今月のおすすめエッセー「庭づくり」富山芳子さん
2024.12.312021年02月27日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第5回
エッセー作品「フリージャー」大山 敏子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今回募集した作品のテーマは「鍛える」です。大山敏子さんの作品「フリージャー」と山本さんの講評です。
フリージャー
あろうことか、チェロのCDのボリュームを上げてドアを閉め一人自室で泣いた。
思いっきり私は泣いた。
チェロのレッスン、たった2小節のところを何度もダメだしされて結局その日も曲を仕上げることはかなわなかったのだ。
「G線上のアリア」なんて簡単だと思っていたのに、仕上げることができず、何か月も練習が続いた。
先生の考える音色を私は出せない。
「もうやめどきか」
フルタイムで仕事をしながら51歳からチェロを習い始めて22年になる。
練習時間は土曜日の30分が限度で、レッスン日の1時間が正味の練習といえただろう。
退職後もそれほど練習時間は増えなかった。
あこがれていたチェロである、音が出るだけで最初はうれしかった。
しかし曲にするには高いハードルがあった。
音が伸びない、響かない、ピアノ伴奏をしてもらったら音はかすんでしまう。
めげずに続けてきたけれどその日はもう打ちのめされた。
才能はなくても努力さえすれば少しはましな音色が出せると思っていた。
継続は力なりなんて甘い。
プロの演奏家の考えられない練習量を思う、アスリートもしかり、舞台俳優もしかり、どれほどストイックな生活の中で自分をぎりぎりまで鍛えていることか。
その事実を思い知った。
思いっきり泣いた後はぼーっと過ごした。
最小限度の家事労働のみ。何もしなくても1日は過ぎる。
私がチェロをやめても誰も困らない、むしろ騒音公害がなくなると喜ぶだろう。
笑えるわ。
小春日和の午後、フリージャーの球根を今年もいっぱい植えた。
黄色に輝く来春の花を楽しみにする自分がいる。
山本ふみこさんからひとこと
51歳のとき、チェロをはじめる……憧れます。
この作品を読んで、「やめないで、敏子さん。チェロをつづけてください」という気持ちになりました。敏子さんの周りを音楽の天使が、ぱたぱたと羽音を立てて飛んでいるところを想像しました。応援し、拍手している天使です。
続編をお待ちしています。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次回の参加者の募集は、2021年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
■エッセー作品一覧■