珠玉の言葉に学ぶ強くすがすがしい生き方·老い方#2
「苦難も面白がって生きる」佐藤愛子さんの人生100年時代を生きるヒント
「苦難も面白がって生きる」佐藤愛子さんの人生100年時代を生きるヒント
公開日:2026年03月04日
佐藤愛子(さとう・あいこ)さんプロフィール
1923(大正12)年、大阪府生まれ。甲南高等女学校卒業。小説家・佐藤紅緑を父に、詩人・サトウハチローを兄に持つ。69年『戦いすんで日が暮れて』で直木賞、79年『幸福の絵』で女流文学賞、2000年『血脈』で菊池寛賞、15年『晩鐘』で紫式部文学賞を受賞。16年『九十歳。何がめでたい』がベストセラーに。17年旭日小綬章を受章。
とにかく力一杯、妥協せず、迷わず、思うままに生きてきた
夫が行き当たりばったりで会社を立ち上げて、見事に倒産してね。家なんか四番抵当まで入っていて、当然、借金取りが押しかけてくる。そのとき夫は、こう言ったんです。偽装離婚をしよう、離婚して家の名義を私の名にすれば、抵当で取られることはなくなるって。
そういうものかと思って、籍を抜いたんですよ。すると、籍を抜いた後に、夫はチャッカリ別の女の籍を入れていたんです。その上、家の名義が私になったということは、四番抵当の金額を私が返済しなければならないというわけです。まったく見事なだまされ方をしてね。
でもまあ、そういうアホだから、強く機嫌よく生きてこられたんだと思いますね。ものは考えようですよ。小説を書くということの基本は、人間について考えることですからね。いろんな波瀾や不幸は、作家になったことですべてマイナスではなく、プラスに働いたと思っています。とにかく力一杯、妥協せず、迷わず、思うままに生きてきました。――ハルメク2019年3月号より
客観的になろうと努力すれば、恨みつらみもやがてなくなる
私をだました元夫の気持ちも、今はわかります。私はむやみに気の強い、手に負えないわがまま者ですからね。元夫の方も我慢することがいろいろあったと思う。
すると、だまされても仕方がないか、という気になってね。あんな目に遭った後も、落ちぶれた彼が金を借りに来ると、言うままの金額を出す気になった。「客観的になる」というのはこういうことです。客観的になろうと努力すれば、恨みもつらみもやがてなくなっていきます。――ハルメク2019年3月号より
なぜこんな目に遭うんだなんて考えている暇がない

私はわりあい豊かに贅沢に育ってるんですよ。だから、貧乏というものが怖くてたまらなかった。ところが、実際に貧乏になってみると、別にどうってことはないんですよ。
とにかく働けばお金が入るわけだから、目の前の借金を片づけるために、しゃかりきになって働くだけ。なぜこんな目に遭うんだなんて考えている暇がないんです。だから、やれ金がない、やれ老後が心配だと言って、損得ばかり考えている人は、暇なんですね。――ハルメク2019年12月号より
逃げなかった人間だけが知る幸福もある
今はみんな、何か事が起きる前からおびえていて、“事が起きない”のが幸福だと思っているんです。でもね、私みたいに苦難続きの人生も、人から見たら不幸かもしれませんが、案外面白いんですよ。
苦難を突破する快さがあったからこそ、私はめげずに生きてこられたし、鍛えられた。今の人は苦しいことから逃げるのが上手だけど、逃げなかった人間だけが知る幸福もあるんです。――ハルメク2019年12月号より
何でも面白がって生きればいい
苦しい経験であろうと何であろうと、ないよりはあった方がいいんですよ。そのぶん人生が広がりますから。何でも面白がって生きればいいんです。自分の性に合った生き方をしたのだから、私は満足してますね。――ハルメク2019年12月号より
老いると、死がだんだんなじんでいく

100年も生きていたら、人が死んだからといって、いちいちショックを受けていたらキリがありませんから、“次は私の番だな”と思うだけ。そうやって死というものがだんだんなじんでいくのが、老いるということなのでしょうね。――ハルメク2024年3月号より
最後まで自分を律して死に臨む
死んで全部おしまいになるならいいけれど、私はおしまいじゃないと思っています。死後の魂について、私なりに書物を読み、勉強した結果、死んだら物質である肉体はなくなるけれど、魂は残ると考えるようになりました。その魂の行き先は、今生での生き方や魂のありようによって決まります。
だから老後は、欲望や恨みつらみといった情念をなるべく減らして、最後まで自分を律して死に臨むということが大切なんじゃないかと私は思っているんです。――ハルメク2022年11月号より
年とともにエネルギーが衰えるのは神様から与えられた恩典
ありがたいことに、年を取っていくと欲望は自然となくなっていきますね。だって若い頃は、肌もピチピチしていて、髪もふんわりあって、より美しくなりたいという欲望を持つでしょう。でも90歳を過ぎてごらんなさい。どんなに抗ったって、どうしようもないことばかりですからね。
年を重ねるごとにエネルギーが衰えていくのは、やっぱり神様が人間に与えられた恩典だと思うんです。そうしてなるべく欲望を消して死後の世界に赴く。最後の修行を私もしているところです。――ハルメク2022年11月号より
構成=五十嵐香奈(ハルメク編集部)、撮影=中西裕人
※写真はすべて掲載当時のものです。
※この記事は、雑誌「ハルメク」2025年8月号を再編集しています。




