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- エッセー作品「はじめてのお葬式」八田りえ子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第8期1回目のテーマは「マンガ」。八田りえ子さんの作品「はじめてのお葬式」と山本さんの講評です。
はじめてのお葬式
小学校へあがる前、母方のおじいさんが死んだ。母の祖父だと思っていたその人が、のちに母の曾祖父だったとわかる。
おじいさんはいつも玄関の前にすわって、日向ぼっこをしていた。亡くなった時は99歳だったから、皆が「長生きだ」と言っていたのを覚えている。
昭和33年(1958年)当時99歳は、とてつもなく長生きだった。その頃は家で葬式を行うのが普通で、近所の人たちが家に来て、台所仕事をしていたが、団子も作っていた。小さく丸めた白い団子だ。死んだ人の年の数だけ作り、葬式に参列した人たちに食べてもらうのだという。
葬式の様子は覚えていない。お墓までは歩いて行った。歩いて10分位の距離だけれど、長い列をつくりゆっくり歩いて行ったのを覚えている。私は列の一番後ろだった。
歩きはじめる時に注意があった。
「お墓に着くまで後ろを振り返ってはだめ」
わたしにだけ言ったのか、皆にそう伝えたのかは定かではない。でも子どものわたしは体全体でそれを受けとめて、とっても緊張した。
普通に歩いているのだけれど、
「後ろを振り返ってはいけない」
と、心の中で唱えると、首の後ろに板が貼りついたような感じになり、全神経が首に集中してしまった。
振り返りたくて、振り返りたくて……。
お墓に着くなりほーっと息をつく。振り返らなかった自分に安堵して、誇らしい気持ちで来た道を振り返ってみたのでした。
お墓には男の人が2人(湯灌人)いて、大きな穴を掘って待っていた。そして湧き出た水を掬い出してから棺桶を埋めた。大勢の大人たちをかきわけて、5歳のわたしはじっと棺桶が沈められるのを見ていた。
その後あの99個の団子を配られた。「99歳の縁起ものだ」と皆喜んで食べていた。わたしもなんだか不思議な気持ちで、小さなまん丸い白い団子を食べたのです。
これが人生初の葬式の記憶。この後何度も家族の死を目のあたりにしてきたが、幸運なことに皆、年の順に老衰で亡くなっていったから、わたしにとって葬式は、久しぶりに会う「いとこや幼馴染」との再会の場になってゆくのです。
山本ふみこさんからひとこと
ひとの死、葬儀を描こうというとき、からだに力が入ります。
死者に対する敬意をどのようにあらわし、残されたひとに向けてどのように配慮するか、などなど、考えておかなければいかないことが、いくつもあるからです。
でもほんとうは……。
芳しい場所にかえってゆく死者を、もう少し自然に、豊かな情感でもって見送りたいものだと、常常考えるわたしです。
ですからね、「はじめてのお葬式」は、それがかなっていて好ましく、読ませていただきました。
思わず読後、どうもありがとうございました、とつぶやきました。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次回募集については、2024年8月頃、雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
■エッセー作品一覧■
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