「さつまいもの天ぷら」横山利子さん
2024.09.302021年10月28日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第3期第1回
エッセー作品「箱」渋谷ナオミさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「なるべく」です。渋谷ナオミさんの作品「箱」と山本さんの講評です。
箱
外に出てみると暑い。猛暑である。慌てて家の中に飛び込む。なんと涼しい事か。
買い物に出るのは、やめておきましょう。
仕方がないので、部屋のかたづけを始めることにしました。
物の整理をしていると、きれいな千代紙が貼ってある箱が目にとまりました。
「何を入れた箱だったかしら」おもいだせません。
開けてみると、そこには、高校生時代の成績表や、文集、初めて買ってもらった財布、髪飾り、それと、サイン帳。
このサイン帳は、卒業時に、クラスメートに惜別の言葉を書いてもらったもの。
ペラペラとめくっていくと、和装と洋装の素敵な花嫁姿の絵がとびこんできました。
「あっ」おもいだした。彼女だ。
絵の隅に、「ナオちゃんの未来の花嫁姿の絵をかきました。和装、洋装どちらが似合うかしら」とある。
夜遅くまで、電話でおしゃべりしていた事が思い出されます。よく母に注意されました。
箱の中にあった髪飾りを見ていると、長い髪をしていた小学生の頃の朝の光景が浮かぶ。
毎朝、母が髪の毛を結んでくれた。
初めて、自分で自由に使えるおこづかいをもらった時の財布もなつかしい……。
パチン、パチンと何度もやった事を思いだしました。
年々、からだは老化していくけれど、思い出すと、すぐに、その時にもどれる。
不思議なこと。そんなことをしていたら、たちまち夕方。
有っても無くってもいいような箱だけれど、そーと元の場所にもどしました。
残しておきましょう。
山本ふみこさんからひとこと
ごく身近な、なんでもないモノ、なんでもない出来事の向きあって書いてゆくうち、そうした存在が決して「なんでもなくない」ということがわかる……。
これも書いてゆく私たちの、一大事です。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第3期の講座開講中です。次回第4期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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