映画レビュー|「52ヘルツのクジラたち」
2024.02.282021年01月19日
思い通りにいかなくても、人生は美しい
映画レビュー「ニューヨーク 親切なロシア料理店」
女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回の1本は、夫のDVから逃げ路頭に迷っていたクララだが、看護師のアリスやロシア料理店で出会う人々に救われ、人と人との触れ合いや助け合いの美しさに心温まる作品です。
「ニューヨーク 親切なロシア料理店」
夫のDV(家庭内暴力)から逃れ、2人の幼い息子を連れてニューヨークへ出てきた若い主婦クララは、義父に助けを求めるも受け入れられず、所持金も途絶え、路頭に迷っていたときに看護師のアリスに助けられる。救急病棟での激務をこなしながらも、ボランティアで人生に挫折した人たちのためのセラピーの会合を催しているアリスは、行きつけのロシア料理店「ウィンター・パレス」にクララを連れて行く――。
さまざまな人種や境遇の人々が暮らしたり働いたりしている大都会といえば、人と人との関係が希薄になり、殺伐としているといった印象を持つ人も多いだろう。そんなマンハッタンを舞台にした本作は、人と人とが触れ合うことや助け合うことの美しさを描いた心温まる群像劇だ。
舞台となるのは、かつての栄光は影を潜め、今は経営も傾いている老舗のロシア料理店。クララやアリス以外にも、この店を取り巻く人々はみんなワケありだ。刑務所を出所したばかりの謎めいたマネージャー、不器用さから仕事をクビになってばかりいる男、看護師のユニフォームのままのアリスをいつも優しく受け入れてくれるオーナー。
だが、このレストランはまるで“避難所”のように、こうした傷ついた人、行き場のない人たちを迎えてくれる。彼らの織りなす人間模様は、自分のことのように心に響き、胸が熱くなる。監督は「17歳の肖像」でアカデミー賞3部門にノミネートされたデンマーク出身の女性監督ロネ・シェルフィグ。生産性や合理性だけに評価が与えられがちな今日にあって、“よそ者”だからこそ身に染みる人の善意という、一見ありふれたテーマを見事にブラッシュアップし、血の通った人間ドラマにつくり上げた。
監督・脚本/ロネ・シェルフィグ
出演/ゾーイ・カザン、アンドレア・ライズボロー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ他
製作/2019年、デンマーク、カナダ、スウェーデン、フランス、ドイツ
配給/セテラ・インターナショナル
12月11日(金)より、シネスイッチ銀座他、全国順次公開
もう1本「燃ゆる女の肖像」
18世紀のフランス。とある貴族から、秘密裏に娘エロイーズの肖像画を描くことを頼まれた画家マリアンヌは、孤島にある館を訪れる。父の名前でしか作品を発表できなくても芸術家として生きようとするマリアンヌ、親の決めた結婚をいやいや受け入れるエロイーズ。正反対の生き方をする2人の女性の出会いと恋を描く、激しくも美しい物語。女という性に対するさまざまな疑問を投げかける現代的な作品でもある。
監督・脚本/セリーヌ・シアマ
出演/アデル・エネル、ノエミ・メルラン
製作/2019年、フランス
配給/ギャガ
TOHOシネマズシャンテ他にて公開中
文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。映画サイト『ファンズボイス』(fansvoice.jp)のチーフコンテンツオフィサーとしても活躍中。
※この記事は2021年1月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。
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