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- エッセー作品「曲げわっぱ」増田万紀子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「空っぽ」です。増田万紀子さんの作品「曲げわっぱ」と山本さんの講評です。
曲げわっぱ
正月につかう重箱を出そうと、戸棚の奥をのぞきこむと、ふと、そのとなりに積み上げた弁当箱が目にとまった。
子どもたちにお弁当を作っていた頃、夕方返ってきた空っぽの弁当箱を見ては、ほっとしていたことを思い出した。
中学、高校と多感な時期、子どもたちと無言のコミュニケーション。
少し焼きすぎたハンバーグや、ソースを添え忘れたとんかつ、失敗は数えきれないけれど、いろんな思いやメッセージをごはんと一緒につめ込んで、送り出す。
毎日ごはん粒ひとつも残らずに帰ってくる弁当箱は、わたしの思いが子どもたちに届いた証のようでうれしかった。
早朝のお弁当作りが苦行のように思えたときもあった。
図書館でお弁当のレシピ本を借りてきて、カラフルで華やかなお弁当にしたり、野菜やウィンナーの飾り切りに挑戦してみたりもしたが、ピンとこない。
そんなわたしの救世主となったのが、曲げわっぱのお弁当箱だった。
職人の手仕事で大切につくられた木のやさしい風合いが、どんなおかずもおいしそうに見せてくれる。
わたしは地味で素朴な昔ながらのお弁当が好きなのだ。
子どもに曲げわっぱは贅沢だけれども、日本の伝統文化や手仕事に触れ、良いものを長く大切につかう豊かさを知ってほしいと願ってのことだった。
そうして雑穀米、梅干し、甘い卵焼き、きんぴら、ひじき、日替わりで子どもたちの好きなメインという基本スタイルに落ち着いた。
あらためてふりかえると、わたしは案外お弁当作りが好きだったように思えてくるから不思議なものだ。
お役御免で、すっかり出番のなくなった曲げわっぱをひさしぶりに手にとった。
木のぬくもりがあたたかい。
今度は自分のためにお弁当を作ってみようか。
もう少し暖かくなったら、それを持って近くの公園まで歩くのもいい。
そんな来る春に思いをはせつつ、まずはおせち料理!
山本ふみこさんからひとこと
水茎のあともうるわしい原稿に、毎度身が引き締まります。
皆さんにお伝えしたいのは、手書きのおすすめでもなければ、文字の上手下手の話でもありません。
句読点がしっかり打たれていること、1行1行に思いがこめられていることがいかに大事かを申し上げているのです。
あらためてふりかえると、わたしは案外お弁当作りが好きだったように思えてくるから不思議なものだ。
ここを読んで、これは過去について書かれたものかもしれないにしても、あたらしい境地だな、と思わされています。
それが証拠に結び近く、「それ(弁当)を持って近くの公園まで歩くのもいい」とありますもの。
春になったら、わたしも、弁当持ち散歩をしてみたいと考えるのでした。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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