「さつまいもの天ぷら」横山利子さん
2024.09.302022年11月22日
山本ふみこさんのエッセー講座 第8期第3回
エッセー作品「案外笑顔」高山美年子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第8期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「一歩」です。高山美年子さんの作品「案外笑顔」と山本さんの講評です。
案外笑顔
母は97歳で亡くなった。同じ寿命がわたしにあるとすれば、あと30年ある。いや、30年しかない。
どうする、わたし。
今年の夏は暑かった。毎日猛暑。朝からエアコンが大活躍。最低限の家事を済ませて、冷えた部屋にこもる日々。
一日が終わる頃(あ~、今日はいったい何をしたのかな)無駄に過ごしたなと反省する。
朝晩の涼しさと、暗闇のどこからかにぎやかに鳴り響く虫の音を感じはじめると、夏バテしていた心が少しずつ生き返る。(シャキッとしなさい!)友人たちは猛暑の中、いつもと変わらず過ごしているようだ。
えらいな、すごいな。24時間のチャリティー番組は、一生懸命生きる事のすばらしさを伝えている。
どうする、わたし。
浅草に住む娘のところに、ドライブがてら預かった荷物を届けにいった。
数日前に富士山に登り、体中筋肉痛で動けないといっていた。歩き方がおばあさんみたいだ。好物のあさりおにぎりと焼き団子のおみやげをペロリと平らげたので、問題はなさそうだ。
会うたびに、楽しかった出来事を山ほど話してくれる。我が子ながらカッコいい!と羨ましくなる。
人生楽しんでいるな。(もう少し若かったらな)と言い訳が頭をよぎる。
どうする、わたし。
「会社に、辞めたいと言ってきたよ」
帰宅した夫が言う。
「そう」
答えるわたし。冷静です。定年制のない会社なので、辞め時は自分で決める。それが今です!というだけの事。
そうか、友人たちから聞いていた生活が始まるのか。
みんな、しかめっ面をしながら話していた生活とは、実際どうなのか少しワクワクもする。
わたしも、しかめっ面になるのかな。案外笑顔かもしれない。
いつから始まるのか未定だが、心の準備だけはしておこう。
大丈夫か、わたし。
旅行のパンフレットを眺める。世界一周はできないけれど、少し豪華な旅を夫としたいと思っている。
おつかれさまでしたとの感謝の気持ちと、これからも宜しくの気持ちを伝えたい。
行先は?もちろんわたしが……。
山本ふみこさんからひとこと
日常をさりげなく描く作品です。「高山美年子」は、「どうする、わたし」という表現を用いて、作品に印象的なポイントをつくりました。
「どうする、わたし」は結び近くの段落で、「大丈夫か、わたし」「もちろんわたしが……」となりますが、これもいいなあ。ポイントの変化球であることが伝わります。
この作品には「人生は最悪で最高」というタイトルがついていました。作家の人生観であり、自らへの評価でありましょうけれども、作品には「最悪」も「最高」も描かれてはいません。別のふさわしいタイトルがありそうです。
こんなときどうするか。作品を読み直して、おもしろい言葉、表現を探すのも一手です。ありました。「案外笑顔」これ、タイトルにいただきましょう。
または例えば「あさりおにぎり」なんていうタイトルもいいですよ。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
現在は第8期の講座を開催中(募集は終了しました)。次回の参加者の募集は2022年12月を予定しています。
詳しくは雑誌「ハルメク」2023年1月号の誌上とハルメク365WEBサイトのページをご覧ください。
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