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- 玉城デニー沖縄県知事誕生から考える、基地負担の平等
2018年9月30日の沖縄知事選では、米軍普天間飛行場の辺野古移転へ反対を訴える玉城デニー氏(58)が当選しました。今回は、沖縄知事選から米軍基地の本土引きとりについて考えます。基地は「沖縄」の問題で、自分に関係ないと思っていませんか?
翁長知事が、命を削って全うしようとしたこと
9月30日に投開票が行われた沖縄知事選は、「辺野古移設反対」を主張していた翁長雄志知事が8月に急逝したことに伴う選挙戦でした。
そして、米軍普天間飛行場の辺野古移転へ反対を訴える玉城デニー氏(58)が、過去最多となる39万6632票を獲得し、自民党などが推薦する佐喜真淳氏らを破り当選を果たしました。この結果は、「これ以上、県内に新しい基地は作らないでほしい」という沖縄県民の切実な願いの現れと見て取ることができます。
翁長知事は、「イデオロギーよりアイデンティティー」をスローガンに、政府が進めようとする米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設に真っ向から反対し、普天間飛行場の「県外移設」を主張。「沖縄県民のために闘う知事」とも言われていました。
故・翁長知事の妻、樹子さん(62)は、膵臓がんに体をむしばまれた翁長知事が生前、命がけで貫いてきた信条について、沖縄タイムスのインタビューで、こう語っています。
「県民が辺野古の基地はもうしょうがないということになれば、未来永劫(えいごう)沖縄に基地を置かれたままになる。それでいいのでしょうか。(夫である)翁長は命をかけて、そこを問い続けた・・・・・・」
(2018年9月1日 沖縄タイムスプラス「『翁長雄志は命がけでした』妻樹子さんが語る壮絶な最期」より)
その翁長知事の遺志を引き継いだ玉城氏は9月30日、当選確実の報を受け支援者を前に、こう語っています。
「翁長知事が『これ以上もう新しい基地は造らせない』という言葉を、思いを、命を削って全うしようとしたことが、県民に宿っていた。その気持ちが私を後押ししてくれた」
(2018年10月1日朝日新聞朝刊「翁長氏の遺志継ぐ 玉城氏、「辺野古阻止」で結束」より)
その際、印象的だったのは、玉城氏が当選の喜びを「カチャーシー」という沖縄の伝統の踊りで表現していたことでした。カチャーシーとは沖縄の手踊りのことで、「かき混ぜる」がその語源です。喜怒哀楽をかき混ぜて、人々と喜びを分かち合うという意味が込められています。玉城氏は、この踊りを通じて、思想信条を超えて沖縄県民が一つとなり辺野古移設を阻止していくことへの思いを分かち合っているかのようにも見えました。この印象的な踊りは動画で見ることができます。
(2018年9月30日 朝日新聞デジタル「当選玉城氏、喜びのカチャーシー『翁長さんの礎継ぐ』」)
沖縄戦、基地の集中、常に抑圧される沖縄
故・翁長知事、そして玉城新知事に引き継がれた沖縄県民の思いとは、簡単にいうとこういうものでした。
沖縄は、世界史上でもまれにみる悲惨な「沖縄戦」の現場になったほか、戦後はアメリカの軍事支配下に置かれることになりました。本土では憲法9条のもとで平和が維持されてきたのに、沖縄では「全国の米軍専用施設の74%が集中」し、ベトナム戦争など米軍の行う戦争に利用されてきました。
加えて米軍からの少女への暴行や、騒音、オスプレイの事故、環境への悪影響などさまざまな弊害が起き続けているにもかかわらず、日本政府は根本にある基地負担を解消しないまま沖縄を抑圧し、差別し、苦しめてきました。
本来、基地の問題は沖縄だけの問題ではなく、日本の安全保障の問題であるのだから、基地は沖縄県内でたらい回しにするのではなく「県外移設」をし、日本全体で負担をしてもらいたい――。
しかし、日本政府をはじめ沖縄の在日米軍の駐留維持を主張する人々は、次のような論理で沖縄に基地を置くことを主張してきました。
