「種種雑多な世界」水木うららさん
2024.11.302023年07月25日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第6期第4回
エッセー作品「将来がない」和田和香子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「なぜ」です。和田和香子さんの作品「将来がない」と山本さんの講評です。
「将来がない」
ここしばらく、かかとの痛みを感じるようになり、久しぶりに整形外科で診てもらった。
レントゲンには、かかとにチョコンと小さいトゲのようなものが写っていた。
中年以降の女性に多くみられる症状らしい。
柔らかい底のクツを着用したり、長時間歩かないなど、工夫をしながら、様子をみていくことになった。
もう10年来付き合ってきた、ひざ、肩の痛みとともに、かかとの痛みとも付き合っていくことになった。
今では、何か気になるところがあれば、すぐ整形外科で診てもらうのだが、初めてひざの痛みを感じるようになった時は、なじみがない上、すぐに行こうと思えない所だった。
そのうち痛みも無くなるだろうと甘い考えもあったが、なかなか治らないので、重い腰を上げて、インターネットで探した。
口コミで、先生の評判やスタッフさんの評判も良く、行きやすい場所でもあったので、今も通っている病院に決めた。
でも、まさか、ひざの痛みを診てもらうために行った病院で、今も何か始める時に背中を押してくれる言葉に出会えると思っていなかった。
30人ほど座れるソファーも、ほとんど座っていて、何人かの若い方は立って待っていた。
杖を持つ方も多く、座っている方の大半は、高齢だった。
レントゲンを撮り、診察室に呼ばれると、やさしそうな70才くらいの先生がいらした。
結果は、加齢による「変形性膝関節症」ということだった。
50代半ばであったが、加齢による、という言葉に少しショックを受ける。
そして、しばらく膝にヒアルロン注射を打って様子をみましょうと言われた。
膝に注射を打つことも不安だし、しばらくとは、どれくらい通うのだろう。
痛みのあるうちは、運動してはいけないのだろうか、などと頭に「?」がうかんだ。
「先生、将来フラダンスなどやりたいのですが、痛みが無くなればやっていいですか。」
と、無知と不安から思わず質問してしまった。
すると、やさしい口調だった先生が、とつぜん強い口調になった。
「あなたに将来はない。」
「えっ!!私に将来がない?」
心の中で叫ぶ。
「若い時思っていた将来は今なんですよ。
やりたい事があるのなら、今すぐ始めなさい。
痛みも強い時は、無理してはダメだけれど、なるべく体や足は動かして 筋肉を落とさないように。」
と、答えをおしえてくれた。
それほど、遠い先の事を思って将来という言葉を使ったわけでもないけれど、目からうろこが落ちるような、納得の言葉だった。
自分の人生の位置。覚悟。勇気。深い言葉をかけてくれた先生に感謝だ。
あれ以来、「将来はない!」と伝え、なぜそんな事言うのかしらという顔と、「何だ、良い話じゃない!」と納得してくれる顔が見たくて、幾度も、いろいろな人に話している。
おもしろ話のネタのように話すなと、先生に怒られそうだけれど。
山本ふみこさんからひとこと
読みながら途中「え?」と思いました。
書き手と医師の意図するところを読みきれなかったからです。
はい、読み終えて、ゆっくり感動しました。
好きです、こういう辛口だけど思いやりのあるアドバイス。
ひとには、どんな場面においても「覚悟」が必要ですもの。わたしも自らに云い聞かせましたとも。
「将来はない!」
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集の詳細は、雑誌「ハルメク」2023年8月号とハルメク365イベント予約サイトをご覧ください。
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