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- 「100字エッセー」第9期参加者の作品
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催中のエッセー講座。今回参加者は100文字以内のエッセーを5つ書く「5本ノック」に取り組みました。1人1作ずつ、ご紹介します。100字エッセーの文章世界を山本さんが語る講評も、ぜひご覧ください。
100字エッセー
※敬称略、50音順です。
浅井京子
駅からの帰り道、通りすがりのマンションの植え込みになつかしい友だちを見つける。
つくしさん!こんなところに顔を見せてくれるなんて……。
一方毎年つくしを見つけていた空き地はいつの間にか家が建ったり、駐車場に変わったり。
雨宮和代
古いスナップ写真。手をつないで歩く、晩年の父と母の後ろ姿。
母が、どこかへ行かないように、手をつなぎ、まっすぐ正面を向く父。
母は、路地を覗きこんでいる。
昔は、ケンカばかりだったのにね。もっと見たかったな。
磯野昌子
世田谷の九品仏(くほんぶつ)のポストは金色。
あれ何?郵便局で尋ねる。
東京オリンピックで活躍した選手の功績を称えて縁(ゆか)りの地に設置し、全国に72個あるという。
知らなかった。赤いポストが全部金色になったらおもしろい!
海瀬和美
今年初めてのゴルフへ。
目も足も悪い私はいつも決まった群馬県の初心者向けコースへ、夫としか行かない。
スコアはともかく、緑の中を歩くのは気持ちがよい。
そして本当の楽しみは帰りに寄る軽井沢のスーパーでの買い物。
大竹昌子
眠るのが大好き。30代までは寝つきも良かったな。
40代更なる安眠を求めて、「某マルハチ」の羽毛布団にはまる。
掛け布団、敷布団、カバー類、枕。
なんと郷ひろみが宣伝していたベッドまで購入してしまった。
甲斐てい子
「桜島」が家にきた。
鹿児島での子ども時代、ドン!と噴火したら縁側にかけて、出て、見た、と夫。
高い建物が1つ建ち、2つ建ちして今はほとんど見えない。
義兄(あに)の油彩の「桜島」。
これならいつでも見られる、ドン!と噴火もしない。
木下富美子
イスファハーン改定地図の読みはじめ:紙の地図が好き。未知へのあこがれ。
紛争中の、うしろにタンのつく国々。昔から東西交流の要所である。
目だけ出してベールをかぶる女たちに魅かれる。
見たさ。感じたさ。行ってみたい。
車屋美紀子
小鹿のバンビ―の絵が描いてあるハート型した手の平サイズのオルゴール。
思わず手にしネジを巻いた。
懐かしい「月の砂漠」の曲が流れた。両親のテーマソング。
夜枕を並べて、父と母が声を合わせて歌っていたっけな。
小坂美千代
パンジーの花がらを摘む。無心になれて好きなしごと。
パンジーの花の群れが一斉に私を見ている。
はじらうように花を閉じ下を向いた子を、そっとつまんで摘むんだ。
淋しいときも、つらいことも忘れさせてくれる。
こばやしすみえ
快晴だが海風吹き荒れるビール祭り。
右手に静岡ビール、左手に焼き鳥塩3本、左肘で焼きそばパックを押さえる。
「タン塩美味しいよ!」ああ、空いている手がない!
