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- 漫画家・やまだ紫さんの作品に励まされ背筋を伸ばし
「ハルメク」でエッセイ講座を担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、漫画家「やまだ紫」さんです。山本さんが大人になってから出合った漫画の世界で「アナタ、がんばってるね」と語りかけてくれた存在でした。
好きな先輩「やまだ紫(やまだ・むらさき)」さん
1948-2009年 漫画家
東京生まれ。高校卒業後に漫画の投稿を始め、69年デビュー。「鳳仙花」で「COM」新人賞。結婚による中断を経て、79年「ガロ」に「性悪猫」を連載し女性の心理を巧みに表現。エッセイ、詩の名手でもあった。
漫画とわたしのあいだに架かる一本の橋
このたびは漫画のはなしを聞いていただこうと思います。漫画とわたしのあいだに架かる橋のはなしです。
幼い日、漫画をテレビで観るのはいいけれど、読むのはだめ、という母の教育方針のもとで育ちました。どうしてだか、母はそんな風でした。そんなわけで、近所の美容室「ロン」で読んだ「別冊マーガレット」が漫画とわたしのあいだの一本橋だったのです。
中学に上がる年(1971年)「ロン」が閉店すると、橋はなくなりました。
つぎは30歳のとき。編集者仲間による架け橋です。
「漫画を知らない?編集者としてもひととしても問題!」
そうしてわたしの前に大島弓子(おおしま・ゆみこ)、萩尾望都(はぎお・もと)、山岸凉子(やまぎし・りょうこ)の作品がどん、と積まれました。
すべてに真剣な姿は自分を律してくれる
仲間からの教育期間ののち、ついに自ら橋を架ける日がめぐってきました。当時は、離婚して娘たちと3人暮らしをするわたしでした。苦労と呼べるほどの苦労はしていませんが、それでもつねに云(い)い知れぬ緊張感と、心細さとを抱えていたような気がします。
『Blue Sky』と出合ったのは、そんなころのわたしです。今より健気で、自分のつよさと弱さを頼りにしていたような。
ものがたりはこうです。
……商店街の外れのスナック「ブルースカイ」。店を営む愛子さんはひとりで2児を育て、懸命の日々を送っています。愛子さんは作品を通して読み手にささやくのです。
「アナタ、がんばってるね」
作者のやまだ紫にも母子家庭の経験があり、作品にはそのときの感覚や出来事が一部投影されています。
もっともやまだ紫にしてみれば「漫画において自分はひとつのヒント」であって、他者や周囲のあれやこれやへの観察をもとに描くのと同じなのではないかと思われます。
『Blue Sky』との出合いから10年、やまだ紫エッセイ集『愛のかたち』(PHP研究所)の刊行にちょっぴり関わることとなりました。
直接ことばを交わす紫さんは小柄で、かわいらしいひとでしたが、真剣そのもの。仕事に対しても、夫(紫さんは再婚した年下の夫をいつもやさしく〈連れ〉と云いました)に対しても、外で見かける事ごとに対しても。苦情を伝えるようなときも。
やまだ紫の作品は、今もわたしを抱きとめますが、甘さはない。読めばしゃんとしてまたがんばろうと思うのです。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2018年6月号を再編集し、掲載しています。
>>「やまだ紫」さんのエッセイ作成時の裏話を音声で聞くにはコチラから
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