中村久子|20歳、自立。見世物小屋で「だるま娘」に
2024.01.142020年10月08日
明日からの時間の使い方を見直したくなる!
内館牧子さん特別エッセイ!人生の切り拓き方を学ぶ
ともすると何気なく過ぎていく日常生活。この時間を何にどう使うかで、人生は大きく変わります。作家の内館牧子さんが、かつての実体験を踏まえて「ハルメク」に書きおろしてくださった珠玉のエッセイ。最後は思わず「う~ん!」とうなってしまいます。
「郵務室」発イタリア行き 文=内館牧子
もう40年以上昔のことである。当時、私は大企業に勤めており、20代の半ばだった。会社は女子社員をまったく戦力としては見ていない。常に男子社員のサポートで、責任のある仕事をしたい女子社員たちは、非常に不満を持っていた。「サポート」といえば聞こえはいいが、要は彼らに頼まれる雑用をこなすだけ。
「これ、10部コピーして」
「この書類、××課長に至急届けて」
「会議室にお茶20個ね」
「厚生課で保養所の申し込みして来て」
女性の地位などない時代であり、どこの会社も似たり寄ったりの「サポート」が、女子社員の仕事だったはずだ。
男子社員全員が会議に出てしまい、女子社員たちだけが、オフィスに残っていることも少なくなかった。今でも覚えているのは、そういう時に他課の男子社員が来ると、必ず言うのだ。
「あれ? 誰もいないの?」
女子社員たちは毎回同じに答える。
「×時には全員戻ります」
この繰り返しなものだから、私はついにブチ切れた。
「ちょっと××クン、『誰もいない』って、あなた見えないの? このオフィスに5人は女子社員がいるわよ。何の用なのか、私が聞くわ。手短におっしゃい」
私より若く、私より背の低い××クンはすっかりビビッている。それはそうだろう。自分より年上の、自分より背の高い、いわば「お局」にクン呼ばわりされて、上から見下ろされて「おっしゃい」と言われたのだ。××クンのビビる姿を、今でも思い出す。鼻っ柱の強い私に、女子社員たちはロッカールームで「ああ、気持ちいい! ありがとう」と口々に言ったことも思い出す。
そんな中で不思議な女子社員が一人いた。もう名前は忘れてしまったが、40代半ばではなかっただろうか。独身で「郵務室」にいた。
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