アカデミー賞3部門にノミネート

映画レビュー『COLD WAR あの歌、2つの心』

公開日:2019.06.10

50代以上の女性におすすめの最新映画情報を、映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今月の1本は第91回アカデミー賞外国語映画賞のほか、監督賞、撮影賞にノミネートされ多くの人の心をつかんだ『COLD WAR あの歌、2つの心』です。

『COLD WAR あの歌、2つの心』

愛さずにはいられない、男と女の刹那が胸をつく

モノクロ映画は小難しい。
そんな先入観を取り払ってしまったのが、ポーランドの気鋭監督パヴェウ・パヴリコフスキだ。すでに『イーダ』(2013年)でポーランド映画として初めてのアカデミー賞外国語映画賞を受賞しているが、本作品では、外国語映画賞のみならず、監督賞、撮影賞にノミネート、多くの人の心をわしづかみにした。

物語の始まりは、1950年代のポーランド。ピアニストで芸術監督のヴィクトルは、オーディションで野心的な少女ズーラに出会い魅了される。すぐに恋人同士になった二人。やがてベルリン公演の際、ヴィクトルは自由を求めて西側に亡命する計画を練るが、約束の場所にズーラは現れなかった。数年後、パリでジャズ・ピアニストとして生活しているヴィクトルの前に、ズーラが現れる。お互い違うパートナーがいる身ながら、二人は再び愛し合う……。

自由のない時代を背景としながらも、この物語の本質はラブストーリーである。気性が激しく自我の強いアーティストである二人は、何度も“違う道”を選びながらも、強く惹かれ合い、本当の意味で別れることができない。愛なしで合理的に生きようにも、生きられないのだ。

腐れ縁とも呼べる運命的な絆で結ばれたこの男と女の姿は、監督の両親からインスピレーションを得ているという。お互い新しいパートナーがいながら、くっついたり別れたりを繰り返す。

そうした男女の恋愛の不条理を、監督は冷戦下で自由なく不条理を甘んじて受け入れなければならなかったポーランドの人々と重ね合わせて描く。

冒頭に登場するポーランドの民謡は後にも印象的に使われるが、時代が流れ、リズムや歌い方が変わっても、人の本質というものはそう変われるものではない。恋人たちの刹那が心に迫るエモーショナルな一作だ。

COLD WAR あの歌、2つの心
冷戦下のポーランド、ピアニストのヴィクトルは、民族舞踊団のオーディションで
野心的な少女ズーラと出会い恋に落ちた。やがて自由を求めて西側に亡命を決意する。

監督/パヴェウ・パヴリコフスキ
出演/ヨアンナ・クーリク
  トマシュ・コット
  アガタ・クレシャ
  ボリス・シィツ
  ジャンヌ・バリバール
  セドリック・カーン他
製作/2018年、ポーランド・イギリス・フランス
配給/キノフィルムズ
6月28日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷他、全国順次公開

今月のもう1本『アマンダと僕』

とある事件でシングルマザーの姉を失い、残された7歳の姪・アマンダの面倒を見ることになったダヴィッド。24歳の未婚の青年に、果たして父親代わりが務まるのか。自問自答する中、決断しなければならない期日は迫る。

大切な人を失い深い喪失感を抱えながら、青年と少女が厳しい現実を乗り越えてく様を、繊細な感性でつづった珠玉のヒューマン・ドラマ。監督は新鋭のミカエル・アース。

(C)2018 NORD-OUEST FILMS-ARTE FRANCE CINEMA

監督・脚本/ミカエル・アース
出演/ヴァンサン・ラコスト
  イゾール・ミュルトリエ
  ステイシー・マーティン他
製作/2018年、フランス
配給/ビターズ・エンド
6月22日(土)より、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA 他、全国順次公開

文・立田敦子
たつた・あつこ
映画ジャーナリスト。雑誌や新聞、webサイトなどで執筆やインタビューを行うほか、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。共著『おしゃれも人生も映画から』(中央公論新社刊)が発売中。

※この記事は2019年7月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」に掲載された内容を再編集しています。


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