上大岡トメさんインタビュー#4
60歳、初めてのヨーロッパ長期旅。「誘われたら断らない」が生んだ奇跡
60歳、初めてのヨーロッパ長期旅。「誘われたら断らない」が生んだ奇跡
公開日:2026年03月30日
60歳、憧れのヨーロッパ長期ひとり旅がスタート
「60歳の冒険」と称して、長年の憧れだった海外長期ひとり旅を実現させた、上大岡トメさん。イタリア・フィレンツェをはじめ、イギリス、ドイツを1か月半にわたって巡る、大旅行です。
最初の滞在地は、フィレンツェ。イタリアに長く暮らす、宿泊コーディネーター・chihoさんに紹介されたキッチン付きのアパートを拠点に、4週間の暮らしが始まりました。
石畳の道を歩くだけで心が弾み、歴史ある建造物を眺めるだけで幸せを感じる日々……。食べることが大好きなトメさんにとって、市場で新鮮な食材を探す時間も大きな楽しみに。
「外食はこってりしているので、“1日1食まで”と決めて。あとは市場で買った野菜やお肉を持参した調味料で味付けして、自炊を楽しみました。イタリアの野菜はとっても味が濃いので、茹でたり、スープにしたりして、シンプルに塩で味付けするだけでもごちそうになるんです」
地元の安くておいしいワインにも魅了され、毎日の食卓が豊かな時間に。急ぎ足で回る観光ツアーでは味わえない、長期滞在ならではの「暮らすような旅」を満喫できたそうです。
誘われたらYes!固まった心をほぐす旅
今回の旅では、トメさんなりのマイルールを決めていました。それは、「誰かに誘われたら断らずに乗っかってみる」こと。
長年の生活で身についてしまった「こうしなきゃ」「こうあるべき」という固定概念や思い込みを旅の間だけでも手放してみよう――。
そんな気持ちから「今回の旅では心を寛容にすること」を意識したのだそうです。
すると、早速現地に暮らすChihoさんから「水車小屋でパン作りを手伝いませんか?」との魅力的なお誘いが。もちろん、二つ返事でオーケーしたトメさん。
水車の力で石臼を回し、粉をひいて生地をこね、石窯でじっくり焼き上げる。昔ながらのパン作りは想像以上に楽しく、焼きたてのパンは格別の味だったと言います。
「持ち帰って冷凍して、残り3週間の滞在中の朝ごはんにしました。毎朝、幸せでしたね」
さらに日本にいるトメさんの先輩から「ローマに知人がいるから行ってみたら?」と紹介を受け、1泊2日のローマ旅へ。思いがけないご縁が、旅をますます豊かにしてくれたそうです。
ミュンヘン空港での“ひと声”から始まった出会い

トメさんの、まずは誘いに乗っかってみるという“Yesの連鎖”は、日本を旅立ったときからすでに始まっていました。
行きの乗り換え地であるミュンヘン空港でのこと。1時間15分という短い乗り換え時間に不安を抱いていたトメさんは、同じ便に乗るイタリア人女性2人の英語を耳にし、思い切って声をかけました。
「『私も同じ便なんです!』と言ったら、『じゃあ、一緒に行きましょう!』と言われて」
その一言から会話が弾み、すぐに意気投合。彼女たちから「ミラノでシェアオフィスをやっていて、一部屋空いているから、泊まりにおいでよ!」と、誘われたのです。
「うれしかった反面、『もしも壺が出てきたらどうしよう』『マフィアに連れて行かれでもしたら』とネガティブな妄想でいっぱいになりまして(笑)。でも、とても素敵な女性たちだし、ここは勇気を出して誘いに乗ってみることにしたんです」
早速、連絡先を交換し、現地の人たちの間でよく使われているメッセージアプリ「WhatsApp(ワッツアップ)」をダウンロードしてやり取り。ワクワクドキドキでミラノに向かうと、明るく二人が出迎えてくれ、ホッと胸をなで下ろしたと言います。
夕食を囲みながら、お互いの仕事のこと、政治のこと、女性のこれからの生き方まで語り合い、心ときめく時間を過ごしたトメさん。
