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40代でC型肝炎が発覚。22年間の闘病と新薬での完治後、明るい未来へ心を弾ませていた私に脳出血という次なる病がー。その時の体の状況や家族の支えなどを振り返ります。今回は回復してできるようになったことや、諦めたことについて語ります。
2019年春
春の気配は、「新しいことを始めなさい」というメッセージを、運んでくるようだ。
2019年3月、陽気に誘われて、2017年2月の退院した日に歩いたのと同じコースを歩きに遠出した。夫に腕を貸してもらいながらではあるけれど、凸凹道も、坂道もぐんぐん歩けた。2年間続けてきたリハビリと自主トレで、体力も随分ついて、息が上がることもない。「もっと歩きたい!」と、突然思い立ち、スーパーマーケットの靴屋さんに寄り、ウォーキング用の靴を買った。麻痺している右足のつま先を擦りやすく、すぐに靴が傷んでしまうので、バーゲンに出ているのを複数買った。
2年前の退院の日も、よく晴れた気持ちのいい日だった。退院の高揚感から、いくらでも歩けるような気分になって、病院の窓からいつも見ていた川の土手を一歩きして、久しぶりの外気を胸いっぱいに吸ってから自宅に帰ることにした。が、入院以来、地道を歩くのも、坂道を歩くのも初めてだったあの日、ちょっとした凸凹にも、傾きにも、体を取られて、まともに歩けなかった。体力も驚くほど落ちていて、すぐに息も上がり、3か月という入院生活の長さを思い知ったものだった。
私は、2019年3月いっぱいで、1年2か月続けてきたデイサービスを卒業する。4月からは、春を楽しみながら、自然の中をもっと歩こう。英会話のレッスンを始め、もう一度英会話を学び直そう。病後始めた、朗読の勉強にも本格的に取り組もう。
自宅の梅の枝に鶯が止まって春の日差しを浴びている。
2018年を再出発の年と決めて
2017年2月、3か月の入院生活を終えて退院。言語療法と理学療法は一応卒業となったものの、頭はぼんやりとして水の中に浮かんでいるよう。聞こえてくる言葉にも、見るものにも全てにリアリティがない。歩ける距離はどんどん伸びたけれど、いつも右に引っ張られているようで、一人で出かける自信が持てない。右手の揺れも収まらないので、とても料理をする気にはなれない。要するに、全てに自信が持てないのです。
脳出血の後遺症とはこんなものなのかもしれない。これが今の私なのだと自分に言い聞かせて受け入れ、もう、病後という意識は捨てよう、そして、2018年を再出発1年目の年にしようと決意しました。
再出発のテーマは ―Sustainable and meaningful living―(持続可能で有意義な生活)
誰しもいずれは年老いて、頭がボンヤリしてきたり、体が思うように動かなくなったりしてくるもの。ゆっくりとマイペースで、持続可能で有意義な生活の仕方を模索しよう。
不自由だけれど、QOLを保ち続けて
歩き出さない限り大丈夫。クリニックや電車の中で、座った状態で久しぶりの知人に会っても、私が片麻痺の不自由な体になっていることは、誰にも気づかれません。でも、立ち上がった途端「足を痛めはったん?」と、声がかかります。右半身、特に肩から肘に掛けては、今なお石のように重く、いつも体全体が右に引っ張られている感じなのです。特に歩き始めは、スムーズに足を運べません。
食べ始めるまでは大丈夫。背筋をしっかり伸ばし姿勢よくテーブルに着くことができます。
食事が始まった途端、同席した人たちは、見てはいけないものを見てしまったような態度になって、そっと目をそらします。お箸も、スプーンも、ナイフだって使えるけれど、口に運ぶときの動作は、まるで一昔前のロボットのよう。ぎこちなくて、ゆっくりです。
病後、あきらめたこともたくさんあります。
まずは、車の運転。8年前、夫より一足早く退職した私は、これからは、夫の運転に頼らず、自分でどこにでも出かけようと、古い車にポータブルのカーナビを自分で取り付け、ETCも付けました。そして、初めての場所にも、複雑な車線変更が多い大阪市内にも、一方通行の狭い道だらけの京都市内へもどんどん出かけていました。何しろ、最寄駅というものがないほどの田舎に住んでいるのですから……。
散々迷った挙句、「リスクを負ってまで運転をがんばる必要はない」と言う夫の言葉に甘えることにしました。
次に、料理です。基本的に私は家事が大好きです。息子に「お母さんは、いつも片付けしているなあ」と言われるほど。すっきりと片付き、好きなものだけに囲まれた暮らしに、幸せを感じるのです。季節の食材をふんだんに取り入れて料理し、それが引き立つような器に盛り付けて、食卓を囲む。そんなことにも幸せを感じていたのです。
でも、そんな食事の用意は、出来の悪いロボットのようにしか動けない私には、3時間も4時間もかかってしまう事でしょう。そこで妙案が!
1. 私が献立を考え、スマートフォンで生協に1週間分の食材を注文する。
2. 毎日の献立は、書字訓練も兼ねて、私がホワイトボードに書き、冷蔵庫に貼っておく。
3. それを見て夫が料理をする。
―ここにたどり着くまでには、色々な葛藤があったけれど、夫はもともととても器用で、物づくりが大好きな人。あっという間に我が家の名コックとなりました。夫の休息日を作るため、ここに息子も参入。週に2回、パスタ、ハンバーグ、根菜&チーズの料理などを作ります。この2日間が、我が家のワイン&焼酎デー。
こうして、あきらめたことがありながらも、家族のQOL(生活の質)を保ち続けられたことで、心の安定が図れ、家族3人共に元気で楽しく過ごせ、私は安心してリハビリに向き合えたのです。
次回は、脳出血最終回。リハビリ用品、QOLを保つための道具についても書いていきたいと思います。
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