詩人・茨木のり子さんから学ぶ隣国・韓国を思う思い方
##キャプ イラスト=サイトウマサミツ

更新日:2023年03月07日 公開日:2023年02月28日

随筆家・山本ふみこの「だから、好きな先輩」02

詩人・茨木のり子さんから学ぶ隣国・韓国を思う思い方

詩人・茨木のり子さんから学ぶ隣国・韓国を思う思い方

「ハルメク」でエッセイ講座などを担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、詩人の茨木のり子さんです。韓国語を習っていた茨木さんから山本さんが感じた「ふところ深く抱くお隣さんを思う思い方」とは……。

好きな先輩「茨木のり子(いばらぎ・のりこ)」さん

1926−2006年 詩人
1953年に川崎洋(かわさき・ひろし)らと詩誌「櫂」を創刊。「現代詩の長女」と称される。「倚りかからず」「わたしが一番きれいだったとき」などの詩で知られる。91年には『韓国現代詩選』の翻訳で読売文学賞を受賞。

「韓国語を習っています」の言葉から生じる動機への疑念

「韓国語を習っています」の言葉から生じる動機への疑念

出合いは「自分の感受性くらい」(岩波文庫『茨木のり子詩集』などに収録)。

この詩には心底驚かされました。驚くという表現では足りません。そうです、いきなり頰をはたかれました。

苛立ちやうまくゆかないことを、時代やら、誰かのせいにはするな、とわたしを叱り、結びは「自分の感受性くらい/自分で守れ/ばかものよ」です。はたかれて、これほど感動したこともなかったなあ、と思い返しています。

茨木のり子の詩の連なりは、わたしのなかで輝きを放っている……。

けれども、これからここに置こうとしているのは、茨木のり子の詩のはなしではありません。彼(か)のひとが韓国語を習いはじめたときのことです。1976年、茨木のり子が50歳になろうとする年でした。

「韓国語を習っています」と口にするたび、「それはまた、どうしたわけで?」と訊かれたそうです。英語を習っているとか、料理を習っているとか答えたなら生じない、動機への疑念でした。

美しいものに心惹かれて、民族や国、文化を愛する美しさ

美しいものに心惹かれて、民族や国、文化を愛する美しさ

同じころ、当時わたしが勤めていた出版社の、大先輩が韓国語を学んでいました。背中合わせの席でしたから、しばしば茨木さんと話しているらしい電話の声を聞きました。その気配からはいつも、韓国に対する敬意と、憧れと、愛情が伝わってきたのです。

茨木さんも先輩も、韓国語学習への出発地点は、惹きつけられてやまない朝鮮系統の仏像(百済観音〈くだらかんのん〉、夢殿〈ゆめどの〉の救世観音〈ぐぜかんのん〉、広隆寺の弥勒菩薩〈みろくぼさつ〉など)や、陶器(白磁、粉引〈こひき〉、刷毛目〈はけめ〉、三島手〈みしまで〉など)であったということです。

美術に心うばわれ、その作者である民族への興味をかき立てられてゆくとは、なんと自然で、なんとうつくしいなりゆきでしょうか。

『ハングルへの旅』(朝日文庫)に茨木のり子は、まわりからの問いかけに結局、「隣の国のことばですもの」ということにしたと書いています。隣の国・韓国ことば(南も北も)、ハングルです。

隣同士であっても、中国、韓国とわが日本とは、あるときから似て非なる国になったといえましょう。が、惹きつけてやまない文化を持つお隣さんたちを、わたしたちは見切ってはなりません。

まだまだわたしの知らないものをふところ深く抱くお隣さんを思う思い方を、茨木のり子はわたしにおしえます。

随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)

随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
撮影=安部まゆみ

1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。

※この記事は雑誌「ハルメク」2016年6月号を再編集し、掲載しています。


>>「茨木のり子」さんのエッセイ作成時の裏話を音声で聞くにはコチラから

「だから、好きな先輩」は、雑誌「ハルメク」で毎月好評連載中! 最新情報もあわせてチェックしてくださいね。 
※ハルメク365では、雑誌「ハルメク」の電子版アーカイブを12か月分見ることができます。詳しくは電子版ハルメクのサイトをご確認ください。

山本ふみこ
山本ふみこ

出版社勤務を経て独立。特技は何気ない日々の中に面白みを見つけること。雑誌「ハルメク」の連載やエッセー講座でも活躍。

みんなの コメント
ハルメクが厳選した選りすぐりの商品

驚きの軽さ&使いやすさ!

