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- 欧州旅行でトラブル続出!私の「マンマ・ミーア!」
いろいろな国へ旅行するのが大好きな翠さん。今回は、コロナ禍で思い出した欧州旅行でのトラブルについてです。ラストには、感動の思い出が。
帰りの飛行機に間に合うのか! 地下鉄からの脱出
あれは、10年ほど前に、一人でオーストリア・ウィーンに旅に出たときのこと。ウィーンの街は歩きやすく、何度も訪れているので地理にも詳しい。ウィーンの皇室ご用達カフェ「デメル」やセレブに人気の「ホテルザッハ」のおいしいケーキを食べて、ウィンナーコーヒを飲んで、ご機嫌で散策を楽しんだ。
その日はこの後、まとめてある荷物をバスに積み込んで空港に直行し、あとは帰国するだけという日だった。ウィーンのオペラ座から地下鉄に乗って、ホテルに戻るとき、地下鉄は5つ目の駅が終点。初めての路線だったので指を折って下りる駅を数えていたはずだったのに……。気が付いたら、辺りは薄暗く、周りを見渡せば乗客が誰もいない。「が~ん、どうしたんだろう、ここはどこ?」と、一瞬固まった。車内灯はついていた。よく見れば、地下鉄の車庫のようだ。どうやら地下鉄を乗り過ごし車庫に入ってしまったようだ。それも私一人で……。
よく死ぬ間際の数秒で人はいろいろなことを考えるというけど、まさにその通り。心臓がバクバクしている。
「車内灯がついているということは運転手はまだ乗っている、まだ間に合う」、と自分に言い聞かせるが、口から心臓が飛び出しそうだった。
パニックになりながらも、現実に対応しようとしている私の頭の中では、考えがぐるぐる回っていた。
ああ、飛行機に乗り遅れるんだ、どうやって日本までのチケットを買えばいいのだ。
そもそも今夜の宿はどうやって手配するんだ。
格安ツアーだと思ったけど、これは相当高い旅になってしまった。
果たして支払いはカードが使えるのか、現金はあまり持っていない。
それから、「ヘルプミー!」と叫びながら、7両ほどの車両を運転席まで走った。もう、ウィーンの宿無し乞食になるのかもしれないとさえ思いながら、全力で走った。
しかし、神は私を見捨てなかった、運転席には人がいた。身振り手振りで、「私は今すぐにホテルに戻って、日本に帰国しなければならない。どうやったら車庫から抜け出せるのか」と、必死に片言の英語で話した。
運転手は、なんということもない様子で最後尾まで一緒に走ってくれた。そして、最後尾の車両の運転席に入り、「あなたはこのボタンを押してドアを開けて次の駅で降りなさい」と指示して、車両を運転して一駅戻ってくれた。終点の駅に戻り、私はボタンを押してドアを開け、ホームに降り立つことができた。この運転手は笑顔で手を振ってくれた。本当にありがたく、救われた思いだったが、そこで油断したのが悪かった……。
地下の駅から地上に出て、路面電車に乗り換えなければホテルには行けない。地下鉄車庫から外に出たことで気持ちが緩み、行先も確認せずに来た電車に乗った。その結果、私はホテルとは反対方向の電車に乗ってしまった。いくつかの停留所を過ぎてから気が付いた……。大慌てで下車ボタンを押した。もう空港までのバスの出発時間が迫っていた。万事休すだ。
見知らぬ街で下車し、また反対方向の電車を待ちホテルへと向かった。ホテルに着いたときにはバスの出発時間1分前だった。もう足はガクガク震えて、頭はもうろうとしていた。あまりの間違えにショックを受けながらも、もう一つやり残していたことがあったので、先を急いだ。バスの運転手に断わり、トイレに行かせてもらった。緊張のあまり切羽詰まっていたのだ。
こうして何とか帰国するフライトには間に合ったが、ホトホト自分の不用心さにあきれた旅になった。もう二度とあんなドキドキする思いはしたくないものである。
「マンマ・ミーア!」でマンマミーア(なんてこった)
また、10年ほど前にイギリスを巡るツアーに一人で参加したときには、こんなことがあった。
日本を出国するときに、ある旅行会社でロンドンのピカデリーサーカス駅にある劇場で開演されている「マンマ・ミーア!」というミュージカルのチケットを購入していた。当日は、開演時間に十分に間に合うように劇場に行った。
チケットを示すと「このチケットでは入場できません」と言われた。チケット売り場の女性に「これは日本で購入したチケットです。今日の公演の分です」と話すと、窓口の女性はとても残念そうな表情で「このチケットは一度購入されていますが、その後にキャンセルされている物です」と言う。何度もやり取りをしている間に、まさに「マンマ・ミーア!」の主題歌が流れてきてしまった。ああ、もう始まるんだ。涙がにじんできたが、泣いてはいられない。
また窓口に張り付いて「もう一度チケットを買います! 立見席でも構いません。入場させてください!」と頼んだが、立見はできず、当日チケットは完売だという。
その女性はとても気の毒がって「あなたが悪いのではない、日本のエージェントが手違いだった。明日の夜の公演ならまだチケットがあるので明日いらしてください」と言ってくれた。しかし、明日はもう帰国の日だった。午後の便で帰るのだ。そう話すと「午前中のマチネなら、他の演目が見られる」と言ってくれた。しかし、明日の午前中は自由時間をフルに活用して見たい場所があった。また、違う演目で知らない演劇を見ても内容まで理解できそうにない。「マンマ・ミーア!」は一度日本の劇団四季で見ていたので、内容も把握しやすいと思って本場で見たいと思ったのだった。
受付の女性は、ホテルにいる添乗員に電話をかけ、交渉してくれた。しかし、旅行会社の添乗員は「規約にはそういった手違いもあると記載してあります。お金を返すので、仕方がないですね」と言うではないか。もう仕方がないと諦め、受付の女性には「あなたの親切はずっと忘れません。いろいろ気遣ってくださってありがとうございました」とお礼を言った。しかし、私は添乗員の態度に怒りが収まらなかった。仕方なく、ロンドンにある旅行会社の支店に電話をし、事情を話した。会社として対処してほしかった。
すぐさま若い女性スタッフが駆けつけてきてくれた。そして、近くのバーに連れて行ってくれて話を聞いてくれた。しかし、そのロンドン支店の女性スタッフが謝罪しても仕方がないことなので、私は「もう諦めます」と言った。タクシーでホテルに戻ると玄関で添乗員が待ち受けていて「タクシー代金とチケット代です。もうこれでこの件は終わりです」と言われた。
この一件で、私はこの先この旅行社を使うことはなくなった。
しかし、ここでも神は私を見放さなかった。「マンマ・ミーア!」を見ることができなかった旅から2年後のこと。娘と二人でイギリスとフランスへ自由旅行に出掛けた折に、娘が「マンマ・ミーア!」のチケットを手配しておいてくれたのだ。しかも、あのときと同じ劇場で!
開演の主題歌が流れたとき、今度は本当に泣いた。うれし泣きだ。舞台に立つミュージカル俳優たちの姿は涙でにじんでいた。
あれから月日がたった今、コロナ禍で時間がある私は、練習を繰り返し、「マンマ・ミーア!」の主題歌であるアバの「ダンシング・クィーン」を下手な英語で歌っているのである。
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