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- コロナ禍を乗り切るフランス式セラヴィ思考とは?
フランス・パリ在住のライター伊波裕子さん。新型コロナ感染症による外出制限から1か月、市民の生活はどうなっているのか? 金銭的補償は? など気になるフランスの現状をリポートします。
フランスにおける感染状況。延長された外出制限
フランスは2020年3月17日の正午から外出制限(le confinement コンフィヌモン)が始まり、もうすぐ1か月になります。
そろそろ解除か?と期待も高まっていましたが、4月13日夜のマクロン大統領の会見で、この外出制限は5月11日まで延長されることがわかりました。
人口は6700万人と日本のほぼ半分ですが、累積感染者数がついに13万人、死者も1万4000人を超えたフランス(4月13日現在)。ここ数日は死亡者数もやや減少傾向にありますが、医療施設は引き続き飽和状態にあり、警戒態勢を緩めるわけにはいかない局面ということです。
特に集団感染を起こしやすい「EHPAD」と呼ばれる高齢者施設での死者が全体の約1/3と多く、この病気が、高齢者や持病のある人にとってはさらに危険なものであるということが再認識されています。
フランスには24時間放送のニュースチャンネルがいくつかあり、中国・武漢市の感染爆発のときと同じように、患者を搬送するシーンを映したり、感染症の専門家が解説したりしています。
でも、流行の初期に「このウイルスがなぜ危険なのか?」「日に数十人死亡の段階で、なぜ大騒ぎするのか?(フランスの平年の死亡者数は日に1600人〜1700人程度)」という基本のところがしっかりと説明されていなかったため、多くの国民は「よくわからないけど、怖い」という恐怖心だけが異常にあおられているという状況です。
それでもこの春の陽気に誘われて、フランスの人たちが言うことを聞かずに外に出てしまったりという現象は、自由すぎる国民性というだけでなく、病気の本質のところがぼやけたままで「危ない、危ない、外出禁止だ」と押さえつけられているせいもあるかもしれません。
「個人で行う自宅周囲での軽い運動のための外出」が許可されているため、自宅周囲でジョギングなどをする人が多すぎて、パリ市では先日、ジョギング可能な時間を、朝と夕方のみ、と追加で制限しましたが、逆にその時間帯で走る人が密集してしまうなど、日本人からしたら予想外の反応も多いです。
この外出制限中、夜8時にはベランダに出て、医療従事者やインフラを維持してくれている人たちに感謝の拍手を送ろうという運動があるのですが、医療従事者の方々は、そんなことよりも、きっと、感染を防ぐために外出自粛をしてくれる方がありがたいのでは、などという声も聞きます。
外出制限中の市民生活はどんなもの?
先日は、ついに日本でも「緊急事態宣言」で、外出の自粛要請が強まりましたね。
日本では罰則はないというところから、フランスでは「Le Japon, un confinement light=日本、軽い外出制限」(Les Echos紙)と表現されていました。
「軽い」とはいえ、今までに経験したことのない非常事態ですし、スタート前は心配も多かったと思います。でも始まってみると意外と暮らしは普通じゃないですか? 少なくともフランスは、外出制限1か月を超えても、緊張感はあまり普段と変わりありません。
「ロックダウン=都市封鎖」と英語で言ったりすると、なんだか恐ろしいもののように感じますし、呼び方を、フランス語の「コンフィヌモン=外出制限」にしてみたらどうでしょう。響きがやさしげで、日本の外出制限の状況にもしっくりくるような……。
そのコンフィヌモン中の外出ですが、「テレワークでは不可能な仕事」「食品や生活必需品、薬などの買い物、個人での軽い運動」など、いくつかの目的であれば許可されています。
認められない外出では135ユーロ(約1万6000円)の罰金を徴収されるということで、かなり厳しめのルールです。
はじめの数日間はスーパーも大混雑でしたが、今はだいぶ落ち着きました。入場制限をしたり、レジ前に透明の仕切りを立てて、飛沫感染を防ぐような工夫も徐々に広がっています。