自他ともに認める晴れ女風女である、私は。
佐々木はとみ
千葉県香取市佐原。用があり、前日に向かう。
舟に乗り、伊能忠敬記念館、酒造、町並みを散策。
日高昆布を練り入れた黒い蕎麦を食べる。
ホテルの大浴場に入った。本も読めた。
一人旅、気ままにのんびり、癖になりそ ―。
説田文子
伊丹空港から出雲空港までのフライト。
緑の山々が見える。宍道湖が見えたら降下が始まる。
湖面が波立つ。
「水面着陸するのか!」身構えると、湖畔の白い滑走路 に着陸。
神の国はエキサイティングに迎えてくれた。
高木佳世子
桜がまだ散っていないのに、ハナミズキが満開になった。
ご近所のお宅では、バラもぼたんも一緒に咲いている。
歩行の植え込みではサツキも咲きはじめ、あちこちでフライング。
玄関前のさるすべりが焦って葉っぱを出した。
高山美年子
姉妹ランチ会がある。7人姉妹のうち5人が集まる。久しぶりだ。
私は末っ子で67歳。
全員の年齢を足したら何歳になるのだろうと思い、足し算をした。
長女は亡くなっているが、6人で483歳。幸せな数字だ。
竹野美津江
マスク生活で、頬が固くなった人に、簡単でお勧めのエクササイズ。
「ウィスキー、だい好きー」
と言うと、口角が上がり、自然な笑顔が作れるらしい。
通勤ラッシュも直ぐに戻ったし、笑顔も直ぐに戻ると思うよ。
夛田精子
年をとるということは、夢をかなえていけることだと思っている。
これ迄できなかった事ごとを少しずつ実現していく。
どんなささやかなことでも、うれしい。
別れもあるが、出会いもある。
わるくないなとそっと思う。
富山芳子
夜汽車というと人は何を思い浮かべるだろうか。
私は集団就職列車だ。
宵の北国の小さな駅、中学を卒業したばかりの若者たちで既にいっぱいの列車が到着、そこに新たに加わる仲間たち。
テールランプが闇に消えていく。
中澤紀子
「えっ?こんな着物あったんだ?」
1週間後に着なければならぬ舞台衣装をさがしていると「夜桜」と畳紙に書いてある。
くださった人のお名前とともに。
黒地。左肩と裾は小さなピンクの花びらがいっぱいだ。
「よし、これにしよう」
中村今日子
元気を維持するための楽しみ。
それは空想の旅である。
JR東日本の「大人の休日倶楽部」の4日間連続乗り放題の旅プランニングをする。
まず行き先を決めて、時刻表を操る。
宿を予約する。その町の建造物、社寺、美術館を見学する。髙原散策もあり。
八田りえ子
2019年の台風の被害で断水と停電が起きた時、わが家の近くに自衛隊が来てお風呂を設営してくれた。
私は自衛隊の風呂へ、夫は海辺のホテルの風呂へ行った。
息子が「なんでおやじがホテルで母ちゃんが自衛隊?」
濱谷美恵子
今から50年前、わたしが高校生だった頃 ラジオの深夜放送ブームだった。
よくオールナイトニッポンを聞いていた。
中でもアリスの谷村新司が好きで、毎週聞いていた。
二段ベッドの下の段で、イヤホンで聞いたなあ。
平木智子
北海道の海でニシンが大量に水揚げされた昭和20年代、雪解けの頃の夕餉は大ニシンが主役だった。
台所の裏口に置いた七輪で焼いて大皿で各自に饗された。
温暖化で北上し近海で獲れるものは小ぶりで古(いにしえ)の面影がない。
宮澤睦子
庭の金柑の木にアゲハが卵を産み、幼虫が沢山生まれた。
今年も、葉を食べつくされてしまうのだろうか。
近所の家では、幼虫を見つけたら全て取り除いているそうだ。
我が家はどうしようか。
アゲハをとるか、金柑をとるか。
山本ふみこさんからひとこと
「100字5本エッセー」の展覧会です。おたのしみくださいまし。
作品を味わうことで、ご自身の可能性について、思いめぐらせてくいただけたなら、うれしいです。
100字エッセーをわたしも、皆さんへ贈ります。
汗をぬぐう。日に焼けることを心配する。西瓜に塩をふって食べる。蚊取り線香に火をつける。風鈴を……。夏を手元に集めてゆく。そうだ、今宵から少しずつ暑さ見舞いのはがきを書こう。なつかしさを焚きながら。(98字)
山本ふみこ
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