沖縄の基地は日米安保条約に則って置かれているもので、沖縄の加重な負担はアメリカの意向であって日本の責任ではない。また沖縄に負担をかけているにしても、沖縄に基地があることで軍事的にも地政学的にも中国や北朝鮮などの東アジア諸国有事の際に対応しやすく、また抑止力となることができる。沖縄に基地が集中するのは、しょうがないことだ――。
しかし、沖縄への基地偏在が固定化してきた背景には、アメリカの地政学的な軍事的事情というよりは、日本政府の「本土」の利益を最優先する政治的な事情であることを指摘する声もあります。
その一人、東京大学大学院の高橋哲哉教授は、「沖縄の米軍基地 『県外移設』を考える」(集英社新書)の中で、例えば1995年の米兵少女暴行事件後に普天間基地返還交渉が行われた際には、アメリカ側が「撤退」や「大幅削減」「本土移設」の選択肢を検討していたにもかかわらず、日本政府が政治的な理由からそれを拒否したがために、普天間飛行場の県内移設へと話が収束し、結局、沖縄県内に基地を留めることになっていったことを明かしています。
また著書には、かつて民主党の鳩山由紀夫代表が沖縄県民に県外移設の選択肢を示したものの、候補地の名前があがった徳之島で反対運動が起きるなど、やはり政治的な要因によって実現することができなかった経緯なども記されています。
今、問われているのは本土の私たち
沖縄の基地問題は本来、沖縄だけ、また日本政府の問題だけではなく、日本に住む国民一人ひとりが考えるべき事柄です。にもかかわらず、「沖縄の問題」として他者化され、日本国民全体の問題として考えられていません。
内閣府の「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」(2015年1月)では、「日米安全保障条約は日本の平和と安全に役立っている」と思う人が82.9%を占めています。また日本の安全を守るためには、「現状どおり日米の安全保障体制と自衛隊で日本の安全を守る」と答えた人も84.6%に達しています。
国民の8割以上が安保条約を必要と考えるならば、「これ以上、沖縄に新しい基地は作らないでほしい」という沖縄県民の思いを、日本全体が「わがままだ」というふうに批判的に捉えることは、あってはならないはずです。日本の国民全体が沖縄県民の思いを真摯に受け止め、日本の基地や安全保障をどうしていくかということを、より現実的な視点で考えていくべきでしょう。
こうした中で、沖縄に集中する基地の問題を「関係のないもの」として無関心のままフタをせず、本土にいる自分たちの問題として真剣に考えていこうとする「基地引き取り運動」が活発化しています。
まだ小さな動きに限定されてはいますが、大阪や福岡、東京、新潟、長崎などで、沖縄に集中する米軍基地を本土で引き取りを呼びかける団体「辺野古を止める! 全国基地引き取り緊急連絡会」が、活動を繰り広げています。
メンバーたちは、「基地を沖縄に押しつけている現実を無視せず、自分たちの問題として考えてほしい」と訴えています。(2017年5月14日毎日新聞「沖縄基地 引き取りへ連絡会 東京など5都道府県の団体」より)
こうした運動は「軍事力を認めるもの」として、反戦平和運動推進者の中には反対している人々もいます。もちろん、平和を守る目的で軍事を縮減しながら基地をなくしていくことは理想ですが、戦後の反戦平和運動の結果を考えると、憲法9条を守りながら基地に反対を訴え続けるだけでは、沖縄に基地が集中しているという現実は解消できないように思えます。
原発の問題が福島県だけの問題に還元されないように、基地問題も沖縄県だけの問題ではありません。翁長知事の遺志を受け継いだ玉城新知事の誕生という選挙結果は、すべての人に「沖縄の基地問題」を自分ごととして捉えることの意味を投げかけているのだと思います。
今、基地問題に対する姿勢を問われているのは、沖縄の県民というよりは、本土に住む私たちのほうなのです。
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