山本ふみこさんのエッセー講座 第9期#1
2024.10.312023年11月25日
エッセーの疑問・お悩みに答えます
山本ふみこさんのエッセー講座 第7期#2
随筆家の山本ふみこさんが講師を務めるハルメクのエッセー通信講座 第7期の第2回。今月のテーマは「何を書き、何を書かないか」。参加者の作品から山本さんが選んだ2本のエッセーとともにお楽しみください。
コトコトラジオ 第2回
エッセーの書き方、ちょっとした豆知識やおすすめの本、山本家の最近のできごとなどなど……自由なテーマで話します。
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今月のテーマ「何を書き、何を書かないか」
山本さんの「グランピング体験」、どう書く?
山本さん:先日、群馬県へ「グランピング(註1)」を体験しにいってきました。さて、この体験を私がエッセーに書くとして、どういう切り口で書くでしょう?
おそらく「その施設は群馬県にあり、景色はこうで、食事はこうで…」という話は書かないと思うのね。
では、いったい何を書くのかというと…。
たまたまグランピング場に居合わせた女性に「すみません、ペットボトルのフタを開けてもらえませんか?」と聞かれ、開けて差し上げたんです。
なんだか、泊まっている人同士の距離が近いのね。これは、グランピングならではなのかな? と思いました。そういう話を書きたいと思ったのがひとつ。(…私のこと、怪力だと思ったのかな。)
それから、若い女性スタッフともおしゃべりしました。
彼女が言うには、「昨日帰り道、鹿に会ったんです」と。なんと「鹿がミラーにぶつかって、サイドミラーが一個とれちゃった」んだって。
それで、「鹿も自分も無事だったので、整備会社に勤めている友達に電話して、サイドミラーをすぐ直してもらった」と。
その顛末をすべて聞くには結構な時間がかかりますが、そのスタッフの方がおしゃべりしてくれたのが、面白くて楽しかった。このことも書きたいですね。
面白い経験をしたときは、初めから終わりまで書かなければと思ってしまいませんか?
それは大変な作業になりますし、作文風、ともすると「グランピングの説明書」になってしまうことも。
でも、まるで関係ないことを書くことで、その場の空気を伝えることもできるんです。人の見つけるものってそれぞれ。でも、それこそが面白みです。
(註1)「Glamorous(グラマラス)」と「Camping(キャンピング)」からなる造語。テント設営などの手間がなく、キャンプ道具がなくても楽しめるアウトドア体験のこと。
既定の字数を守るのは、「取捨選択」の練習になります
山本さん:本講座では800字~1000字で書いてくださいとお願いしております。「字数をオーバーしてしまいます」というお便りも寄せられますが、ぜひ1000字以内に収めて書いてみてください。かなり良い鍛錬になります。
うんと長い作品を読むと、エッセー2本分、3本分の内容が入っている感じがします。それらを1つの作品にしてしまうのはもったいないものです。
書きたいことが複数あるときは、また別の作品として書きましょう。次回にとっておきましょう。
そんなふうにしてできた作品群には、なんとなく連なりがあるものです。まるで真珠のネックレスのように。
参加者からの質問「固有名詞の扱い方」
今回寄せられたご質問はこちら。
「人物名や地名など、固有名詞は出してもよいのでしょうか?」
山本さん:基本的にご自分の判断でよろしいかと思いますが、地名に関していえば、書いた方がよいでしょう。どこの話かがわからないと、読者はその世界に入り込めなくなります。川や山の名前も書いたほうがよいですね。
それから登場人物の名前について。お名前を「Aさん」「Bさん」とすることは、おすすめしません。とても風合いを損ねます。
そこで「仮名」を使う、という手があります。たとえば「たんぽぽさん(仮名)」「さくらさん(仮名)」などなど。
また、少し違う話になりますが、作品のなかに「Aさん」「Bさん」「Cさん」……と登場人物が並んでしまったとき、本当にその人を出す必要性があるのだろうか? を、考えてみてほしいです。
その場にいた全員を書きたくなる気持ちはわかります。でも、その方は別の作品で存分に活躍してもらってもいいんです。
その際に素敵な仮名をつけて差し上げたり、もしくは本人が「いいよ」っておっしゃったら本当のお名前を書いたり。ぜひ考えてみてください。
番組では、もう一つの質問「会話の書き方を教えてください」にもお答えしています。
ぜひ番組本編でお聞きください。
山本さんおすすめの一冊
『篭にりんごテーブルにお茶』田辺 聖子 著(角川文庫)
山本さん:田辺聖子のエッセー集です。
1978年初版で、私が持っているのが翌年・1979年の第4版。売れたんだねえ、この本も、と思います。
小さな題を立ててたくさんのエッセーが収録されています。その題がまた面白く、聞くだけでわくわく。今までに何度も読み返しました。
この作品に何があるのかって、「ムード」です。
先ほど、物事の頭からつま先までを書こうとしない、という話をしましたが、これは「ムードを醸しましょう」ということでもあります。
皆さん、頭の片隅に「ムード」の3文字を置いて、作品に向かってくださいませ。
山本ふみこさんが選んだ2つのエッセー
クリックすると、作品と山本ふみこさんの講評をお読みいただけます。第7期第2回で取り組んだエッセーのテーマは「口紅」です。
「誰も書きそうにないこと」大井洋子さん
10年前、偶然NHK俳句を目にした。講師である……
「能面(おもて)」久保田道子さん
「サラメシ」という番組をときどき見る。働く大人のお昼ごはんの……
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随筆家・山本ふみこさんのプロフィール
1958(昭和33)年生まれ。出版社勤務を経て随筆家に。ハルメクでは連載「だから、好きな先輩」やエッセー講座(会場開催と通信制)の講師でおなじみ。著書に『朝ごはんからはじまる』『まないた手帖』(ともに毎日新聞社刊)『おとな時間の、つくりかた』(PHP文庫刊)『暮らしと台所の歳時記 旬の野菜で感じる七十二候』(PHP研究所)『こぎれい、こざっぱり』『台所から子どもたちへ』(ともにオレンジページ刊)『家のしごと』(ミシマ社刊)ほか多数。公式ブログは http://fumimushi.cocolog-nifty.com/
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、2024年1月頃、雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。