「私の英語が拙いので、20歳も年下の彼女たちが、まるでお姉ちゃんのように面倒を見てくれて(笑)。まさかイタリア人の友達が2人もできるとは思ってもいませんでした」
倒れて気付いたセーフティネットの大切さ
順調に見えた旅ですが、思わぬピンチにも見舞われました。フィレンツェ滞在中にインフルエンザにかかり、その後、持病の喘息の発作も出てしまったのです。
高熱と、やまない咳……。すぐさまChihoさんにSOSを出すと、現地の医師を紹介され、クリニックへ。オンライン通話でchihoさんに同時通訳してもらい、必要な薬を処方してもらうことができたそうです。
「慣れない海外での体調不良で心細かったところ、助けてもらって本当に心強かったです。驚いたのは、Chihoさんが医療通訳のお仕事もされていて、フィレンツェ中のお医者さんとつながっていたこと。
クリニックのお医者さんから『今日はチコ(Chihoさんの愛称)は来ないの?』って言われるぐらい、街の人たちから愛されていて。
Chihoさんのように異国の地で力強く根を張る生き方も本当に素敵だなぁと感動しました」
そして、大人の冒険には、現地に知り合いや頼れるプロの存在が欠かせないことを実感。「旅のセーフティネット」の大切さを痛感したと言います。
遠くを見たからこそ、足元の景色が輝く
ヨーロッパの旅でトメさんが感じたのは、現地の人たちの大らかさと、人と目を合わせる文化でした。
飛行機でも隣の席の人と自然にアイコンタクトを交わし、微笑みながら挨拶をする。目を合わせるだけで、空気が和らぐのを感じたと言います。
帰国後、ふらりと入った蕎麦屋でのこと。お会計のときに店主と目を合わせ、「わさびが香り豊かで、とてもおいしかったです」と伝えてみたところ、思いがけない温かな会話が生まれたそう。
「日本でも、ちゃんと目を見て言葉を交わせば、こんなに優しい時間が流れるんだなって気づきました」
そしてもう一つ、大きな発見が。
「ひとりで遠くに行ったからこそ、帰ってきてホっとしたのでしょうか。地元・山口の景色もヨーロッパと同じぐらい美しいと思えたのです。足元の景色の輝きを感じられる自分になれたのがうれしいです」
50代からの人生はアディショナルタイム
最後に、60歳の大冒険にチャレンジしたトメさんから、ハルメク世代へのメッセージを伺いました。
「両親を見送ったとき、人は思ったよりあっけなく旅立つものなんだと知りました。だからこそ、動けるうちに行きたい場所へ行ったり、食べたいものを食べたり、会いたい人に会いに行ったり。後悔しないように、生き切りたいなって。
そもそもヒトの寿命は50歳までしかプログラムされていない、という説もありますから、私たちはいつ試合終了のホイッスルが鳴ってもおかしくないのかもしれません。50代からの人生はアディショナルタイム。そう思って、悔いなく楽しみ切りたいですよね!」
上大岡トメさんのプロフィール

東京生まれ、横浜育ち。会社勤務を経て、イラストレーターになる。1級建築士、ヨガインストラクター、ふくもの隊隊長。現在は山口県在住。「マンガで解決!老人ホームは親不孝?」(主婦の友社)、「遺伝子が私の才能も病気も決めているの?」(幻冬舎)、「老いる自分を許してあげる」(幻冬舎)、新刊「推し!はお遍路」(ふくもの隊と共著 ミシマ社)など、介護やエイジングをテーマにした著書多数。
公式ウエブサイト「トメカミカメト」
Instagram @tome_kamioooka
■上大岡トメさんインタビュー
第1話:更年期は「新しい体へのアップデート」
第2話: 「うちの親は大丈夫」が崩れた日
第3話:60歳からの海外長期ひとり旅の準備
第4話:ヨーロッパ旅で広がった出会い




