バチェラー4!婚活が演じさせた幻想の女性像が憂鬱
2022.01.152022年01月29日
桂宮治さんに目を付けていた落語ファンの筆者が語る
「笑点」新メンバー桂宮治さんがあまりにも適任な理由
コラムニストの矢部万紀子さん(61歳)による、月2回のカルチャー連載です。10年以上の落語ファンでもある矢部さんが、化粧品のトップセールスマンという異色の経歴を持ち、「笑点」新メンバーに抜擢された桂宮治さんについて熱く語ります。
落語家の桂宮治さんをご存じですか?
落語が好きになって、10年以上になります。3人の落語家を「追いかけるリスト」に入れていたのですが、3年ほど前に桂宮治(かつら・みやじ)さんという若手(二つ目)を加えました。とにかく明るく、真剣勝負。そんな芸風の実力派。力が認められ、2021年2月には先輩5人を抜いて真打ちに昇進。披露興行にも行きました。直近では21年10月の「二人会」に行き、22年2月の「独演会」も行くべくチケットを買っていました。
そうしたら、なんと。宮治さん、「笑点」(日本テレビ系)の新メンバーになったのです。発表されたのが22年1月1日、1月23日が初めての出演でした。早速見ました。そして、制作サイドの狙い通りの出来栄えだったと感じました。
10月の二人会は、春風亭一之輔さん(私の「追いかけるリスト」の1人です)との会でした。一之輔さんは11年、21人抜きという大抜擢で真打ちに昇進したすごい人で、「最もチケットの取れない落語家」とも言われています。現在、44歳です。
対する宮治さんは45歳。「笑点」でも話題になりましたが、化粧品のトップセールスマンから30歳で落語界に転身した人です。結果、一之輔さんは「仕事上は大先輩、年齢は年下」という関係になっています。
宮治さんは落語の本題に入る前、一之輔さんをいじり倒しました。緊急事態宣言が解除されたばかりの昼の公演でした。
終わったら飲みに行こうと一之輔さんに誘われた。出張の予定があるので断ったら、すごくがっかりされた。一之輔さんは自分になついてしょうがないーー。そう言って、こう締めました。「11人抜きなんてするから、同期とか先輩とかに友だちがいないに違いないんですよ、あの人は」
爆笑が起きました。たぶん当たっていることをケラケラっと語るので、全く嫌味がないのです。一之輔さんが舞台に「このやろー」と言いながら飛び出してきて、さらに大爆笑となりました。
宮治さんは人の懐に飛び込むのが上手なのです。そして先輩にも臆せず、ツッコミを入れていく度胸があります。愛嬌たっぷりなので、それが笑いに昇華します。裏打ちしているのが、確かな語りの腕です。
日曜の夕方を彩る「笑点」に必要なのは明るさ
追いかけて間もない頃に聞いた「死神」が忘れられません。題名通りの怖い話で、最後に主人公がろうそくにフッと息を吹きかけます。その瞬間、ゾワッと鳥肌が立ちました。他の人でも聞いたことのあるネタでしたが、そんなことは初めてで、「この人すごいなー」と実感しました。
と、素人の私が思うのですから、「笑点」制作陣が目をつけるのも当然です。度胸と愛嬌と確かな腕。「笑点」の必需品3点セットがあるのだから、居並ぶ大先輩たちに怯むことなく堂々といられる。そう見込まれたに違いありません。というのも宮治さんの前任の林家三平さんは、先輩方を前に困っている様子がありありだったのです。
51歳の三平さんは、16年から出演していました。父は「昭和の爆笑王」故・初代林家三平です。その名を襲名した以上、比べられるのは当然です。あれこれ言われる中での「笑点」出演、大チャンスでした。開き直って「アラフィフですが、おぼっちゃま」というキャラに徹したらよいのになーと思っていましたが、どうもおどおどしていました。そうこうしているうちに司会の春風亭昇太さんから指名される回数もだんだん減り、三平さんは暗くなっていきました。日曜の夕方を彩る「笑点」、欲しいのは明るさです。
その点、宮治さんは、すごく明るいです。遅れて入った落語の世界、怖いものはない、という感じで、自由奔放な子犬のようなキャラクターだと常々思っていました。だから少しくらいすべったところで、キャンキャンとはしゃぎながら立て直してくれる。私が思うのですから、制作陣はとっくに思っていたことでしょう。
林家たい平さんとのキャラ被りが心配
メンバー入りを聞いて一つ心配したのが、宮治さんに一番年の近い(といっても57歳ですが)林家たい平さんとキャラが少しかぶることでした。「笑点」登場初回の23日の放送ではたい平さん自ら、「髪型からふっくらした顔つきも、なんとなく似ちゃってるんですよね」と言っていました。「でも、僕が本当に似てるのは、ゴルゴ松本です」と笑いを取り、そのことで彼は宮治さんを手強い相手と見ているんだなと感じました。宮治さんは早速、隣の席の三遊亭好楽さん(75歳です)にツッコミを入れ、度胸の良さを見せていました。
何度も笑いをとり、順調すぎる滑りだしだった宮治さん。ネットなどでは「ひな壇でも勝負できる」「旅番組でも仕切れる」という声もありました。うなずきつつ、あんまりメジャーになりすぎないでほしいなー。そんなふうに思う、アンビバレンツな私でした。
矢部 万紀子
1961年生まれ。83年朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』(幻冬舎新書)
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