【新型コロナ】海外在住の日本人からの緊急メッセージ

「人を見たらコロナと思え」ニューヨークの状況は

公開日:2020/04/07

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アメリカ・ニューヨーク州に在住のライター黒田基子さん(60)が、アメリカの暮らしを伝えます。感染者発覚から1か間で、1日の死者数が500人を超えたニューヨーク州。市民の生活はどうなっているのか、明日は我が身となる日本へのメッセージです。

ニューヨークの町並み

食料の買い出しにも神経をとがらせる必要がある

3月25日、チェルシーにあるスーパーマーケットに並ぶ人々の様子
3月25日、チェルシーにあるスーパーマーケットに並ぶ人々の様子

自宅待機令が出ている中、1週間ぶりにスーパーに買い出しに行きました。家の周りの散歩以外に許されている外出は食料調達くらいなので、外出も1週間ぶりです。一時は買いだめに殺到した人々で混雑していたスーパーやコストコも今では人の数もまばらです。

それでもどこの店も社会的距離が十分に取れるように、店内の人数を極端に制限しているため、店の外には順番待ちの列。6フィート(約180センチ)間隔で引かれた線に沿って並び、一人が出てくると一人が入れる仕組みです。店内に入っても、うっかり商品の棚に補充している店員さんに近づいてしまうと「6フィート空けてください」と注意されます。

狭い通路で反対側に人が見えたら、すれ違わないように経路を変えなければなりません。一方通行の経路を決めている店もあるので、買い忘れをしないように緊張します。帰ってきてからがまた一仕事です。手を念入りに洗い、買ってきた食品のパッケージは貴重な除菌シートで一つずつ拭いて冷蔵庫や棚にしまい、ドアノブや冷蔵庫のドアを消毒し、また手を洗い……と、キリがありません。

人を見たらコロナと思え、一歩外に出たら、あらゆるものがウイルスに汚染されていると考えろ、というのが、いつの間にか常識になってしまいました。もはや食料の買い出しも命がけ。まるでSF映画の世界に生きているような気分です。

「新型コロナ」は、誰もが死に至る病という認識に

セントラルパークに設営された病院「Samaritan’s Purse field hospital」
セントラルパークに設営された病院「Samaritan’s Purse field hospital」

今、ニューヨークでは新型コロナウイルスに感染して重症化したら命が危ないと、みな本気で思っています。ニューヨーク州で最初の感染者が確認されてからわずか1か月ちょっと。4月4日現在のニューヨーク州の感染者数は11万3706名、死者数は3565名。

4月3日に至っては、一日で死者数は500人を超えています。ニューヨーク市内の病院には、収容しきれない死体のための冷凍トラックが横付けされ、病院の外には救急患者用のテントが設営されて、まるで野戦病院のようです。

日本と違い、医療費がべらぼうに高いアメリカでは、もともとインフルエンザや風邪程度で医者に行く人はあまりいません。さらに新型コロナの感染が広がり出してからは、呼吸困難を伴う重症レベルの患者だけしか病院では受け入れてくれなくなりました。

それでも患者はあふれ返り、医師や看護婦のための防護服やマスクは圧倒的に足りず、重症患者の命をつなぐ人工呼吸器の数もこのままではあと数日で底をつくと報道されています。人工呼吸器が足りなくなったら患者は死を待つだけです。
 

「対岸の火事」だった3週間前。今、事態は深刻さを極めている

新型コロナで延命の肝となる人工呼吸器


実はこの「新型コロナで一番怖いのは、人工呼吸器の不足」ということは2月頃から専門家が指摘していました。

それは「人工呼吸器は1台が自動車と同じくらいの値段だから、どの病院も通常使用される数しか持っていないし、簡単に買えるものでもない。そこに通常の何倍もの肺炎患者が押し寄せたら現場はパニックになる」というものでした。まずイタリアでその通りのことが起きて、今ニューヨークでも同じことが起き始めています。

こうした専門家の指摘があったにも関わらず、2月にはアメリカではコロナウイルスはまだ対岸の火事でした。2月末の時点で、アメリカで確認された感染者数は16名。ニューヨークにもいずれ感染者が出ないはずはない、と誰もが思っていましたが、まだ身近な問題にはなっていませんでした。

ニューヨーク州初の患者が確認されたのが3月1日。「ああ、やっぱり」とは思ったものの、さほど深刻にとらえる人はおらず、通常の生活が続いていました。ニューヨーク州の感染者が89人になった3月7日、クオモ州知事が緊急事態宣言を出しました。しかし、一般的にはまだ手洗いを徹底すれば大丈夫くらいの感覚でした。

3月12日には、500人以上のイベントの中止とブロードウエイの閉鎖が決まり、学校も次々と休校に。この時点で、人々がいっせいに買い出しに走り、コストコやスーパーマーケットが大混雑になりました。

今考えれば、人ごみの中での買い物などまるで自殺行為で、もはやそんな状態のところに出かける人は誰もいません。現在の厳しい人数制限をしたスーパーですら怖くて行けない、という人も多くいます。でもわずか3週間前には誰もそんな危機感は持っていなかったのです。新型コロナは潜伏期間が長いので、このころ感染していた人たちがその後の感染者急増につながったことになります。

