日本の国土の約半分の面積が消失

オーストラリアの森林火災から地球温暖化を考えよう

公開日:2020.02.14

更新日:2020.02.20

オーストラリアで、世界でも前例がないほどの大規模なレベルの森林火災が起きました。土地の焼失だけでなく、推計10億以上の野生動物が命を落としました。被害が深刻化した背景には、地球温暖化による土地の乾燥が指摘されています。

3分の1が消失した島でコアラやカンガルーが……

甚大な被害をもたらしたオーストラリアの森林火災

甚大な被害をもたらしたオーストラリアの森林火災は2019年秋以降、ニューサウスウェールズ州など南東部の地域でも2月中旬まで続いていました。。出火原因は特定されていないものの、2019年に発生した南米アマゾンでの火災を上回るほど広範囲に燃え広がりました。深刻な被害を受けている地域の一つが、カンガルー島です。

その名の通り、同島にはカンガルーをはじめコアラ、アシカなどの野生生物が多く住む自然保護区が多数あり、テリクロオウムなど絶滅危惧種を含めた多様な鳥類も多く生息しています。(参考:HANSON BAY WILDLIFE SANCTUARY)

しかし火災によって、その自然豊かな生態系は失われてしまいました。米航空宇宙局(NASA)の報告によれば、今回の森林火災の影響で島の約3分の1にもなる推定15万5000ヘクタール(38万3013エーカー)が焼失し、推定2万5000頭ものコアラが命を落としました。(参考:2020年1月7日NASA「カンガルー島の3分の1が森林火災で消失」)

過去に例を見ない壊滅的な被害に、各国では政府や団体による国際的な支援が相次いでいます。イギリス公共放送BBC(オンライン版)は、2020年1月8日の時点で「オーストラリア森林火災、世界はどんな援助を? 何が必要? いらない援助とは?」と題した記事を公表し、さまざまな国における政府レベル、民間レベルの声や実際の活動を紹介しています。

日本では1月中旬から航空自衛隊の約80人が国際緊急援助活動のためにオーストラリアへ向かい、陸軍の人員や物資の輸送を手伝いました。(参考:2020年1月15日 在日オーストラリア大使館「オーストラリア森林火災に日本が空輸支援」)

幸い2月に入ってまとまった雨が降り、火災は収束方向に向かいつつあります。アメリカのテレビCNNによれば、2月上旬にニューサウスウェールズ州で激しい豪雨があり、森林火災は鎮火に向かいつつあります。しかし一方で洪水による被害も相次ぎ、シドニーでは1990以来だという市内最大級の降雨量を記録する事態となりました。ライフラインが復興し、野生生物、植物が元気を取り戻すには、まだ多くの時間がかかりそうです。

異常な乾燥と高温が、森林火災を深刻化

異常な乾燥と高温が、森林火災を深刻化

今回、森林火災が深刻化した背景として指摘されているのが、地球温暖化による異常な乾燥と高温などの異常気象です。米航空宇宙局(NASA)と米海洋大気庁(NOAA)の発表によれば、2019年の世界の平均気温は14.85℃で、観測史上2番目に高かったとのことです。この年、オーストラリアでは平均気温が過去最高を記録しており、世界気象機関(WMO)などによれば、オーストラリア全域で2019年春(9月から12月)には森林火災危険指数(FFDI)が高値となり、森林火災が起きる可能性が指摘されていました。(参考:2020年1月15日米航空宇宙局(NASA)ニュース「NASA、NOAAの分析は、2019年が史上2番目の暖かさであったことを明らかに」、2020年1月7日世界気象機関(WMO)ニュース「オーストラリアは記録上最も暑く、最も乾燥した年に、壊滅的な火災に見舞われています」)

森林はもともと、CO2を吸収して温暖化を抑える役割を果たしています。しかし温暖化の進行によって高温や土壌の乾燥が続き、森林は燃え広がりやすい状態に陥っています。

いったん森林で火災が起きると、森林全体に温室効果ガスのCO2やメタンが増え、さらに地球温暖化が進む悪循環に陥るのです。WMOによれば、森林火災が起きるとCO2やメタンのみならず、粒子状物質や一酸化炭素、窒素酸化物、非メタン有機化合物などの有毒ガスを含む有害汚染物質が大気中に放出され、周囲の環境は一気に汚染されてしまうといいます。

温暖化を1.5℃に抑えて森林火災のリスクを減らす

温暖化を1.5℃に抑えて森林火災のリスクを減らす

大規模な森林火災は、今回のオーストラリアに限らず世界中で起きています。

2019年には、インドネシア、アマゾン、米国カリフォルニア州などで発生した他、北極やシベリアなどの寒い土地でも頻発しています。こうした地球規模の火災を減らしていくには、企業や私たち一人一人が環境に配慮する暮らしにシフトしていくしかありません。

2019年の温暖化サミットでは、WMOなどからは現状のままでは今世紀末に世界の平均気温は最大3.4℃上昇するとの指摘がなされました。一方、世界195か国で構成する「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は、世界の平均気温の上昇を2030~2050年時点で1.5℃に抑えれば、森林火災のリスクは減るとして、国際社会としての“努力”を促しています。私たちも、暮らしの中で省エネや節電、プラスチック削減、分別やリサイクルなど、日常生活で地球に優しい暮らしを心掛け、森林火災を防いでいきたいものです。
(参考:2018年度 環境省「IPCC『1.5度特別報告書』の概要」(2019年7月版))

「遠い国の惨事」と感じる方には、イギリスの新聞「ザ・ガーディアン」が作った動画をぜひ見て欲しいと思います。今回の森林火災で犠牲になった野生生物たちの様子を集め、公開しているものです。ザ・ガーディアンニュース「オーストラリアの動物が山火事から回復するのに1世紀かかる理由」

 

 

 

この動画を見るたび、筆者は今回の惨事が、決して遠い国の出来事ではないということを身に染みて感じます。ぜひご覧になっていただき、地球温暖化と命の尊さ、生態系の持続可能性の意味をあらためて感じてほしいと思います。

参考資料


清水 麻子

しみず・あさこ ジャーナリスト・ライター。青山学院大学卒、東京大学大学院修了。20年以上新聞社記者や雑誌編集者として、主に社会保障分野を取材。独立後は社会的弱者、マイノリティの社会的包摂について各媒体で執筆。虐待等で親と暮らせない子どもの支援活動に従事。tokyo-satooyanavi.com

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