「種種雑多な世界」水木うららさん
2024.11.302020年10月05日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第1回
エッセー作品「女優畑」池澤礼子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーを、5作品ご紹介します。募集した作品のテーマは「音」です。池澤礼子さんの作品「女優畑」と山本ふみこさんの講評です。
女優畑
朝七時、廊下をスタスタと歩く音とともに魔女が登場する。スイスイとモップで床を掃除しながらやってくるのである。
朝食前に庭先の菜園に足を運ぶことが習慣であり、台車にかごをのせ大きなガラガラ音を出しながら出かけて行く。野菜の成長を確認し、虫とり草とりをして収穫した野菜を持って、またガラガラという音とともに戻ってくる。腰が曲がっているため台車は必需品。
しかしいったん歩きだすやいなやその速さに驚くばかりで付いていくのがやっとである。作業中は常に台車と一緒で、それが目印となってすぐに居場所がわかるようにもなっている。ガラガラと歩き回る音は屋敷内によく響き、それが母の健康のバロメーターであり、その音を聞けば、家族は安心していられる。
魔女は私の母である。
特技は多数あって、どれも娘の私を越えるものばかりである。草むしりはプロ並で、特に芝生の草とりは毎年やってくる造園業者の方からも誉められる程である。
五種類のカマを使い分け根気強くパーフェクトを目指す作業ぶり。
「実成(みな)り草を放っておくと三十年は苦労する。」
が口ぐせで、私が除草した後もう一度しなおすことなど日常茶飯事である。母のおかげで広い庭は、「まるで公園のようですね。」菜園は「女優畑だ。」とまわりから言われる。
晴れた日は立ちガマのカリカリ、芝生の中は先のとがったカマでスッスッ、笹竹はのこぎりガマのガリガリという聞きとれない程の音ではあるが、すべて違って聞こえてくる。そんな姿をま近に見ている私も、いつの間にか三種類のカマを使い分けようになっていた。
今年九十歳になった母は、やはりうるわしの魔女である。
山本ふみこさんからのひとこと
お母さまを「魔女」と位置づけるところが、まずおもしろいです。
これによって、お母さまとのあいだに距離が生まれます。描こうとする登場人物と書き手のあいだには距離が必要なのですが、登場人物が近しければ近しいだけ、間(ま)をとるのがむずかしくなります。登場人物の全体像を描こうとせず、作品に必要なことだけを書くことも大事です。そこはきっちり書きましょう。するとどうでしょう、人物がくっきり立ち上がります。
それにしても、「女優畑」ということば、よく生みだされましたね。 ふ
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次回の参加者の募集は、2020年12月10日(木)に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
■エッセー作品一覧■
- 山本ふみこさんエッセー講座(通信)参加者の作品#1
- エッセー作品「ゆっくり歩く」葵トモエさん
- エッセー作品「蝉の声」むらかみちかげさん
- エッセー作品「猫の音」高嶋美行さん
- エッセー作品「悠々と逃げる」勝矢和代さん