「種種雑多な世界」水木うららさん
2024.11.302020年12月18日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第3回
エッセー作品「おばあちゃんのアルバム」三澤モナさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今回募集した作品のテーマは「変わる」です。三澤モナさんの作品「おばあちゃんのアルバム」と山本さんの講評です。
おばあちゃんのアルバム
触るとプルンとして指をはねかえす赤ちゃんのほっぺ。ついよけいに触ってしまう。
この8月、私にとって4人目の孫が生まれた。
ずっと抱っこしていたいが、肩や腰にずしりと重みを感じる。新しい命と年老いていく命を対比する。この孫の成長をどこまで見届けられるのだろう……。グループホームで暮らす91歳の義母が、この4人目のひ孫に会える日はくるのだろうか……。
赤ちゃんの母である娘は、おばあちゃんがグループホームに入所するときに、一冊のアルバムをつくって荷物に入れた。
若くてとてもきれいなおばあちゃん。ボーリング姿のおばあちゃん。日本舞踊の衣装でスッと立つおばあちゃん。孫に囲まれて笑っているおばあちゃん……。素敵な何枚かを選んで小さなアルバムにしたものだった。
看護師として働く娘は、かつて、ある入院患者さんのアルバムを見せていただいて、ハッとしたことがあると語った。
ともすると、目の前の年老いた姿がその人のすべてのように見えてしまっていたこと。ときには、手のかかる困った老人と思ってしまったこともある。そのアルバムにおさめられた写真1枚1枚を眺めながら、「この人にも、こんなに若くて生き生きした時間があり、人生があった」という、ごく当たり前のことに気づかされたのだという。
それからは、患者さんの見方も変わり、看護師としての接し方も変わったのだと、しみじみ語った。
本当にそうだ。誰にも生まれた瞬間があり、一生懸命生きてきた歴史がある……当たり前なのに、心を動かされる娘の話だった。
アルバムは、大好きなおばあちゃんにも、こんな歴史があったことを忘れたくないし、施設の職員の方にも見てほしい、という娘なりの思いがこもったものだったのだ。
91年前には義母も赤ちゃんだった。ぴんとした肌をもち、かわいい四肢を懸命に動かし、可能性のいっぱいつまった存在として、周りを幸せにしていたときが確かにあったのだ。
山本ふみこさんからひとこと
長く、もやもやしていたことを、明確に示していただいたようで、うれしくほっとしました。作家の、看護師をされているお嬢さんにもお礼を申さなければ。どうもありがとうございます。
書いて伝えたい、書いて残しておきたい事ごとを、皆さんお持ちだと思います。このとき、どう伝えるか、どう残すかを考えて書かなければなりません。冷静に、しかし温かい気持ちで書くことです。これはなかなかむつかしく、わたしたちにとって共通の課題と云えるでしょう。
このたびの「おばあちゃんのアルバム」は成功例です。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在、雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで2021年2月から始まる第2期の参加者を募集しています。詳しくはこちらをご覧ください。
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