1本で7つの効果
薬用美肌ヴェール
1本で7つの効果
薬用美肌ヴェール

【PR】自分の尿モレタイプはどれ? 簡易診断でチェック!

自分の尿モレタイプはどれ?

たまに尿モレがあっても、だましだまし過ごされている方も多いのでは? けれど一口に尿モレと言っても症状によってタイプはさまざま。そこで自身の尿モレのタイプがわかる簡易診断チャートをご紹介!

2025.06.10
知らないと損する!?30秒でわかるコンビニおトク術

1個買うと、1個もらえる!

「アレ」を活用するだけで商品がタダでもらえるキャンペーンをご存知ですか?その名も「1個買うと、1個もらえる」キャンペーン。コンビニでおトクに買物する絶好の機会をハルトモさんに体験してもらいました!

2025.06.02
【PR】巻き爪や外反母趾などの足悩み解消を目指せる「正しい歩き方」

巻き爪解消を目指せる「正しい歩き方」

間違った歩き方は足トラブルを招き、健康寿命に影響があることを知ってましたか?正しい歩き方と足トラブル対策を専門家が解説!

2025.05.12
「ほったらかしの投資」~手軽に投資を始める・続ける方法

「投資は難しそう…」と思っている人は必見

興味があるけど自信がない人におすすめな、長期的に資金を積み立てていく「ほったらかしの投資」。家計をラクにする資産運用の方法が知りたい人はぜひチェック!

2025.06.02
夏の眼鏡が暑くて不快…汗ばむ季節にぴったりのフレームで涼しく快適に!

汗ばむ季節にぴったりのフレームとは?

汗ばむ夏の眼鏡…この顔面環境の不快度どうしたらいい?そんな方は夏にぴったりなフレームをチェックしてみて。

2025.06.02
サングラスのレンズカラーの違いって?美肌・おしゃれ見えする色の選び方

サングラスのレンズカラーの違い

色によっては美肌効果も期待できるカラーレンズ。お気に入りを見つけて、夏のお出掛けを楽しみましょう!

2025.06.02
認知症のご本人の財産や権利をどう守るか?

認知症のご本人の財産や権利をどう守る?

認知機能が低下した場合、財産管理はどうするべきか?法律面からの支援をご紹介!

2025.05.13
ご家族の認知症介護の進め方、向き合い方

ご家族が認知症になったら……

ご家族が認知症で介護が必要な状況になったらどうする?進め方・向き合い方を解説していきます

2025.05.13
【PR】飽き症でも、ゼロから英語が話せるようになったワケ

ゼロから英語が話せる!

飽き症さんでもOK!たった60日で英語が苦手な人でも英会話ができるようになると話題の「インド式英会話」をご存知ですか?無料体験セミナー実施中です!

2025.02.05
50代のための「お金の相談ガイド」〜まず何をすればいい?

50代のための「お金の相談ガイド」

50代に入ると現実味を帯びてくる老後への不安。家族や健康、仕事の悩みに加えてお金の問題についても漠然と不安を感じているものの、何から始めたらよいのかわからない人も多いのではないでしょうか。お金の悩みを解決したい人はぜひチェック!

2025.06.13
宅配買取を賢く利用して一気に片付け!

【宅配買取】使わなきゃ損!

家の不用品を宅配買取に出したら、思わぬ高額査定で29万円ももらえた!ハルメク読者限定で送料・査定もすべて0円って本当!?

2025.05.30
おひとりさま女性のソロライフに備えよう!「おひとりさま老後」の資産運用

老後資金、こんなに要るの?

未婚に限らず、離婚・死別などで誰しも「おひとり様」になる可能性が。一人で生きていくための「お金の準備」は出来ていますか?

2025.03.18

ハルメクが厳選した選りすぐりの商品

「奇跡の60代!木村友泉 大人のリンパケアLesson」横隔膜をゆるめる動き