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- 映画「ドライブ・マイ・カー」と朝ドラの意外な共通点
コラムニストの矢部万紀子さん(61歳)による、月2回のカルチャー連載。アカデミー作品賞にノミネートされた映画「ドライブ・マイ・カー」を取り上げます。朝ドラウォッチャーでもある矢部さん放送中の「カムカムエヴリバディ」に見た、とある共通点とは?
「ドライブ・マイ・カー」アカデミー受賞なるか?
日本時間の3月28日、第94回米アカデミー賞が発表されます。濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」は邦画として初の作品賞を取れるのか、大注目です。
見ました。179分という長い上映時間ですが、あっという間でした。この感覚、「タイタニック」(1997年、194分)を見た時と同じでした。「タイタニック」は98年のアカデミー賞で作品賞他、計11部門を受賞しました。だから「ドライブ・マイ・カー」もいけるかも。というのは少々短絡的かもしれないですが、とても良い作品でした。
テーマは死、だと思います。残された者の後悔。それを見つめていく物語と言い換えてもいいのではないでしょうか。
主人公は俳優であり演出家の家福悠介(西島秀俊)。帰宅し、脚本家の妻・音(霧島れいか)が亡くなっているのを見つけます。「今晩帰ったら、少し話せる?」と妻に言われ、話題に心当たりのある家福はそれを避けるべく、わざと遅く帰ったのです。早く帰っていれば、妻を救えていたかもしれない。それが家福の直接的な後悔です。
家福を西島秀俊さんが演じ、みさきを演じているのは三浦透子さんです。三浦さんは現在放送中の朝ドラ「カムカムエヴリバディ」(NHK)で、ヒロインの親友・一恵を演じています。小学生時代に「百恵の100分の1」と男子にはやされ、高校生になってからは聖子ちゃんカットで登場した一恵が「ドライブ・マイ・カー」のみさきと気付いたのは、登場からしばらく経ってからでした。
三浦透子さん演じる「親友」は朝ドラの約束から外れている
朝ドラが大好きで、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』という本も出した私ですが、一恵という親友は朝ドラのお約束から少しはずれています。大抵の親友は、ヒロインと違うキャラとして「しっかり者」です。一恵もその範疇ではあるのですが、寂しさをまとっている感じがするのです。
一恵は大切に育てられたお嬢さんで、寂しいはずはありません。でも考えていることは誰にも言わず、口にするのは結論だけ。そういう感じを与えます。役者さんの力量だと思いつつ、一恵って大好きだなーと眺めていて、「あ、『ドライブ・マイ・カー』のみさきだ」と気付きました。
みさきと一恵に共通するのは、画面の向こうの世界を自分ごと化させる力だと思います。
「ドライブ・マイ・カー」の家福とその妻は、芸能界で生きる美男美女同士という設定です。それゆえ2人のあり様は、どこか「お話」のようでもあるのです。それがみさきという人物を得ることで、だんだんと普遍性を帯びてきます。見終わって、大学生の時に飼っていたカナリアの死んだ日のことを思い出しました。
メスでした。つがいにしてやることもせず、ずっと1羽でカゴにいました。きれいに鳴いて愛でられることも、家族と過ごすこともない人生。そう思うと泣けました。この鳥の一生を私が決めてしまったという後悔でした。それから40年余、大切な人が亡くなるたびに、さまざまな後悔がわきました。映画で描かれた死と私。つながったのです。
今日的な朝ドラと映画が伝えるメッセージ
そして「カムカムエヴリバディ」は、とても今日的な朝ドラです。3世代が物語をつないでいくのですが、そのヒロイン像にやるせなさがあるのです。大正から平成までが描かれていますが、令和という時代を思わずにはいられないのです。コロナ禍で明日が見えない日々を、人はどう生きていくのか。それを描いているから、「ひよっこ」(2017年)以来の佳作だと大評価しています。
今の3代目ヒロインは昭和から平成を生きています。だから、お気楽さは否めません。その分を補っているのが、一恵です。彼女の視点が示唆的なのです。3月8日の放送では、自分よりたぶん10歳近く年上の男性の恋心を「アホですね」と言っていました。達観したような、でも包容力を感じさせる、そんな台詞回しでした。未来が見通せなくても、人は強さと温かさがあれば生きていける。そんなメッセージでは、と思いました。
アカデミー賞に戻ります。21年(第93回)の「ノマドランド」、20年(第92回)の「パラサイト 半地下の家族」と作品賞は「格差と分断」を描く作品が続いています。「ドライブ・マイ・カー」はその系譜ではないことが、かえって良い気がします。しかも三浦さんという役者が、日本語を話さない人たちにも「自分ごと化」させてくれると思うのです。発表の日が待ち遠しいです。
矢部 万紀子
1961年生まれ。83年朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』(幻冬舎新書)
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