「さつまいもの天ぷら」横山利子さん
2024.09.302021年03月24日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第6回
エッセー作品「ハロー!」勝矢 和代さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今回募集した作品のテーマは「日常」です。勝矢和代さんの作品「ハロー!」と山本さんの講評です。
ハロー!
通り過ぎた……引き返した。
(ほんの2、3歩の事であるが……)
81歳の、ゆっくりと歩くおぼつかない足どりがそうさせたのかもしれない。
師走の繁華街のせわしない通り道でのこと。
これ以上履き潰しようがない運動靴の片一方がゴミ箱の前にぽつねんと落ちている。
底がぱっくりと口開いた白いボロボロの運動グツ。
金色のピカピカかがやく菓子紐や、赤や黄色の紐で丁寧に結われテープで補修されている。
(靴の生涯)と名付けられた美術作品が、さり気なく路上に展示してあるように(イマジン)。
何か心惹かれるボロ靴の有様に感じ入ってしばし立ち止まった。
今どき見たこともない擦り切れた布地の痛みかたは、足を包む限界を超えている。
もしかしたら……足指は破れ靴の隙間からちょっと顔を出し、人間社会の靴に似合った人に対しての偏見を、逐いち「この野郎」「今に見ていろ、俺だって!」と、憤怒していたのかもしれない。
捨てる前まで洗濯されていた名残りある白さは、「清潔感漂うこの靴を履いていたひとはどんな人生を歩んでいたのだろう?」
このコロナ騒動で仕事にあぶれていた……社会人?学生さん?それとも……バイトの外国人かもしれないな。
節約して節約して、ようやくに新しい靴を履いた時のよろこびが想像できる。
靴を買う(ゆとり)がなかったにせよ、運動靴もここまで大切に履かれたら本望に違いない!
「ご苦労さまでした。」
夕暮れの満員バスに揺られ目を瞑る。
ボロ靴を履いていた人のストーリーを想い描く……。だが、「最後が悪いなァ……」どんな舞台も最後の幕切れを大切にするではないか?
せめて新聞紙でも良いから、丁寧に包んで捨てて欲しかったな!
「グッドバイ!」
山本ふみこさんからひとこと
「ハロー!」「ご苦労さまでした」「グッドバイ!」の効いた、作品です。
書きだしの「通り過ぎた……引き返した」にも唸りました。
書き手「勝矢 和代」の、運動靴をみつける眼力、それを主人公にという創造力(想像力も)、講座の仲間であるみなさんもわたしも、あやかるとしましょう。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次回の参加者の募集は、2021年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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