上大岡トメさんインタビュー#3
親を看取り、60歳からの大冒険!ムリしない「海外長期ひとり旅」の準備術
親を看取り、60歳からの大冒険!ムリしない「海外長期ひとり旅」の準備術
公開日:2026年03月30日
60歳で両親を看取り「海外暮らし」の夢が動き出す
両親を見送ったとき、トメさんの心にふと浮かんだ言葉がありました。
「ああ、もう日本にいなくてもいいんだな」
以前から「いつか海外に住んでみたい」という夢を抱いていたものの、なかなか勇気が出ず、気付けば先延ばしに。そんな中、50代半ばからご両親の介護が始まり、長らく海外に行くことができない日々が続いていました。
ところが、2023年にお父さま、2024年にお母さまを見送り、心境に変化が訪れます。
「両親を見送ったとき、ふと『ああ、もう日本にいなくてもいいんだな』と思って。ちょうど60歳という節目でもあるし、思い切って海外に長期で行ってみようかなと。しかも自分ひとりで! まさに“60歳の冒険”ですよね(笑)」
60歳の挑戦。ヨーロッパ1か月半、ひとり滞在へ
そうして選んだのは、イタリアのフィレンツェをはじめ、イギリス、ドイツへと足を延ばす、1か月半のヨーロッパ長期滞在。フィレンツェには4週間滞在することにしました。
「ヨーロッパだったらどの国でもいいなと思っていたんですけど、ちょうど会社員時代の後輩から、『フィレンツェのキッチン付きアパートがとってもよかった』と聞いて、私もぜひ行ってみたいと思ったんです。
フィレンツェで宿泊コーディネートをされているChiho(奥村千穂)さんという方が、素敵なアパートを紹介してくれたとのことだったので、私もChihoさんにお願いしようとワクワクしながら連絡を取りました」
立ちはだかった「デジタル」と「老眼」の壁
滞在先が決まり、いざ準備を始めようとしたトメさんですが、今どきの旅ならではの壁に直面しました。飛行機や電車の予約はもちろん、イギリス入国に必要なETA(電子渡航認証)やロンドンのホテル手配まで、手続きのほとんどがオンラインだったのです。
「実はあんまりネットが得意じゃなくて。スマホの文字が小さく見えづらいので、老眼と戦いながらでした(笑)」
旅慣れた友人たちの力も借りながら、一つ一つ画面とにらめっこして手続きを進めていくトメさん。悪戦苦闘した結果、思わぬ収穫があったそう。
「自分で何とかやってみたことで、少しだけデジタルへの苦手意識が減ってきたんです。インスタに載せる動画にテキストを入れられるようになったり。イラストもそれまで紙に描いてスキャンしていたのが、直接タブレットに描いてアップできるようになったり。デジタルスキルがアップデートできたのはうれしい副産物でした」
「暮らすように旅する」ための長期滞在の準備

1か月半も自宅を空けるのは、トメさんにとっても初めての経験。出発前は、本一冊分の原稿をすべて描き上げるという、ハードなスケジュールをこなしつつ、長旅の準備をしていきました。
「『1か月半でシャンプーとリンスはどのくらい使うんだろう?』とか、『お米や調味料も持って行った方がいいよね』とか、あれこれ頭を悩ませたりして。忙しい中での荷造りは結構大変でした」
日用品に加えて欠かせないのが、常備薬の準備です。実はトメさん、58歳の頃に激しいめまいで起き上がれなくなるほどの「メニエール病」を発症していました。さらにその前には、「喘息」にも悩まされていたため、体調に全く不安がないわけではありません。
「ただ、一番大事なのは、何とかなるだろうという楽観性かなと(笑)。もし現地で体調を崩しても、無理せずおとなしく過ごしていれば良くなるはず。体調不良を怖がっているとどこにも行けなくなってしまうので、薬など万全の準備をしつつ、あとは流れに身を任せることにしました」