また、運動量が少なく、睡眠時間もたっぷりなせいか、冬眠中のクマのように、大人も子どもも、この期間、あまりおなかがすかないなと。食材ストックもそれほど大量でなくて大丈夫なようです。
学校は、ネット授業と大量の宿題で先生方ががんばってくださっています。
問題は、宿題を印刷するプリンターのインクや紙が大量に必要なこと。在宅ワーク、ビデオ授業などを予定している方は、この辺のアイテムの補充もお忘れなく……。
個人への収入保障や緊急支援策も発表
また、お金の話ですが、日頃文句の多いフランス国民も、今回は政府から給与の補償や、十分ではないにせよ中小企業経営者やフリーランスへの援助策が同時に打ち出されたこともあり、強く反対する声も聞かれません。
多くの補償パターンがあるのですべてはお伝えできませんが、いくつか具体的なものを挙げてみます。
一時的に就業停止状態となった従業員への給与補償。これは法定最低賃金(月給=週35時間労働、で手取り1219ユーロ。日本円で約14万3000円)の4.5倍を上限に、手取り額の84%を補償。残りの16%までは企業負担で支払われるはずですが、個々の契約によります。
従業員10人未満の小規模企業やフリーランスに対しては、休業、もしくは昨年同月比で50%以上売り上げが落ちた場合には、1500ユーロ(約17万5500円)の緊急支援、さらに状況によっては2000ユーロ(約23万4000円)の追加支援も。
4月13日に外出制限の延長が発表された際には、子どものいる収入の少ない家庭への援助も検討していることを、大統領自らツイッターにも投稿しています。
日本のように「営業は自粛しろ、援助は未定」という方針だと、それはもう、落ち着いて家にいられない、という気持ちにもなるでしょう。
ただフランスも制限期間が延長されれば、それだけ国民の不満も募るでしょうし、企業支援だけで450億ユーロ(約5兆2650億円)といわれる国の財源も心配です。
フランスはこの支援策によって、2020年の経済成長率予測をマイナス1.0%に下方修正しました。
フランスが加盟するEUでは、財政赤字の対GDP比を3%以内に抑えるという安定成長協定があるのですが、今年度はこれを上回り、コロナ前の予測の2.2%から最大約3.9%になる恐れもあるそうです。
毎日の小さな楽しみを見つけて乗り切る
不自由さやさまざまな心配はあるものの、突然降ってわいたこの不思議なバカンス期間を、こちらの人たちは結構楽しんでいるようにも見えます。
上手、下手に関係なく、窓から歌をお披露目したり、隣人を巻き込みベランダでクイズ大会をしたり。彼らにもいろいろ不安はあるはずですが、ひとまずフランス人特有の「C'est la vie.(それが人生。しょうがないよ。などの意味)」の思考で、流れに身を任せているといった感じです。
そして今回の感染症の流行で、フランスで大きく変わったのが衛生観念。
「日本は清潔好きの国民性で、コロナ流行の第一波をかわした」と見ている人もかなりいて、それに倣ってということもあるのかないのか、マスクをしたり、手洗いを頻繁にしたり、また頬を合わせる「ビズ」や握手の代わりにお辞儀をしてみたりと、在住日本人にとってはうれしい変化も。
今はフランスでもマスクが品薄で、一般の人は手作りなどでしのいでいますが、4月13日のマクロン大統領の演説で、日本政府同様、全国民にマスクを配布すると言及していました。
相変わらずマスコミの恐怖心あおりは続いていますが、栄養と睡眠を十分にとって、感染予防のために引きこもるのはもちろん、止むを得ない外出などでは眼鏡にマスク、帽子。購入した食材等は、ウイルスが死滅するまでの数日間は部屋に持ち込まないか、アルコールもしくは適度な濃度の界面活性剤入りの洗剤やハイター 類でウイルスを除去してから使用する。
外出時にはいた靴、衣類、スマホを含む持ち物のウイルス除去。帰宅後のシャワーなど、個人でできることはすべてやった上で、怯え過ぎず、フランス式のセラヴィ思考でどっしり構えていればなんとかなるのでは、と開き直った気持ちになってきます。
この先日本でもフランスでも、国からの援助などがしかるべきところにきちんと行き渡り、すべての人が元気でコンフィヌモン明けを迎えられるよう、祈るばかりです。
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