苦手意識が消える!「思考」「行動」のクセの変え方

2024年05月27日

50代からの「しなやかなこころ」のつくり方#1

苦手意識が消える!「思考」「行動」のクセの変え方

心の悩みは特にないと思っている方でも、片付けができない、ご近所とうまく付き合えない……など、暮らしの中で心につかえていることはありませんか? 「考え方や行動のクセを変えることで、ラクになります」と臨床心理士の高井祐子さんは言います。

教えてくれた人:臨床心理士・高井祐子(たかい・ゆうこ)さん

神戸心理療法センター代表。公認心理師。臨床心理士。20年以上カウンセリングに携わり、のべ1万2000人を診てきた。主に認知行動療法、マインドフルネスを用いて個人心理療法を行うかたわら、生活臨床の重要性を伝える。最新刊に『「自分の感情」の整えかた・切り替えかた』(大和出版刊)がある。

あなたの「考え方」が、片付かない状況を生み出す

はじめまして、臨床心理士の高井祐子です。神戸心理療法センターで心の悩みの相談に応じています。

ご相談の内容はいろいろですが、「家が片付かない。どうすればいいのでしょうか?」というものもあります。

「片付けられない」悩みの相談を、整理収納アドバイザーではなく臨床心理士に? と不思議に思われるかもしれませんね。でも、私の専門である「認知行動療法」なら、散らかった家も、その方の心もスッキリさせられます。

認知行動療法とは、「考え方」を変えることにより、日々のモヤモヤ、ストレスを軽減させる心理療法です。

「認知」とは、ものごとの捉え方・考え方で、「行動」とは文字通り、実際に何かをすること。この認知と行動の両面から、悩みを解決していきます。

片付けられない人の“考え方”あるあるパターン

片付けられない人の“考え方”あるあるパターン

さて、片付けられない人によくあるパターンに、次のようなものがあります。

  1. 「とりあえず」とその場しのぎになり、そこらへんに物を置いてしまう
  2. 「移り気」で、あれこれと考えごとが散漫になり、結果的に散らかる
  3. 完璧に行うか、そうでなければまったく行わないかの「ゼロヒャク(0、100)思考」で、大規模に行う片付けの途中で疲れてしまい、結局は片付かないままになってしまう

どれも、その人のものごとの考え方や捉え方のクセ、つまり認知によって「家が片付かない」という状況を作り出してしまっているのです。こういった片付けられない人たちには、私は「行動」の面からアプローチします。

まずは疲れないように、場所や範囲を絞って取り組んでいただきます。たんす1棹では大変なら、引き出し1段だけとか。台所を片付けたいなら、調味料棚だけとか。特に(3)の人は「やり過ぎてしまう」行動のクセがあるので注意が必要です。

場所が決まったら、「思い切って捨てる」「しまう場所を決める」などを行って片付けていきます。ハルメクの片付け特集でも、こうした方法を紹介していますよね? まさにそういうやり方を実践していただくのです。

相談者と話をしながら、次に会うときまでに、片付ける場所、物、量を決めます。少しずつ段階を追って行うことが大切です。そうすることで何を行うかが明確になり、考えが整理されていきます。

心と体を疲れさせる「認知」と「行動」の関係性

片付けに関する認知モデル

心と体を疲れさせる「認知」と「行動」の関係性

 

それでは次に、認知と行動、そして心と体の反応の関係を説明します。上の図に、認知行動療法の考え方を示します。心と体の関係、認知と行動の関係を整理するものです。この図に、片付かない人をあてはめてみます。

まず、闇雲に片付けをする(1)。これは「行動」ですね。

でも計画を立てて行っていないので片付きません。すると、イライラする(2)という「感情」が生まれます。そのストレスが頭痛や肩こりとなって現れたり(3)、片付けたことで疲れたりします(4)。これを「生体反応」と呼びます。

そうして、片付けを全うできなかったら、やった意味がないと考えたり(5)、片付けられない私はダメな人間と捉えてしまったりします(6)。これが「認知」です。

そう思ったら、嫌な気分に(7)。頭痛がもっと頻繁に起きて、横になって休む(8)と、ああ私は昼から寝ているなんてダメな人間だと思って、また嫌な気持ちになる……というように片づけを取り巻く悪循環の反応が続いてしまいます。

どこか一つ改善するだけでいい循環に変わっていく

このように「認知」「行動」「感情」「生体反応」は、相互に関係し合っています。

「ダメな人間だ」と自分を捉えれば「嫌な気分」になりますし、「闇雲に片付け」をしたら疲れるというように、心(感情)と体(生体反応)は、認知や行動に左右されるのです。

しかし裏を返せば、心と体は、認知や行動によってコントロールできるとも言えます。

認知、つまり考え方のクセをコントロールする方法とは、(5)や(6)は本当にそうだろうか? と見直すことです。自分に問いかけて、「なかなか片付かないけれども着実に物は減っている。完璧ではないけれど、家は片付いてきている」と思うようにします。

それに、片付けができないからって、私の人生すべてがダメ(6)ではありませんよね。「私には得意なことがある」と思うようにすると、イライラ(2)は減少するでしょう。気持ちに余裕ができて、横になって休まないで(8)友人と会えば、もっと気分が明るくなります。こうして、少しずついい循環が作られます。

一方、行動の制御では、(1)を「闇雲」にではなく、「計画的」に少しずつ行います。計画を達成できれば気分はよくなり、「片付けのできる自分」と思え、片付けがはかどります。

「ご近所付き合いが面倒」「外出がおっくう」……というようなみなさんの心のつかえも、上の認知モデルに当てはめてみてください。認知や行動がいかに感情や生体反応に影響を及ぼすか、イメージできると思います。そして悩みを取り巻く状況を客観的に把握でき、今すべき対処法が見えてくることでしょう。

