣」など、読めるけどかけない文字がたくさんある……」
うまいなあ、と感心しました。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
現在、参加者を募集中です。申込締切は2022年7月4日(月)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」7月号の誌上とハルメク旅と講座サイトをご覧ください。