鈴木秀子さんの「心の平和の育て方」#1

シスター・鈴木秀子さん|負の感情を生きる力に変える

公開日:2023.03.30

鈴木秀子(すずき・ひでこ)さんプロフィール

鈴木秀子さん

1932(昭和7)年、静岡県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。文学博士。聖心会シスター。ハワイ大学、スタンフォード大学で教鞭をとる。聖心女子大学教授を経て、国際コミュニオン学会名誉会長。『機嫌よくいれば、だいたいのことはうまくいく。』(かんき出版刊)等著書多数。

心にたまった汚濁を言葉にして流し切る

心にたまった汚濁を言葉にして流し切る

※インタビューは2022年4月に行いました。

「重い病気にかかりました。治るように祈ってください」「死にたいほど悩んでいます。どうしたらいいでしょう」……。私の元へは、こうした相談が毎日のように届きます。

コロナ禍では、直接お会いすることはほとんど叶いませんでしたので、手紙などは極力すべてに目を通し、必要なものはお返事を書き、原本は専用の箱に収め、毎朝祈りを捧げます。

みなさんに共通するのは、「助けてほしい」という切なる願いです。一方で、不思議な共通点もあります。

ある方は、「生きていく気力がありません」という悩みを便箋40枚、50枚と書き綴り送ってこられました。しかしその手紙の最後は、「読んでくださってありがとう。私もこれからしっかり生きていきます」と、見違えるように爽やかで前向きな1行で締めくくられているのです。

またあるときは、折り合いの悪い義母の介護に悩む女性の相談を受けました。私の信条は、ひたすら「傾聴」に徹し、相手の想いをまず受け止めること。40分ほど延々と、義母からの嫌がらせへの愚痴を聴いていたところ、彼女はふと「でもね、私も悪いんです」と、おっしゃったのです。

すかさず私が「なぜそう思うのですか?」と聞くと、「私も姑に意地悪をしていた」「似た者同士だから、嫌なところが目に付くのかも」と、自分の気持ちを整理し始め、最後には「スッキリしました」と話して笑顔で帰って行かれました。私はほとんど何も言っていないのですよ(笑)。

お二人とも、心にたまった汚濁を言葉にして流し切ることで、解決策と希望という“清水”を、魂の奥底から引き出したのです。人は悩みも苦しみもするけれど、深い部分に「自分で苦難を乗り越える力が備わっている」と感じずにはいられません。

今のつらい経験が、未来の自分を支えてくれる

今のつらい経験が、未来の自分を支えてくれる

さらに言えば、苦しみを“成長に変える”力すら、私たちは持ち合わせているのです。新約聖書にこんな一節があります。

あなたがたを襲った試練で、世の常でないものはありません。神は真実な方です。あなたがたを耐えられないような試練に遭わせることはなさらず、試練と共に、それに耐えられるよう、逃れる道をも備えてくださいます。 (日本聖書協会『聖書協会共同訳 新約聖書』コリントの信徒への手紙一10章13節)

つまり、「苦しみがあるところには、それを乗り越えるだけの力や助けが与えられている」という意味です。すべての苦しみには意味があり、乗り越えれば人は一段と成長できる。それを信じることが、私のもう一つの信条でもあります。

今まさに苦しみの渦中にいる方は、そんなふうに到底思えないかもしれません。しかし思い返してみると、「あのつらい経験が、今の自分を支えてくれた」と思えることが、みなさんにもありませんか?

私が出会ってきた中には、病を得たことで人間不信だった自分を振り返り、聖人のように穏やかになって亡くなった経営者の方がいました。また東日本大震災で愛する息子を失いながら、彼への愛情を誇りに、震災孤児を支援する活動を始めた女性もいました。

そこへ至るまで、どんなにかつらい涙を流したことでしょう。彼らの姿は、「どんな苦しみもいつか必ず受け止められ、自分にとっての恵みに変えられる」ことを、私に信じさせてくれます。

寝る前に最低3つの「ありがとう」を感じ唱える

寝る前に最低3つの「ありがとう」を感じ唱える

またシスターという立場から、“看取り”のお願いを受けることもあります。以前沖縄の病院で、まだ30代くらいの女性の臨終に立ち会いました。病室には、意識がもうろうとした女性を囲むように、5人の子どもとご主人が立っていました。

