「さつまいもの天ぷら」横山利子さん
2024.09.302021年09月22日
山本ふみこさんのエッセー講座 第6期第1回
エッセー作品「まわり道」国分りえ子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コースの参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第1回の作品のテーマは「なるべく」です。国分りえ子さんの作品「まわり道」と山本さんの講評です。
まわり道
2回目のワクチン接種が終わった。午後3時になっていた。
病院の外に造られたプレハブの建物を出ると、梅雨明け前にもかかわらず、カンカン照り。すでに夏本番である。
自宅までの帰り道は、だらだらと登り坂をしばらく歩く。その先からは起伏のはげしい道になる。
少しでも体力を使わずに家に辿り着きたい一心で、近道はないか、楽な道はないかと、思案をめぐらせた。
小学校の校庭脇を通れば、起伏のはげしい道をさけられるかもしれない。小学校を表す標識が出ている。狭い道で、ここも多少の登り坂になっている。
T字路にさしかかり、右手からくる車とすれちがった。どういう訳か、車は止まり、バックしてきた。
何だろうと思っていると、「国分さん?」と声をかけられた。
「えっ!」
「見たことある人が通ってるなと思って。やっぱ、国分さんだった。」
車中の人は、太極拳で一緒の板倉さんだった。最近、家が近いことがわかった。
「家まで送るよ」その言葉に甘えることにした。彼女の家は小学校から2軒目の茶色の屋根の家だと教えてくれた。
マンション前に車を止め、彼女は「こんな偶然の出会いはそうあるもんじゃないよね。これを機会によろしくね。」
「もちろんよ。私の方こそよろしくね。」
私は積極的に友だちをつくるタイプではない。長年のカンで裏表のない人、飾らない人は見分けられるようになっている。板倉さんは、飾らない人だ。
日頃通らない道に足をふみ入れる私。その時刻に板倉さんが車で通る。1分違えば出会っていない。
見えない何かが働いていると確信する。不思議な縁を感じた。大切にしたい。
山本ふみこさんからひとこと
ワクチン接種。病院からの帰り道(登り坂)。知人との遭遇。
描かれた場面と、事柄はこれだけです。
しかし、そのつながりが自然なことに、驚かされます。そうして偶然行き会った知人との縁(えにし)を確かめる流れを、読み手に納得させる力もこもっています。
圧巻は結びの3行。無駄がなくて、実にきっぱりしています。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
現在第6期の講座を開講中です。次回第7期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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