「さつまいもの天ぷら」横山利子さん
2024.09.302021年12月30日
通信制 青木奈緖さんのエッセー講座第3期第2回
エッセー作品「よく噛んでお食べよ!」勝矢和代さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。勝矢和代さんの作品「よく噛んでお食べよ!」と青木さんの講評です。
よく噛んでお食べよ!
銭湯の帰りにかならず寄り道するところがあった。
うれしくって、待ち切れなくって、下駄をカタッカタッ鳴らしちゃって、洗面具をガタガタゆらしちゃって、走って走って走ってサ……。
「ころぶよ!」と母の声。
湯上りでほてっている子供達に、母が「鮒忠(ふなちゅう)」という鰻やの店先で焼いているうなぎの頭の串焼きをいつもお楽しみのオヤツにしてくれた。
焼きあがる度に1人ひとりに手渡されるうなぎの頭のオヤツは貧しいくらしの頂上にあった。
転んで泣いていた幼い妹が「今泣いたカラスがもう笑ったァ」と、串焼きを手にニコニコ笑っている。
贅沢とはいえない下町らしいオヤツであり、育ち盛りの子供に必要なカルシュウムを与える母なりの智恵であったのかもしれない。
このお楽しみは、わが家に風呂場が造られるまで続いた。
長いこと、「鮒忠のうなぎの蒲焼き」はうなぎの頭のことだと思って育った。
焼けるまで待つ間の幸福感を、甘しょっぱい醤油タレのこげる匂い。炭のパチパチはぜる音……。
そこへさらにリズミカルにパタパタとあおぐうちわの音と、うなぎの頭と、母の顔が重なる。
先日スーパーで頭付きのうなぎを思いきって買ってきた。
頭を食べてみた。81歳の今。どんなに噛んでもおしゃぶりするだけだった。
「鰻の頭はカルシュウムだよ、よく噛んでお食べよ!」
母の声が聞こえてきた。
青木奈緖さんからひとこと
子ども時代の楽しい思い出がいきいきと描かれています。お風呂屋さんの帰り道、下駄の足音が作品全体をリズミカルに伴奏しているように感じられ、おしゃべりのような語り口にぴったりです。
短い文章ほど難しいものですが、原稿用紙2枚の中で巧みに場面を切り取り、過不足なく表現できています。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
現在第3期の講座開講中です。次回第4期の参加者の募集は、2022年1月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから
■エッセー作品一覧■
- 青木奈緖さんが選んだ4つのエッセー第2期#6
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第3期#1
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第3期#2
- エッセー作品「よく噛んでお食べよ!」勝矢和代さん
- エッセー作品「父の涙」箱崎雅子さん
- エッセー作品「お引き合わせ」古河順子さん