長旅でも無理をしない。機内での体調管理の工夫
長時間のフライトでも、無理をしないための選択が。もともと少し胃腸が弱く、こってりとしたものがあまり得意ではないトメさん。
味が濃くオイリーになりがちな通常の機内食ではなく、「特別食」を事前にリクエストしていたそうです。
「以前、海外に行った際に、ヴィーガンやハラール食をはじめ、健康状態に配慮したさまざまな機内食があることを知ったんです。そのときは脂質や糖質を抑えた『糖尿病食』を選んだのですが、味が薄めで胃にも優しくて、とてもよかったんです。なので、今回もそれをチョイスしました」
体にとって心地いいものを選ぶことも、長旅を元気に乗り切るための、トメさんなりの工夫です。
大人の冒険には「セーフティネット」を
一方、安全対策も抜かりありません。トメさんの友人であり、キャラクターデザイナーとして世界を飛び回る、森井ユカさんのYouTubeチャンネル「baggage by YUKA MORI」を隈なくチェックし、治安の悪い場所での注意点や歩き方をしっかり予習。
外務省の「海外安全情報アプリ」をダウンロードしておくなど、安全対策もバッチリ整えました。
「冒険はするけれど、若い人たちとは体力もフットワークも異なりますから、いろいろな場面でセーフティネットを張っておくことは大事かなと。旅先も知り合いがいる場所を選んだり、旅に詳しい友人たちと連絡を密に取れる状態にしておいたりと、“安心の土台”を持っておくことで、心おきなく未知の世界を楽しめる気がしました」
思い込みを手放すと、世界が広がる
出発にあたり、トメさんは自分自身に一つ、約束をしていました。
「とにかく今回の旅では、寛容になろうと思ったんです。私、自由に生きているように見えて、『こうしなきゃ』とか『こうあるべき』とか、固定概念に縛られている部分もあるんですよね。そんなガチガチになっている自分の思い込みやこだわりを旅の間は手放したいなって」
そのためのマイルールが、「旅の間に、誰かに誘われたら絶対に行く」というもの。
この「まずは乗っかってみる」ことの大切さは、少し前に経験した四国八十八ヶ所の「お遍路」で実感したことでもありました。
「私が隊長を務める『ふくもの隊』(縁起のいいものやことを探求する活動)の副隊長から、『トメさん、60歳になったら絶対お遍路行きますよ!』と、十数年も誘われ続けていたんです。でも、失礼ですけど、なんだかお遍路って辛気臭い感じがして、ぜんぜん気が向かなかったんですよね。
いよいよ60歳になるので重い腰を上げて、『じゃあ、行くか』と誘いに乗ってみたら、すっごい面白かった! 行って本当に良かったと思いました。この歳になってまた一つ、新しい世界が広がったのは、素直に乗っかってみたからかなと」
こうして入念な準備と、心を開くためのマイルールをトランクに詰め込んで、いざヨーロッパへ。続く第4回では、トメさんのヨーロッパでの思わぬピンチや奇跡的な出会いについてお届けします。
上大岡トメさんのプロフィール

東京生まれ、横浜育ち。会社勤務を経て、イラストレーターになる。1級建築士、ヨガインストラクター、ふくもの隊隊長。現在は山口県在住。「マンガで解決!老人ホームは親不孝?」(主婦の友社)、「遺伝子が私の才能も病気も決めているの?」(幻冬舎)、「老いる自分を許してあげる」(幻冬舎)、新刊「推し!はお遍路」(ふくもの隊と共著 ミシマ社)など、介護やエイジングをテーマにした著書多数。
公式ウエブサイト「トメカミカメト」
Instagram @tome_kamioooka
■上大岡トメさんインタビュー
第1話:更年期は「新しい体へのアップデート」
第2話: 「うちの親は大丈夫」が崩れた日
第3話:60歳からの海外長期ひとり旅の準備
第4話:ヨーロッパ旅で広がった出会い




