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- 「目覚めのときの、モーニングティー」富山芳子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第9期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「お茶」です。富山芳子さんの「目覚めのときの、モーニングティー」と山本さんの講評です。
目覚めのときの、モーニングティー
電話が鳴る。
「今日お茶にこない?」
「いいわよ、何時?」
これは日頃、ご近所の仲良しと交わす会話だが、このところコロナで、こういった集まりはすっかりなくなってしまった。
わたしにとって、茶飲み友達とのひと時は大切な時間なのに。
ところで、「お茶」という言葉はなんと親しみやすく、生活に潤いを与えてくれることだろう。
「茶飲み友達」は、近間の頼りになる友人であり、「お茶にしようか」はひと休みしたい気持ちを柔らかく伝えてくれる。
最近は居間と呼ばれるようになったが、かつてはお茶の間と呼んでいたそこは、家族がくつろぎ、親しい人達と気兼ねなく触れ合える場所だ。
お茶という言葉は飲み物として扱われることだけでなく、生活の有り様を柔軟に表現する手立てにもなっている。
コーヒーではこうはいかないだろう。
また、日本には"茶道"という独特の茶の文化がある。
昔、結婚して東京から地方に住むことになった当初、周りに誰も知り合いがいない。
夫は朝会社に行って夜遅くまで帰らない。町のこともほとんど知らない。
そこで、探したのが茶道の先生だった。幸いバスで行ける隣の市は城下町で稽古事が盛んだった。
さっそく以前齧(かじ)っていた流派を探して、入門した。
茶道仲間とはたちまち親しくなり、教室以外でも一緒に出歩くようになった。
大抵の仲間はこの町に生まれ育っているので、彼女たちを通じて、この地方の風習や、歴史、人の噂話などを知ることができた。
この北国の茶道教室に通ったことはいろんな面で役に立った。
今でもあの地方に懐かしさを感じるのはそういった交流があったからかもしれない。
お茶というと、紅茶の国のイギリスが思いうかぶが、おばちゃんになってから彼の地にホームステイしたことがある。
語学とガーデニングを学ぶというもので、ロンドンから電車で1時間ほどの地方都市に2週間滞在した。
ステイ先は50代くらいの一人暮らしの女性の住いだったが、近所に娘家族がいて小さな孫がよく遊びにきていた。
彼女は市内の大型スーパーマーケットに勤めていて、食事はそこからの持ち帰りのものなどもあったが、不足はなかった。
ただ夕飯の主食は、パンではなく、毎日がポテトだった。
こんなにポテトのレシピがあるのかと思うほど、日々形をかえて食卓にでてきた。
どれも美味しかった。
そして、なにより忘れがたいのは、朝7時に私を起こしにきてくれる時、
彼女は大きなマグカップに熱々の紅茶を入れてもってきてくれた。
目覚めたとき、ベッドのなかで、熱いモーニングティーをゆっくり飲む、あの時だけの忘れられない経験だ。
山本ふみこさんからひとこと
お茶の魅力が、自然にやわらかく、香ります。
書き出しをみてくださいまし。
電話が鳴る。
「今日お茶にこない?」
「いいわよ、何時?」
これには、くらっとしました。
気持ちをつかまれました。
好きなところはまだまだありますが、この書き出しは、皆さんにも味わって、学んでいただきたいのです。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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