上大岡トメさんインタビュー#2
親の介護、全部背負わなくていい。50代からの自分にやさしい介護術
親の介護、全部背負わなくていい。50代からの自分にやさしい介護術
公開日:2026年03月30日
「うちの親は大丈夫」…そう思っていた私が直面した現実
トメさんが最初に親の老いに直面したのは、56歳のとき。80代のお母さまが腰を痛め、歩けなくなったことがきっかけでした。
急きょ、山口県の自宅から神奈川県の実家へ駆けつけたトメさん。そこで目にしたのは、背中が丸まり、すっかり老いが進んだお母さまの姿……。さらにショックだったのは、スポーツが得意で快活だったはずのお父さまも、どこかひと回り小さくなっているように見えたことです 。
「うちの親は大丈夫だろう、きっと二人とも元気にやっているんだろうなって、無意識のうちに“親フィルター”をかけていたんですよね。でも、確実に老いは進んでいて……。
その現実を認めたくなくて、どこかで先延ばしにしていたんです。でも、いよいよ行動しなければと思い、地域包括支援センターに駆け込みました」
その後、要介護認定を申請。京都に住むお姉さまと協力しながらの「遠距離介護」が始まりました。
50代の遠距離介護「頑張りすぎない」ことが自分も家族も守る
介護が始まるにあたり、トメさん姉妹は最初に役割分担を決めました。
大学教授として学会などで多忙なお姉さまに代わり、比較的時間の自由がきくトメさんが「介護のキーパーソン」を担うことにしたのです。
「姉がその代わりに、『できることは全面的にサポートするから。介護についても一切文句は言わないよ』と言ってくれて。何かあるとすぐ相談に乗ってくれたので、本当に心強かったです」
やがてご両親の体力や認知機能が落ち始めると、介護は一気に本格化していきます。
平日はヘルパーや訪問看護など介護サービスをフル活用し、土日はトメさん姉妹が交代で実家へ。身の回りの世話や話し相手を務めるなど、誰一人欠けても回らない綱渡りのような生活が続きました。
お父さまの入院時には、トメさんが山口・神奈川間を2週間で5往復したことも。度重なる移動と心労で体力は消耗し、周囲から「何か大きな病気では?」と心配されるほど激やせしてしまったそうです。
「こんなこと、物理的にはやろうと思えばできますけど、絶対にやっちゃいけないなと。50代って、自分の体力も曲がり角。無理をして共倒れでもしたら、自分にとっても親にとってもリスクでしかないと痛感しました」
施設入居という決断。父の背中を押した母の一言
在宅介護が限界に近づくと、施設入居という選択が現実味を帯びてきました。
実はトメさん姉妹は、ご両親がまだ元気なうちから「ギリギリまで二人でがんばってもらったら、その後は施設にお願いしよう」と話し合っていました。
水面下で老人ホームの見学を始めながら、お母さまに施設入居の話を切り出すと、意外にもすんなり受け入れてくれたそうです。
ただ、一番の壁になったのはお父さま。「俺は行かん!」と頑なに拒否したのです。
「そんなとき助け舟を出してくれたのが母でした。母はもともと現実的に考えるタイプなので、『家だと危ないから、お父さん行くわよ。私だけでも行くからね』とキッパリ言ってくれて、助かりました」
その後もお父さまはたびたび難色を示しましたが、トメさんの説得や施設のケアマネジャーの頼もしいサポートもあり、無事に入居。看護師が24時間常駐する介護付き有料老人ホームでの穏やかな生活が始まりました。
介護を支えた「情報・お金・人脈」という3つの柱
ハードな介護を経験したトメさんが、大切だと実感したポイントが3つあります。それが「情報」「お金」「人脈」です。
1.情報(介護の予備知識)
まず支えになったのが、トメさん自身が著書の取材を通して得ていた「介護の予備知識」です。
いつまでも元気だと思っていた親が、体力や認知機能を失っていく姿を見るのは、想像以上につらいものです。実際、予備知識がなかったお姉さまは、ご両親の様子に戸惑い、別室から「どうすればいい?」とトメさんに電話をかけてきたこともあったそう。
「そこで冷静に姉をサポートできたのは、認知症の進み方や対応の仕方を、介護の専門家の方から事前に学んでいたから。今は本やネットでも情報が得られるので、少しでも知識があると慌てずに対応できますよね」
2.お金(介護資金の見通し)
もう一つ大きかったのが、資金の見通しがついていたこと。お母さまは元気なうちに、通帳や貴重品、資産のことをトメさんに伝えてくれていたそうです。
「取材でお世話になったファイナンシャルプランナーの畠中雅子先生が、『親の介護は親の資産で賄うべき』とおっしゃっていましたが、本当にその通りだなと」
介護には在宅介護サービスや施設の費用など、どうしてもお金がかかるもの。お金の見通しがついていると、介護の方針も立てやすく安心してサービスを選べると感じたそうです。
3.人脈(頼れる介護のプロ)
そして3つ目が、介護のプロとのつながりです。
「介護は、自分たちだけで背負い込まないことが本当に大事。ケアマネさんや施設の方など、プロの存在にどれだけ助けられたかわかりません。私にとっては、まさに“外付け頭脳”のような存在でした」
ケアマネも人によって得意分野や対応が異なる、とトメさん。「制度やサービスの情報を常にアップデートしているような、情報感度の高いケアマネさんはとても頼りになります」
荷物は減らしても、人生までコンパクトにしたくない
2023年にお父さまを、2024年にお母さまを見送ったトメさん。
「自分たちでやれることは全部やった、という思いがあるので、寂しい気持ちはありつつも、本当に“お疲れさまでした”という感じですね」
ご両親の介護とお見送り、そして実家の遺品整理――。一連の経験を通して、トメさんは「自分の老後」についても真剣に考えるようになったと言います。
「万が一のときのために必要な書類をまとめて、家族には『事務関係はよろしくね』と伝えています。あと、絶対に譲れないのが遺影の指定です」
実はトメさん、自分の遺影候補を毎年アップデートしているとか。
「最近も出版社さんにいい写真を撮っていただいたので、『今年はこれね!』と指定しました。よりによって『なんでこの画質?』『合成かよ!』みたいな写真を使われたら悲しいじゃないですか(笑)。『みんなが思い出す私の顔、これなの?』って」
老い支度さえも、トメさんにかかればユーモアのある前向きなタスクになります。
「私、老後に向けて生き方をコンパクトにするのはイヤなんです。荷物は極力減らしますけど、人生まで縮小するのはつまらないなって」
そんな好奇心あふれるトメさんが次なる舞台に選んだのは、ヨーロッパ。続く第3回では、60歳を迎えるトメさんの新たな冒険「ヨーロッパ長期滞在の旅準備」についてお届けします。
上大岡トメさんのプロフィール

東京生まれ、横浜育ち。会社勤務を経て、イラストレーターになる。1級建築士、ヨガインストラクター、ふくもの隊隊長。現在は山口県在住。「マンガで解決!老人ホームは親不孝?」(主婦の友社)、「遺伝子が私の才能も病気も決めているの?」(幻冬舎)、「老いる自分を許してあげる」(幻冬舎)、新刊「推し!はお遍路」(ふくもの隊と共著 ミシマ社)など、介護やエイジングをテーマにした著書多数。
公式ウエブサイト「トメカミカメト」
Instagram @tome_kamioooka
■上大岡トメさんインタビュー
第1話:更年期は「新しい体へのアップデート」
第2話: 「うちの親は大丈夫」が崩れた日
第3話:60歳からの海外長期ひとり旅の準備
第4話:ヨーロッパ旅で広がった出会い