「認知」と「行動」は自身の力で変えていける 

生きていれば、つらいことや嫌なことが起こるものです。認知行動療法を取り入れても、そういったことは避けられませんし、今までの暮らしが180度ガラッと変わることはありません。

それでもつぶされず、ささやかな幸せを見つけられるしなやかな心を持った自分になることはできます。「認知」「行動」は自身の力で変えていくことができます。この先、よりラクに暮らせるように、ぜひ認知行動療法の考え方を取り入れてみてください。

今回は、「ゼロヒャク思考」の方へのアドバイスで締めくくりたいと思います。ゼロヒャク思考の方は、片付けが苦手な人だけでなく、まじめな50代・60代の方に多い考え方のクセです。今日から、自分にこう言い聞かせてみてください。

「100点じゃなくてもいいよ」「きれいに片付けられなくても、がんばったならそれでいい」と。

もしかしたら、そう考えようと思っても、「中途半端ではダメ」と反発する気持ちが芽生えてくるかもしれません。「完璧に」が、これまでのあなたの考え方でしたから当然です。

そんなとき、新たなゼロヒャク思考が生まれ、「考え方を完璧に変えられない」自分に対してモヤモヤを抱えてしまうかもしれませんが、それでいいのです。一気に変えなくていいですし、そもそも一気に変えられるものではありません。

はじめは、「ゼロヒャク」ではない考え方をするのが自分を甘やかしているようで落ち着かないかもしれませんが、徐々に「少しでもいい」「できるところまででOK」と考え方がしなやかになっていきますよ。

次回 は、暮らしを整えてしなやかな心を手に入れる方法をお伝えします。

取材・文=井口桂介(ハルメク編集部)

※この記事は、雑誌「ハルメク」2023年4月号を再編集しています。

耳で聞ける「こころのはなし」シリーズのご案内

耳で聞ける「こころのはなし」シリーズのご案内

散歩や通勤、家事のおともに。「こころのはなし」シリーズは、聞いて学べる音声番組でも展開中です。ぜひご活用ください。

>>高井祐子さん「しなやかなこころ」の作り方を聞く

>>音声番組一覧をチェックする

雑誌「ハルメク」
雑誌「ハルメク」

女性誌売り上げNo.1の生活実用情報誌。前向きに明るく生きるために、本当に価値ある情報をお届けします。健康、料理、おしゃれ、お金、著名人のインタビューなど幅広い情報が満載。人気連載の「きくち体操」「きものリフォーム」も。年間定期購読誌で、自宅に直接配送します。雑誌ハルメクサイトはこちら

みんなの コメント
【限定コラボ】職人技が光る!ハルメク×マエノリのセーター誕生秘話

子どもに残すべきはお金?不動産?どちらがお得?

子に遺すべき資産は?

「現金」か「不動産」か…どっちが得?メリット・デメリットは?相続や親族間のトラブルに悩まされないためにしておくべき準備とは

2024.12.12
【PR】「渋滞の文字で……」トイレ事情あるある

突然の我慢できない尿意

実は多くのハルメク世代が悩んでいる「尿トラブル」…中には上手に対策をしている人も!気軽にできる対策って?

2024.12.10
【PR】個人情報の上手な管理・整理術とは

個人情報管理できてる?

銀行口座・保険・クレジットカードなど、「デジタルの情報」をきちんと管理できていますか?煩雑にしていると思わぬ落とし穴が…

2024.12.09
【PR】三井住友銀行アプリにシンプルモードが登場

お金の管理が簡単に!

三井住友銀行アプリに「シンプルモード」が新登場!スマホ操作が苦手な人でも簡単に使える便利機能が満載です!

2024.11.29
認知症セルフチェック

認知症セルフチェック

「もの忘れが増えた」「名前が思い出せない」という症状に心当たりがある方は要注意!それ、「認知機能のレベル低下」が原因かもしれません…

2024.11.22
思わず笑顔になるコミュニケーションロボット「ニコボ」

健気な姿がかわいい!

「思わず笑顔になる」と巷で話題の「永遠の2歳児・ニコボ」!ハルメク世代の2人に、ニコボとの生活にハマる理由をお聞きしました!

2024.11.22
デジタル資産の遺し方

生前親に●●聞き忘れると

老親の契約や登録しているサービス、これらを子が把握していないと将来ムダな出費や面倒なトラブルに発展する可能性が!特に見落としがちなのは…

2024.10.11
【PR】50代からの願いを叶える新しい資金調達術

50代~お金の増やし方

将来を見据えて、50代から「まとまった資金の調達」が重要になります。どんな選択肢があるか、ご存知ですか?

2024.11.20
【PR】たった60日で英語が話せる!3つのコツ

60日で英語が話せる!

英語をマスターするのに「完璧」はいらない!初心者でも60日で英語が話せるようになる、驚きの3つのコツとは?

2024.08.29
認知症のリスクを確認してみませんか?

今なら無料でお試し!

将来、自分の認知機能が低下するリスクがあるか、簡単に予測できるサービスが誕生。今なら無料で先行利用できます!

2024.08.08
【PR】頼れる家族がいない……入院・入居どうする?

おひとり様の備えはOK?

この先「おひとり様」になったら意外な落とし穴がいっぱい…。そんな不安に備える、おひとり様専用お助けサービスが誕生!

2024.07.22
50代から1日1分!脳トレクイズで楽しく脳を活性化

50代から1日1分脳トレ

認知機能を衰えさせないためには、早い時期から「脳を活性化」させることが大切。脳トレ効果がグッとアップするコツって?

2024.12.04