「さつまいもの天ぷら」横山利子さん
2024.09.302021年06月05日
通信制 青木奈緖さんのエッセー講座第2期第1回
エッセー作品「モデル」西山聖子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。西山聖子さんの作品「モデル」と青木さんの講評です。
モデル
6つ年下の弟が幼稚園児の頃、街中で子供モデルにスカウトされた。
本人も両親も芸能に関心はなかったが、あまり熱心に言われたので1年だけという約束でお受けした。
確かにその頃の弟は、色白で目はクリッと大きく、天然パーマで可愛かった。
電車の中で向かい側に座ったカップルが「女の子かな?男の子かな?」とヒソヒソ話していたり、
母と3人でデパートへ行くと、いつの間にか弟の周りを何人かの店員さんが囲んでいて、「まあ、可愛い!」と言われたりしていた。
その光景をいつも隣で見ていた私は、何だか誇らしくも嬉しくもあるのと同時に、「何で弟ばかり注目されるの?」という焼餅(やきもち)の入り混ざった複雑な気持ちだった。
ある日、某デパートの七五三のカタログに着物姿のモデルを頼まれた時のこと。
親子でいつか芸能界デビューを夢見て自前の衣装まで持ち込み頑張っている方の多い中、弟は多分暑くて、撮影時間が長くなり早く帰りたかったのだろう。
カメラマンさんの「はい!ニコッと笑って!」という注文に「おかしくもないのに笑えません」と口を尖らせ、周囲の大人達を手こずらせた。
又、あまりに「女の子?」と聞かれたためか「僕って男の子だよね?」と潤む目で母に質問したこともあったようだ。
1年の契約期間が終わり、弟は又、元の生活に戻り、いつの間にか外出しても容姿で人目を引くことはなくなった。
私は幼いながら、どんなに綺麗な女(ひと)もかっこいい男(ひと)も、きっと何かしらの悩みを持っているのだろうなと、弟の体験から学ばせてもらった。
あれから50年以上経ち、ポスターやテレビコマーシャルの中で可愛いモデルを務めた弟も、今では良き父親であり、立派なおじさんとなっている。
青木奈緖さんからひとこと
完成度高く、きれいにまとまった作品です。
子役モデルというテーマそのものにも興味を惹かれますし、モデルをしていたのは自分ではなく、弟だったという点にもこの作品の面白さがあります。
子どもながらに光をあびることをうらやましく思い、一方で実際には良いことばかりでもないらしいと気付くあたり、うまく書けています。
エピソードを入れてふくらませると、掌編小説になるような題材です。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
次回第3期の参加者の募集は、2021年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
■エッセー作品一覧■
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー#5
- 青木奈緖さんが選んだ2つのエッセー#6
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第2期#1
- エッセー作品「一度だけの家族旅行」野崎一恵さん
- エッセー作品「公園は命であふれてる」星野玲子さん
- エッセー作品「モデル」西山聖子さん