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- エッセー作品「昆布〆、って」大井洋子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「かけはし(橋)」です。大井洋子さんの作品「昆布〆、って」と山本さんの講評です。
昆布〆(こんぶじめ)、って
夫は家に人を招き、もてなすのが好きである。
その際、「昆布〆(こんぶじめ)」を手作りする。
主に白身魚やえびのさしみを昆布ではさみ、冷蔵庫で2~3日置いた、あの「昆布〆」だ。
元々、わたし達夫婦の郷里、富山県に古く江戸時代から伝わる、漁師町の保存食だった。
このごろでは、回転寿司店のメニューにもあるので、知っている人も多いかと思うが、
いまから45年ほど前、ある店で昆布〆を出された旅行者が、
「こんな糸の引く、腐った魚を出して」
と、言っているのを見かけた。
確かに、何の説明も受けないまま箸を付ければ、その粘りに驚くにちがいない。
けれども、このさしみを一度口にすれば、昆布のうま味・香りが移った奥行きのある、思いがけない味わいを感じるはずだ。
富山では、カジキマグロで作られた昆布〆が一般的で、1年中スーパーマーケットに並んでいるが、これまでわたしが住んだことのある他の地域では、そんな昆布〆はまだしも、カジキマグロのさしみさえ見たことがない。
というわけでわたし達は、手に入れ易い鯛のさしみをつかい、昆布〆を手作りするようになった。
「お客さんには、最高のものを食べてもらうんだ」
と夫は言い、わざわざ豊洲市場まで仕入れに行く。
そのとき、魚介類を入れるための保冷バッグを肩から2個提げ、長靴を履いて行く。
というのも、年末以外、一般人は市場に入れないらしいからで、寿司屋か何かに仮装しているつもりなのである。
真っ白な長靴を履き、藤の手提げ籠を持った、いかにも料理人風情の人が市場に入って行くのを目にする。が、夫の長靴は実を言うと家の畑作業用のものだ。
「この出で立ちだから、入り口で止められないんだ。お前も長靴を履いて行くんだぞ」
「重くなったバッグを持って、長靴で歩きまわるのは嫌だなあ」
「付き添いだから……まあ、いいか」
いつもの店で、水槽に泳ぐ生きのよい鯛を選び、3枚におろしてもらう。残った頭と骨もおすまし用に持ち帰る。
帰宅後早々、夫が鯛の皮を剥ぎさしみにして、わたしが昆布のうえに並べる。
幅広の薄くて平らな真昆布の表面を、酢でまんべんなく湿らせてから、さしみが重ならないように置いていく。
その上に昆布を敷き、同じように幾重にもする。
それをきっちりラップし冷蔵庫で寝かせれば、昆布〆作業の完了。
2人暮らしのあじけない生活のなかに、たまにお客さんが来てくれて、しかもそこに、昔なじんだ味があるのはいいものだ。
昆布〆がかけ橋となって、富山のしっとりとした穏やかな空気まで運んでくれる気がする。
作るのは手間をとるが、ちょっとうれしい。
山本ふみこさんからひとこと
どうぞ、みなさん、この作品をお楽しみください。
だんな様とのあいだのやりとりも、効いていますね。
「この出で立ちだから、入り口で止められないんだ。お前も長靴を履いて行くんだぞ」
に始まる会話です。
さて作家ご本人から質問がありました。「漢数字と算用数字の使い分けがよくわかりません」と。
まず、どちらを選ぶか、書き手が決める必要があります。縦書きの原稿でしたから、漢数字で統一して、お返ししました。そうです、決めたら、一つ作品の中で統一します(webでご紹介する際、算用数字にさせていただいています)。
算用数字を選ぶ場合、気を付けることがあります。例えば「一度、二度」という表記。これはいかに算用数字でも「1度、2度」とはなりません。このあたりのことで、この言葉はどうなるのか……、と迷うときは、ご自身で決めてくださいまし。それでよいのです。編集者があとでチェックします。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第4期の講座開講中で、次回第5期の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」6月号の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。
募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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