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- 苦手意識が消える!「思考」「行動」のクセの変え方
心の悩みは特にないと思っている方でも、片付けができない、ご近所とうまく付き合えない……など、暮らしの中で心につかえていることはありませんか? 「考え方や行動のクセを変えることで、ラクになります」と臨床心理士の高井祐子さんは言います。
教えてくれた人:臨床心理士・高井祐子(たかい・ゆうこ)さん
神戸心理療法センター代表。公認心理師。臨床心理士。20年以上カウンセリングに携わり、のべ1万2000人を診てきた。主に認知行動療法、マインドフルネスを用いて個人心理療法を行うかたわら、生活臨床の重要性を伝える。最新刊に『「自分の感情」の整えかた・切り替えかた』(大和出版刊)がある。
あなたの「考え方」が、片付かない状況を生み出す
はじめまして、臨床心理士の高井祐子です。神戸心理療法センターで心の悩みの相談に応じています。
ご相談の内容はいろいろですが、「家が片付かない。どうすればいいのでしょうか?」というものもあります。
「片付けられない」悩みの相談を、整理収納アドバイザーではなく臨床心理士に? と不思議に思われるかもしれませんね。でも、私の専門である「認知行動療法」なら、散らかった家も、その方の心もスッキリさせられます。
認知行動療法とは、「考え方」を変えることにより、日々のモヤモヤ、ストレスを軽減させる心理療法です。
「認知」とは、ものごとの捉え方・考え方で、「行動」とは文字通り、実際に何かをすること。この認知と行動の両面から、悩みを解決していきます。
片付けられない人の“考え方”あるあるパターン
さて、片付けられない人によくあるパターンに、次のようなものがあります。
- 「とりあえず」とその場しのぎになり、そこらへんに物を置いてしまう
- 「移り気」で、あれこれと考えごとが散漫になり、結果的に散らかる
- 完璧に行うか、そうでなければまったく行わないかの「ゼロヒャク(0、100)思考」で、大規模に行う片付けの途中で疲れてしまい、結局は片付かないままになってしまう
どれも、その人のものごとの考え方や捉え方のクセ、つまり認知によって「家が片付かない」という状況を作り出してしまっているのです。こういった片付けられない人たちには、私は「行動」の面からアプローチします。
まずは疲れないように、場所や範囲を絞って取り組んでいただきます。たんす1棹では大変なら、引き出し1段だけとか。台所を片付けたいなら、調味料棚だけとか。特に(3)の人は「やり過ぎてしまう」行動のクセがあるので注意が必要です。
場所が決まったら、「思い切って捨てる」「しまう場所を決める」などを行って片付けていきます。ハルメクの片付け特集でも、こうした方法を紹介していますよね? まさにそういうやり方を実践していただくのです。
相談者と話をしながら、次に会うときまでに、片付ける場所、物、量を決めます。少しずつ段階を追って行うことが大切です。そうすることで何を行うかが明確になり、考えが整理されていきます。
心と体を疲れさせる「認知」と「行動」の関係性
片付けに関する認知モデル
それでは次に、認知と行動、そして心と体の反応の関係を説明します。上の図に、認知行動療法の考え方を示します。心と体の関係、認知と行動の関係を整理するものです。この図に、片付かない人をあてはめてみます。
まず、闇雲に片付けをする(1)。これは「行動」ですね。
でも計画を立てて行っていないので片付きません。すると、イライラする(2)という「感情」が生まれます。そのストレスが頭痛や肩こりとなって現れたり(3)、片付けたことで疲れたりします(4)。これを「生体反応」と呼びます。
そうして、片付けを全うできなかったら、やった意味がないと考えたり(5)、片付けられない私はダメな人間と捉えてしまったりします(6)。これが「認知」です。
そう思ったら、嫌な気分に(7)。頭痛がもっと頻繁に起きて、横になって休む(8)と、ああ私は昼から寝ているなんてダメな人間だと思って、また嫌な気持ちになる……というように片づけを取り巻く悪循環の反応が続いてしまいます。
どこか一つ改善するだけでいい循環に変わっていく
このように「認知」「行動」「感情」「生体反応」は、相互に関係し合っています。
「ダメな人間だ」と自分を捉えれば「嫌な気分」になりますし、「闇雲に片付け」をしたら疲れるというように、心(感情)と体(生体反応)は、認知や行動に左右されるのです。
しかし裏を返せば、心と体は、認知や行動によってコントロールできるとも言えます。
認知、つまり考え方のクセをコントロールする方法とは、(5)や(6)は本当にそうだろうか? と見直すことです。自分に問いかけて、「なかなか片付かないけれども着実に物は減っている。完璧ではないけれど、家は片付いてきている」と思うようにします。
それに、片付けができないからって、私の人生すべてがダメ(6)ではありませんよね。「私には得意なことがある」と思うようにすると、イライラ(2)は減少するでしょう。気持ちに余裕ができて、横になって休まないで(8)友人と会えば、もっと気分が明るくなります。こうして、少しずついい循環が作られます。
一方、行動の制御では、(1)を「闇雲」にではなく、「計画的」に少しずつ行います。計画を達成できれば気分はよくなり、「片付けのできる自分」と思え、片付けがはかどります。
「ご近所付き合いが面倒」「外出がおっくう」……というようなみなさんの心のつかえも、上の認知モデルに当てはめてみてください。認知や行動がいかに感情や生体反応に影響を及ぼすか、イメージできると思います。そして悩みを取り巻く状況を客観的に把握でき、今すべき対処法が見えてくることでしょう。
「認知」と「行動」は自身の力で変えていける
生きていれば、つらいことや嫌なことが起こるものです。認知行動療法を取り入れても、そういったことは避けられませんし、今までの暮らしが180度ガラッと変わることはありません。
それでもつぶされず、ささやかな幸せを見つけられるしなやかな心を持った自分になることはできます。「認知」「行動」は自身の力で変えていくことができます。この先、よりラクに暮らせるように、ぜひ認知行動療法の考え方を取り入れてみてください。
今回は、「ゼロヒャク思考」の方へのアドバイスで締めくくりたいと思います。ゼロヒャク思考の方は、片付けが苦手な人だけでなく、まじめな50代・60代の方に多い考え方のクセです。今日から、自分にこう言い聞かせてみてください。
「100点じゃなくてもいいよ」「きれいに片付けられなくても、がんばったならそれでいい」と。
もしかしたら、そう考えようと思っても、「中途半端ではダメ」と反発する気持ちが芽生えてくるかもしれません。「完璧に」が、これまでのあなたの考え方でしたから当然です。
そんなとき、新たなゼロヒャク思考が生まれ、「考え方を完璧に変えられない」自分に対してモヤモヤを抱えてしまうかもしれませんが、それでいいのです。一気に変えなくていいですし、そもそも一気に変えられるものではありません。
はじめは、「ゼロヒャク」ではない考え方をするのが自分を甘やかしているようで落ち着かないかもしれませんが、徐々に「少しでもいい」「できるところまででOK」と考え方がしなやかになっていきますよ。
次回 は、暮らしを整えてしなやかな心を手に入れる方法をお伝えします。
取材・文=井口桂介(ハルメク編集部)
※この記事は、雑誌「ハルメク」2023年4月号を再編集しています。
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