アメリカの遺骨の取り扱い方

2020年10月24日

火葬にした後の遺灰の取り扱いも多種多様!

火葬は、アメリカの葬儀業界の一番ホットなトレンド

アメリカ・ニューヨーク州に在住のライター黒田基子さんが、アメリカと日本の文化のギャップをお伝えします。土葬が多かったアメリカでも、最近火葬する人が多くなっています。しかし遺骨の取り扱い方は多種多様で、困ってしまう家庭もあるといいます。

リビングルームの宅急便の中身は、遺灰

初めて連れ合いの実家を訪ねたときのこと、リビングルームの片隅に宅配便の箱が置いてあるのが目につきました。何の気なしに「これは何?」と尋ねたところ「ああ、それは母の遺灰」と言われて仰天しました。

亡くなったときに本人の希望により献体したら、遺灰が宅配便で戻ってきたのだそうです。「どうしたらいいのか決められなくてまだそのままになってるんだ」とのこと。

アメリカではキリスト教の習慣により長年にわたり死者は棺のまま埋葬(土葬)(burial )されてきました。映画でときどき見掛ける棺に土をかけるシーンがアメリカのお葬式のイメージです。しかし最近はアメリカでも火葬(cremation)が増えてきています。50年前までは火葬されるアメリカ人はわずか4%でしたが、今や半数近くが火葬されています。

 

火葬はしたものの、遺灰をどうすべきかわからない

お墓
Image of Historic Old City Cemetery in Brownsville, Texas(shutterstock)

この数は徐々に増えたわけではなく、激増したのはこの15年ほどのこと。献体という特殊なケースに限らず、火葬を選ぶケースが増えているのです。その主な理由はコストだといわれています。火葬なら費用は土葬の半分以下で済むのだそうです。いくら広いアメリカといえども埋葬に必要な土地は高くつくのです。

ところがアメリカ人の間でも火葬が土葬にとって代わりつつあるという事実はあまり認識されていません。ですから遺灰をどうするかというスタンダードもなく、実際に家族が亡くなってから初めてどうしよう?ということになるのです。

日本なら遺骨は骨壺に収めて納骨するのが当たり前ですが、アメリカにはそもそも納骨という発想がありません。遺灰をお墓に埋葬したり納骨堂(columbarium)に納めたりすることもできますが、あまり一般的ではありません。先祖の墓参りという習慣も先祖代々の墓もないからです。

 

遺灰をどうするか、選択肢は多様にある

海に散骨するイメージ
海に散骨するイメージ

遺骨ではなく遺灰(ashes)というように、アメリカの火葬は焼いた直後に遺骨をすりつぶすので、粉状の灰になって戻ってきます。ですからまず考えられるのは散骨です。

ひと口に散骨といっても、海や山にまく、砂浜の砂や庭の土に混ぜるなどのさまざまな方法があります。ユニークなところでは、風船に入れて飛ばしたり、花火とともに打ち上げたりするサービスもあります。

遺灰を入れるurn(アーン/遺灰壺)のデザインも千差万別で、中には故人に似せた3D フィギュアまであります。また、遺灰をアクセサリーや砂時計にしたり、絵の具に練り込んで肖像画を描いたりして遺族の身近に置く方法もあります。こうした選択肢が多い分、迷いも多いというわけです。

さて、宅配便の箱に入っていた連れ合いの母親の遺灰ですが、その後ごくありきたりな方法で裏庭の樹の根元の土に混ぜることになりました。今は土に返り、庭木となって家族を見守っています。

 

パソコンに向かったままの死体は……

アメリカで新型コロナ流行による自粛生活が始まる直前、2月末に連れ合いの父親が96歳で亡くなりました。生涯にわたって夜型生活の人でしたが、その夜もパソコンに向かっていて、明け方に亡くなっているのが発見されました。

高齢とはいえ突然死ですから警察や消防が呼ばれ、本人が献体を希望していたので、献体を扱う業者が呼ばれました。が、家族がお別れをするまでは遺体はそのままにしておくからと言って献体業者はいったん帰っていったそうです。アメリカでは献体の場合、遺体が搬送されると数か月後に遺灰になって戻ってくるまで会うことはできないからです。知らせを聞いて私たちは昼頃に駆けつけたのですが、遺体に対面して仰天しました。

本当に「そのまま」になっていたのです。デスクに座ってパソコンの前につっぷしたまま。まるで殺人現場。日本ならふとんに寝かせてお線香の一つもあげるところです。お線香はともかく、せめてベッドに寝かせるくらいは、と思いますが、「そのまま」と言ったらほんとに「そのまま」。その姿は、亡くなる直前まで元気でパソコンに向かっていた大往生ぶりを物語ってはいましたが。

それからわずか数週間で、ニューヨーク周辺には新型コロナの犠牲者の遺体があふれ、献体の受付も停止されました。あと、数週間遅かったら遺体にお別れどころか火葬の手配にも困ることになっていたかもしれません。当初は遺灰が戻ってくる頃に親族一同が集まってお別れの会を行う予定でしたが、これは今もコロナで延期されたまま。遺灰は戻ってきましたが、これをどうするかはまだ決まっていません。何よりも、お別れの会ができる日常に早く戻りたいものです。
 

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黒田基子
黒田基子

くろだ・もとこ 1960(昭和35)年、東京生まれ。ライター。88年よりアメリカに留学し、30年近くニューヨーク郊外で暮らす。ブログ「ニューヨークsuburban life」東海岸の暮らし、食べ物、ときどき政治https://nyqp.wordpress.com/

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