子どもの一人はまだ抱っこの赤ちゃんです。女性は声にならない声で、一人一人子どもと夫の名前を呼び、「ありがとう」とほほえみかけ、静かに亡くなりました。家族にとって、どれだけこの若いお母さんが大切で、必要だったことか。

しかしどんな最新の医療設備も立派な医師でも、このお母さんを救えず、その命を再びつくり出すことはできないのです。こうした経験をするたび、人はただ生きているだけで尊く、命はかけがえのないものだと痛感します。

人は、周囲よりよい地位につくことや、経済的に恵まれることに重きを置きがちです。それゆえ自分を他者と比較して、悩みや苦しみが生じます。そんな方こそぜひ、「今ただ生きていること」の恵みを感じてください。方法は簡単です。

寝る前に最低3つは、「当たり前と思うことに感謝」してみてください。「ごはんがおいしく食べられた」「手足がきちんと動いた」など何でもいいのです。年齢を重ねれば、気力も体力も衰えます。だからこそ、できなかったことを嘆くのではなく、今日できたことを喜びましょう。

「ありがとう」と繰り返し唱えると、不思議とモヤモヤが晴れ、スッと眠りにつけますよ。

「自分とのけんか」をやめて幸せの波動を広げる

「自分とのけんか」をやめて幸せの波動を広げる

私も今年90歳を迎え、シスターとして50年以上、本当にたくさんの方の話を伺ってきました。そして今心から思うのは、「心穏やかに機嫌よく」生きることの大切さです。自分を飾らず、何かにとらわれてイラつくこともなく、いつも自然体でいる。そういう人には何かあっても誰かが助けの手を差し伸べてくれ、大抵のことはうまくいくのです。

何かとイライラしがちという方は「自分の中のけんかをやめる」ことから始めてみませんか。人は思い通りにいかないことがあると、「なぜあなたはこんなこともできないの」と責めてくる“理想の自分”(頭)と、「でもしょうがなかったのよ」と言い訳をする“本音の自分”(心)がけんかを始めます。

ついには「全部あの人のせいだ」と責任転嫁を始め、人間関係も悪化してしまいます。

頭と心のけんかが始まったら、まず水を1杯飲んで冷静になって、「自分は今こう思っているんだな」と、双方の話を否定せずによく聞きます。その後は、大股で歩いたり体操をしたり、普段開けない戸棚を開けて風通しをよくしたり、体を大きく動かしましょう。

人を支えているのは、頭と心と「体」ですから、体を動かすことで無心になり、強制的にけんかをストップさせられるのです。まず自分に寄り添う習慣を身につけていけば、自分の機嫌も取れるようになってきます。

そして心の中に平和がある人は、周囲に幸せの輪を広げることができます。みなさんの中には、最近のウクライナ情勢に心を痛め、何もできないもどかしさを感じている方も多いでしょう。

募金など具体的な支援ももちろん大切ですが、身近で苦しんでいる人に手を差し伸べるだけでもいいのです。誰かに希望を与えられれば、その人も「自分は周囲の人に何ができるだろう」と考える余裕ができます。

一つ一つの行為が幸せの波動となって、ウクライナをはじめ、世界中に届くかもしれません。

大げさに聞こえますか?でも人と人とは必ずどこかでつながっていますから、不可能ではないのです。そんな“幸せ発信地”になることを、一緒に目指しませんか。

次回は、私がシスターを志した理由と、大切な人の「死」との向き合い方についてお話しします。

取材・文=新井理紗(ハルメク編集部)
※この記事は「ハルメク」2022年6月~8月号に掲載された「こころのはなし」を再編集しています。
 


鈴木秀子さんのインタビューを音声で聞く

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思いがけない病や、災害。身近な人との突然の別れ――。人生で耐え難い悩み、苦しみを抱えたとき、そこから抜け出すすべはあるのでしょうか。50年以上にわたり、カトリックのシスターとして多くの方の悩みに向き合ってきた鈴木秀子さんが考える「負の感情を力に変える心の持ち方」をお届けします(全3回)。

朗読:衣鳩志野

>>動画一覧はこちら

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「大切な人の死」を生きる恵にする3つの方法
誰かを癒やし、自分を磨く!「聞く力」で心に寄り添う

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