山本ふみこさんのエッセー講座 第8期第2回

エッセー作品「かまくら」車屋王和さん

公開日:2022.10.25

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース第8期参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第2回の作品のテーマは「オススメ」です。車屋王和さんの作品「かまくら」と山本さんの講評です。

山本ふみこさんのエッセー講座 第8期第2回
エッセー作品「かまくら」車屋王和さん

かまくら

冬の朝、いつもと違う感覚に、窓の外を見ると、一晩でどっさり雪が積もっている。身ぶるいしてもう一度暖かい布団にもぐり込む。
台所から、母が朝食の支度をする音が聞えて来る。そのうち、ご飯のたき上がった湯気や、みそ汁の香りがただよって来る。
そうなると寝てはいられない。
外は見渡す限り白銀の世界。朝日に生れたてのういういしい雪が光り輝いている。

さて何をして遊ぼうかとわくわくする。
手つかずのふわふわの新雪の上に、仰向けにバタッと倒れて自分の形を取ってみる。顔も。
しばらく雪面に押しつけ、顔の熱で、じゅわじゅわとする瞬間、顔を離すと顔の形が出来上がる。
その形を弟と見くらべて楽しんでみたり、綿菓子のような雪を食べたり。
ある日父が子供用のスキーに箱を取り付けそりを作ってくれた。
そりが嬉しくて、一人ですべったり。小さな子を前にのせてすべったり。前の人はすわり後ろの人は立ってすべったり。おもしろくて仕方がない。

やがて近所の仲間が集まって来ると、広場で雪合戦が始まる。
本気になると当ると痛い。年上の男子が、にぎった雪の球は硬くて、こわいほどなので、右に左にと器用にを身をかわし、その速球に当たらない技術が必要だ。
対戦が白熱すると、セーターから湯気が出るほど熱くなる。
顔はりんごのようなホッペ、毛糸の手袋はびしょぬれだ。

お昼ご飯に家に帰り、シャツを着替え、手袋、帽子、上着、ズボン等ストーブのそばのさくに干し午后にそなえる。
そして、中にあんこがいっぱいつまった丸もちを七輪の上の金網にのせる。
裏がえしたりしながらプクッと音をたててふくらんでくると焼き上がり。
あつあつの焼もちを右手や左手に持ち替えながら、ふーふーしながら食べる。

この、もちもお正月が近づくと早朝から、家でもちつきが始まる。
小学4年生のわたしは、時々水に手をつけては臼の中の、蒸したもち米を中央にまとめ、父は杵を力強くつき、あ、うんの呼吸でもちを作る。
母は、鏡もち、のしもち、豆もち、あん入りの丸もち、大根おろしにつけて食べるちぎりもち等手際よく、厚みはないが、大きな木の箱に七、八段重ねて、沢山のおもちを作っては納めていく。

本格的に雪が降り積もると、かまくらを作る。
みんなでスコップを持ちより、雪を積み上げると、スコップの背で、パンパンと力一杯たたく。
そしてまた積み上げる、をくり返して小高い山を作り、こんどは中をくり抜くのだ。
出来上ると、中にござを敷き、雪のたなに、ろうそく数本たて、入口にむしろをかけて出来あがり。

綿入れ半てんを着て、お菓子やみかんを持ちより、おしゃべりしたり、かまくらの中はとても安心感があり、まっ白で清らかな、神々しいような異空間だ。

山本ふみこさんからひとこと

山本ふみこ
山本ふみこ さん

ずいぶん前、ウエールズ(イギリス)の冬の光景を描いた絵本を読んだのです。ページをめくると、そこには雪景色、動物たち、子どもたちの遊びが広がっています。その情景の美しさにうっとりしました。忘れられない読書でした。

「かまくら」を読んで、あのときの喜びがよみがえるのを感じました。日本の冬が静かに美しく描かれています。おそらくこの作品を、「車屋王和」は夏の、暑いさなかに書いたのです。

なぜ真夏に「冬」を思ったのか。おもしろいなと思いました。 それほど、強い印象がよみがえって書かずにはいられなかったものと想像します。

皆さん、ゆっくり味わってみてください。
 

山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは

随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。

参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。

2022年10月現在、第8期の講座を開講しています。次回の参加者の募集は2022年12月を予定しています。

詳しくは雑誌「ハルメク」2023年1月号の誌上とwebサイト「ハルメク365」内の『イベント予約』でご案内します。


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ハルメク旅と講座

ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

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