随筆家・山本ふみこさんのエッセーの書き方講座#2
2020.04.302024年09月30日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第8期第6回
「この暑さから逃げよう!」前場勢津子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。山本さんが選んだ参加者のエッセーをご紹介します。第8期6回目のテーマは「コンビニエンスストア」。前場勢津子さんの「この暑さから逃げよう!」と山本さんの講評です。
この暑さから逃げよう!
朝食に、みそ汁の出汁を取ったあとの昆布。冷凍保存しておいたのが十分にたまった今日、昆布の佃煮を作ろうと決めた。
「よし作ろう」と覚悟の必要な佃煮作り。朝からジリジリと真夏の太陽が照りつけている。今日の台所仕事は地獄だなぁ。古い家の台所だから、なんともしがたいけれど。
涼しいうちに……と、早朝からとりかかった。大きなボールに、酢・酒・水を入れ昆布を2時間くらいつけておく。柔らかくなった昆布を3㎝角に切り、ガスレンジに鍋をかけて煮こみはじめる。たまり正油と山椒の実で煮つめた昆布。つやつやに照りのある昆布。
娘の好物だから多めに作るが、孫娘は「好きじゃないの」と目もくれない。淋しいなぁ……。
汗だくで昆布を煮て空っぽになった頭に、ふっと浮かんだのが、「アイス買いに行こう。この暑さから逃げよう!」だった。
暑い暑いと言いながらコンビニの自動ドアの前で日傘をたたみ、自動ドアに手をかざして中に入りこむ。フーッと小さく息をして、自分を立て直し、欲しいものを探しはじめる。
大型スーパーと違い、チマチマと商品が陳列してあって、ザーッと見渡せるのが良い。
最低限必要なものだけを買い求めに行く私には、とても良い所。でもなぜだか、そわそわしてしまう所。なぜなら、ほとんどのお客さんは目的のものを手に取って、さっさとレジの前に並び、さっさと会計をすませ、さっさと出て行くからである。
とても便利な場所であるけれど、長居のできない場所、コンビニ。
でも、今日はもう少し涼んで帰ろう。
山本ふみこさんからひとこと
長居のできない場所。
勢津子さんがつくったこの設定が、コンビニを、とくべつな場所にしています。こういう設定は、些細なものであるようで、じつは大きく働きます。
ものがたり(のようでしょう? このエッセー)が、みそ汁の出汁をとったあとの昆布をためておいて、佃煮にするところからはじまるや、わたしは心つかまれました。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次期通信制第9期の作品は10月から順次ハルメク365で公開予定です。(募集は終了しております。ご了承ください。)第9期も引き続きどうぞお楽しみに!
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