「さつまいもの天ぷら」横山利子さん
2024.09.302024年05月08日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第8期第1回
エッセー作品「どうする?」前田元子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第8期1回目のテーマは「マンガ」。前田元子さんの作品「どうする?」と山本さんの講評です。
どうする?
朝食後、新聞を開いてかわいい4コマ漫画をみる。主人公は幼稚園に通っている女の子だ。今日はおじいちゃんと一緒に去りゆく冬鳥と春になってやってきたツバメを眺めている。
うちの家の前にもやってきたよ!
3月下旬、今年も早かった。
わが家は築100年以上で、例年春にさきがけツバメは玄関を入ったすぐ上の梁のところに巣をかける。玄関の上は大きく吹き抜けになっていて屋根裏まで続いている。屋根裏は麹を発酵させる場所として使っていた。その上げ下ろしをするための吹き抜けだ。ツバメは玄関のうちに入り吹き抜けから屋根裏まで自由に飛びまわる。毎年同じ場所に巣を作り、ヒナが巣立って行った。
ツバメが子育てしているあいだ、日中は玄関の戸を少し開けておく。風など吹いた日には埃が入ってくるし雨の日は湿気が入るが……。夜は親鳥が戻ったのを確認して戸を閉める。朝あたりが明るくなるとチイチイと鳴き騒ぐので戸を開けるためだけにいったん起きる。
いつも春はこんな感じだ。ツバメがいるのは日常の一コマで、糞の掃除も戸の開け閉めも日々の流れのひとつだった。
しかしいまやわたしはツバメを追い出しにかける。ふみ段や新しくしたばかりの障子戸に糞をかける、蛇が入って来るなど、百歩譲ってこれらは我慢するとして、困るのは玄関の戸が閉められないことだ。玄関の扉の上にツバメ専用の穴を開けている家もあるが、我が家にはない。せめて軒先にしてくれればよいのにと思うのはこちらの事情でしかない。
家族が減り、家を留守にすることがふえた。玄関に鍵をかけるようにと駐在さんが一軒一軒まわって注意してくれる。この頃は田舎といえども物騒なものだ。
入りたいツバメと追い出したい人間。戸を開けると一瞬の隙をついてなかに入り込む。箒などで追いはらっても上手にくぐりぬけ屋根裏に飛んでいく。しようがないので戸を少し開けたまま外に出ていく瞬間を待つ。出て行ったとみるとすぐに戸を閉める。毎日こんなことを続けていると、疲れるし、ツバメに情がうつる。
追い出されても追い出されても入って来るツバメ。他所の候補はないのか。雨や風の影響もなくカラスに襲われる心配もないここでなければ! ……そんなことを思っているのか。
入れてやる? 入れないでおく?
どうする?
山本ふみこさんからひとこと
ツバメのために、やきもきしたり、悩んだり……。手に汗握りながら読みました。こういう作品を、若いひと、子どもたちにも読んでももらいたいなあ、と思います。
ヒトは、自然とともに生きる、自然の一部の存在であるのだということを、あらためて認識しました。
どうなったのでしょうね、元子さんの家に住みたかったツバメさんたち。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次回募集については、2024年8月頃、雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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