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公開日:2018年07月03日

私の人生の基盤になったもの

ニューヨーク滞在記(1)“研究室”は“洗面所”?

夫の仕事に伴いニューヨークで海外生活がスタート。さまざまな国籍の人たちとの交流やボランティア活動への参加、その活動を通じて感じた人種差別など、異文化体験を回顧します。今回はニューヨーク到着の朝、英語の壁で四苦八苦した様子を綴ります。

初めの一歩

大学院で、Ph.D(医学博士号)を取得し研究者としての第一歩を踏み出した夫はAlbert Einstein College of Medicineに職を得て、3年間の予定でニューヨークへ行くことになった。私は、当時流行していたクイズ番組の『ニューヨークへ行きたいか?』『お~う!』という合言葉のノリで、くっついていったと思う。

英語は、決して得意ではなくむしろ苦手科目だったので、ニューヨーク行きが決まってからはNHK英会話入門を聴いてはいたが、それでは十分でないとひしひしと感じていて、挨拶文例や場面ごとのいくつかの文例を書き付けた小さなメモ帳を作りながらも不安で、どうにかなりそうだった。J.F.K空港に降り立ったときはもうヤケッパチだったと思う。

医科大学のラボのボスからの「身の回りのものだけ持ってくればなんとかするから」と
認められた手紙を握りしめ、機内で飲酒したせいで軽く酩酊状態の夫と、緊張のあまり動きがぎこちない私をJ.F.K空港のゲートで出迎えてくれたのは、ジョー・スクラファニィという碧眼の若者だった。彼は同じラボの研究員で、日本の大学でいう助手だそうだった。

朝10時に成田を発って同日朝10時15分(ニューヨーク時間)に飛行機を降りた我々の身体はまだ日本時間の夜22時から23時のままで、つまり、完全な時差ボケで、ジョーがいろいろと説明してくれているのに、ほとんどうわの空だった。こちらが集中していないと、英語の聴き取りは全くダメで、ジョーが「laboratory」(研究室)のことを話していたのに私は「lavatory」(洗面所)と聞き間違えて、途中でトイレ休憩してくれるのかな~などと考えていた。

夫はまだ酩酊状態が続いていて元来の無口がいっそう無口になっていて、会話があまりにも途切れてしまうので、「ニューヨークは昔はニューアムステルダムって呼ばれていたんだって」という、日本のガイドブックにあった知識を披露したら、「歴史の先生だったのか? 初めて聞いたよ」と、ジョーが食いついたことと、ブロンクスへ渡るホワイトストーンブリッジが羽を広げた大きな白い鳥みたいだなと思ったことだけを覚えている。

ほぼ40年前のブロンクスは治安が悪く、大学付近はまだマシとはいえ一晩路上駐車しておいた車に朝乗ろうとすると、フロントガラス、リアウィンドウがきれいに外されていて風通しがすごく良くなっていたとか、車高が低いなと思ったらタイヤが全て外されていたとか、眉唾モノの噂が跋扈(ばっこ)していて、大きなスーツケース二個と我々をラボの秘書のレネに引き渡したジョーは、クラシカルな(平たく言えばボロな)ビートルを駆って早々に帰っていった。

空港で出迎えてくれたジョー・スクラファニィ
空港で出迎えてくれたジョー・スクラファニィ

 

言葉の壁もまだ一段目

秘書のレネは明るくて世話焼きで、ボスは午後にならないと大学に来られないとかで、代わりにスタッフを紹介してくれた。ラボの№2のジェームズ・ライ(マカオ出身の中国人。当時マカオはポルトガル領だったのでポルトガルのパスポートを持っていた)、主任研究員のコーニー・バーンズ(アイルランド系アメリカ人)、ビーカー洗いのジェニファー(実験器具を専門に洗浄する助手)と、次々に紹介してくれた。

各人の出身や詳細は後日に分かったことで、当日は、レネが「○▲◎×△・・・from Japan」と言うと、私は「How do you do.Nice to meet you」を繰り返すばかりで、ジェニファーが「How can I call you?」と聞いてきたのに電話番号を聞かれているのだと勘違いし、家もまだ決まってないし電話もまだ引いてない……とモゴモゴ考えていたら「Your name」(ニコッ)と言われて、ああ、なんて呼べばいいの? と聞かれているのだと、ようやく気がついた。「My name is Yoko. Same as YokoOno」と答えたら一発で私の呼び名は「ヨーコ」と決まった。オノ・ヨーコさんに感謝!

その時、「Just call me Jennifer」と答え方を教えてもらったので、次からは「Just call me Yoko」(ニコッ)を連発して歩いた。

大学の入り口
大学の入り口。

 

 

ジェニファー。ラボで一番の仲良しになった。
ジェニファー。ラボで一番の仲良しになった。

 


私は挨拶や日常会話程度ができればよかったが、実験を仕事としている夫の言葉の壁がもっと高かったことは想像に難くない。一日中英語漬けで、意思の疎通がうまくいかなくて、彼のプライドがズタズタになることも多かったのだろう。帰宅してから英語を使うと「頼むから日本語で話して。気持ちがほぐれないから」と言われたことがあった。


それでは、次は『アジアの仲間』についてレポートします。

YOKO☆瑛琉(える)
YOKO☆瑛琉(える)

2017年3月まで高校国語科教員でした。新婚の頃と、子どもが5歳の時と、二度アメリカに滞在する機会を得ました。その数年間のさまざまな体験が、妻として、母として、教員としての私の人生の基盤になった経緯をレポートします。

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