 

ニューヨーク州の感染者は、6日間で約14倍 に増えた

 

4月2日時点のニューヨーク(shutterstock)
4月2日、人通りのないニューヨークの町並み

その3月12日に、私はたまたま歯医者に行ったのですが、歯科衛生士が「サージカルマスクの在庫がほとんどなくて、注文しても30枚しか送ってこないのよ。うちは8人もいるのにどうしろっていうのよ」と怒っていました。

既に医療機関では基本的な装備が足りなくなっていたのです。その翌日、アメリカ歯科医師会は緊急治療を除いて全歯科医休業という通告を出しました。私の歯は応急処置をして何日か様子見ということになっていたのですが、もう当分は我慢するしかなくなりました。

通常の診療をやめたのは歯科だけではありません。医療機関には、激増するコロナウイルス感染者を受け入れられるよう、緊急性のない手術や治療はすべて延期という通達が出ました。つまりとりあえずすぐ手術をしなくても死なないケースは、無期延期ということです。多くの人が今も体に爆弾を抱えたままの不安な状態で過ごしています。

最初の感染者発覚から2週間。3月14日にはニューヨーク州の感染者は613人となり、最初の死亡者がでました。このあたりから感染者は爆発的に増え始め、日に日に緊張感が高まっていきました。3日後、17日には州内感染者は約4倍の2382人となり、ニューヨーク市長が市内の飲食店にテイクアウトを除いてすべて閉店という指示を出しました。

そして、また3日後の20日には州内感染者は約3.5倍の8402人となり、23日からの州全域の自宅待機令が発令されました。学校はすべて休校、仕事は在宅を義務付け、飲食店はテイクアウトのみ、食料品店や薬局など生活必需品の店を除いてすべて閉店です。フィットネスクラブや美容院、理容院といったサービス、カイロプラクターやフィジカルセラピーといった副次的医療機関もすべて休業。

獣医までもが緊急センターを除いて休業です。結婚式、葬式を含め、人が集まることはすべて禁止。友人や離れて住む家族も訪れてはならず、散歩や運動で戸外に出る場合も、人との間隔は6フィート以上離れることになっています。こうした徹底したロックダウンに入って今日で2週間。今も感染者は増え続け、医療防護品や人工呼吸器不足はますます切迫しています。
 

トランプ政権下で新型コロナが発生したのは、アメリカ最大の不運

トランプ大統領へのやじ

ニューヨーク州の新型コロナ対策の先頭に立つクオモ知事は、優れたリーダーシップを発揮していますが、州知事がどんなにがんばってもその権限には限界があります。
本来、こうした非常時に人命を守るための必要物資の供給の管理は、連邦政府の仕事で、そのリーダーは大統領だからです。トランプ政権下で新型コロナが発生したのは、アメリカ最大の不運です。初期の段階で何の対策を打たなかったばかりか、「物資調達は各州の責任、俺の責任ではない」とまで言い放つトランプ。

数少ない人工呼吸器を、各州政府と連邦政府が市場で競り合うという考えられない事態になり、人工呼吸器の値段は大衆車1台相当から高級車1台相当へと跳ね上がりました。

お金にものを言わせて自家用人工呼吸器を購入しようという大金持ちも出てきましたが、今やいくらお金を積んでも購入できる人工呼吸器は市場にありません。国民皆保険もなく医療費が世界一高額なアメリカの医療システムは、もともと「金持ちには世界最高レベルの医療を、貧乏人は死ね」と言わんばかりのものなのですが、皮肉にも新型コロナの恐怖はどんなにお金持ちでも逃れられないものになりました。

必要なときに適切な医療が受けられるということが、生活の質を保つためにどんなに大切なことかを今、誰もが実感しています。毎日行われる大統領と、そのチームの新型コロナ対策に関する記者会見は、毎回毎回怒る気力すら失せるような突っ込みどころ満載です。

ともかく、この二重の災禍が過ぎ去るまで、自分の身を守るために誰もが気合を入れて引きこもるしかありません。

 

ニューヨークから日本人へのメッセ―ジ


ニューヨークで事態が刻々と深刻になっていく中、日本のニュースや日本人の友人たちのFacebookの書き込みには、レストランに行ったり旅行に行ったり、ごく普通の日常があって別世界のようでした。わずか1か月前まで、ニューヨークにも同じ日常があったのです。でも今はそれが遠い昔に思えます。

感染が広がるのは本当にあっという間で感覚がなかなかついていけません。「そこまで神経質にならなくても」と思ってやったことを、3日後に振り返って「なんであのとき」と後悔したことは数知れません。すべて後手後手にまわっている感じです。三密と言わず、どこにも出掛けないのが一番の予防。一歩外に出れば新型コロナウイルスがどこにいてもおかしくありません。

日本がニューヨークのように手遅れにならないように、祈るばかりです。
 

■もっと知りたい■

黒田基子

くろだ・もとこ 1960(昭和35)年、東京生まれ。ライター。88年よりアメリカに留学し、30年近くニューヨーク郊外で暮らす。ブログ「ニューヨークsuburban life」東海岸の暮らし、食べ物、ときどき政治https://nyqp.wordpress.com/

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