エッセーの疑問・お悩みに答えます

山本ふみこさんのエッセー講座 第7期#5

公開日:2024.02.25

随筆家の山本ふみこさんが講師を務めるハルメクのエッセー通信講座 第7期の第5回。今月のテーマは「文章は、踊るようにリズムに乗せて」。今回は参加者皆さんが書いた「100字エッセー」を、おひとり1遍ずつ掲載します。

山本ふみこさんのエッセー講座 第7期#5
山本ふみこさんのエッセー講座 第7期#5

コトコトラジオ 第5回

エッセーの書き方、ちょっとした豆知識やおすすめの本、山本家の最近のできごとなどなど……自由なテーマで話します。

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今月のテーマ「文章は、踊るようにリズムに乗せて」

山本さん:今回は「100字エッセー(随想)」に挑戦しました。句読点や括弧も含めて、96字以上100字以下で書く短いエッセーのことです。
それを5本提出いただくので、本講座では「100字5本ノック」とも呼んでいます。

皆さまの100字エッセーを読ませていただいて、心が弾みました。長いものをお書きになるときとはまた違ったかたちで、書き手の皆さんと仲良くなれた気がしたのです。

きっと難しかったと思います。100字エッセーって、書きたいと思うことをぎゅっと煮詰めるような作業になりますから。でも、皆さん楽しげに書いておられるのが印象的でした。

「見たものを、そのまま置く」ことの大切さ

こんなお便りをいただきました。
「100字ノック5本は、心踊るときも辛いときも、真正面から見ることになり、とても貴重な体験です。不用な言葉をけずりとれば、私の本心が丸見えです」

ものを書くとき、すべてを吐き出さなきゃいけないというわけではないけれど、やはり白状するような打ち明けるような一面もあると思います。

100字では、文字数が足りなくて言い訳ができないし、自分の感想も書けません。見たものを、そのまま文章のなかに置くことによって、何かを感じている自分が描かれる、という感じかな。

一方で、文字数が足りないと思うと、ついつい最後を「幸せでした」「感動しました」という感想でまとめたくなるかもしれません。
もちろん、幸せ・感動という言葉が悪いと言っているのではないですよ。これらは完成された美しい言葉なのですが、便利にそれを使って、「はい終わり」としないようにしていただきたいなと。

感想よりも、観察したものや自分の心の動きをそのまま書く。そこから何かを感じさせる。これが100字エッセーの面白いところだと思うのです。

歌詞を書くように、ときには踊りながら書きましょう

一緒に随筆を研究している仲間が、面白いことを言いました。
「100字エッセーは、やっぱりリズムです」「歌詞を作るような気持ちで、ちょっと踊りながら、リズムをとって作るといいのよ」って。

皆さんの作品を読んで、面白かったし、とても幸せな気持ちになったのね。「仲良くなれた」と思って。
だけど、「誰も踊っちゃいないな」と思ったの。私も、課題を出すときに「皆さん、踊りましょう」なんて言っていませんしね(笑)。

皆さんは少し、折り目正しすぎるかもしれない。たとえば指追って「や・ま・も・と・ふ・み・こ……これで7字だわ」というような感じで作ろうとすると、そこでちょっとリズムが削がれますよね。
だから今度取り組むときには(もちろん100字エッセーに限らず)、歌詞を書くような、踊るような気持ちでね。

参加者からの質問「面白いと思ってもらえる作品を書くには?」

参加者からの質問にお答えしています!

質問:読んでくれる人に面白いと思ってもらえる作品を書くには、何に気を付けたらいいのでしょうか。

まずその疑問を抱いた、という時点で素晴らしいです。読み手のことを意識して、ちょっとくすっとさせたり、「いいなあ」って思わせたりしたいってことでしょう。そういう気持ちを持っている人といない人の文章は、まるきり違うと思います。これが、ひとつの答えです。
それから前回のラジオ(第4回  50:03ごろ)でもお話ししましたが、やわらかい心で、少し口角をあげて書く、ということも大切ですね。

とはいえ、「読み手じゃなくて、書き手がひとりで笑ってる」というような文章もたしかに存在します。笑いを狙ったのにダメだった、スベっちゃった……みたいなね。
「これ、笑ってもらえるかなあ」というような文章を書くときは、その事柄から少し距離をとって、客観的に書くように意識するといいですよ。
書いている事柄、登場人物、自分自身とも、ほどよい距離をとる。その距離感をどう掴むかという話ですが、やはり「音読」をおすすめします。音読は、その距離がうまく成立したかな? の確認としても有用です。

#山本さんおすすめの一冊

『隆明だもの』 ハルノ宵子・著(晶文社 刊)

吉本隆明。戦後思想界の巨人ともいわれる人です。お嬢さんである、よしもとばななを好き、という方も多いかもしれません。
『隆明だもの』は、よしものばななさんのお姉さん・ハルノ宵子さんによるエッセー集です。
お父様のことを中心に、家族やまわりの人々について綴った作品です。

作中に、とても印象的な言葉ありました。それは「深度」。つまり、その人の感じる深さの度合い、程度のことです。

私、この「深度」という言葉に触れたとき、ぴょーん! と飛び上がりました。
私たち書き手が欲しいものは、深度なんだなと思って。

すごい経験をしたからといって、深まるかといえばそうでもない。その人個人の「ためいけ」にしかならない、なんてこともあるんじゃないかと。私のイメージですけれど。
逆に、あまり苦労せずに生きてきたように見える人でも(そんな方はいらっしゃらないのですが)、なんだか底のことを知ってるな、と思うこともあるんですよね。

人と話していて、どうもかみ合わないと感じるときは、深度のずれが原因だと思ったんです。
つまり、私に全然深みがなかったり、相手ばかりが深かったり。逆に、「この問題に関しては、私は底を、深海の部分を知っている」……ということも、たまにあるかもしれません。

「深まりたい」と願うことは、書き手とっては大切なこと。その言葉を皆さんに投げかけてみたいと思って、ご紹介しました。

山本ふみこさんが選んだ今月のエッセー

クリックすると、 第7期5回目のテーマ「100字エッセー」と山本ふみこさんの講評をお読みいただけます。
「100字エッセー」参加者の作品

お便りお待ちしています!

今月もお聞きいただきありがとうございました。山本さんへのお便りを募集しています。この記事の下にある「コメントを書く」よりお送りください。ラジオネームを併記していただけたら、番組の中でお名前をお呼びします。

随筆家・山本ふみこさんのプロフィール

「エッセーの書き方講座」講師の山本ふみこさんとは?

1958(昭和33)年生まれ。出版社勤務を経て随筆家に。ハルメクでは連載「だから、好きな先輩」やエッセー講座(会場開催と通信制)の講師でおなじみ。著書に『朝ごはんからはじまる』『まないた手帖』(ともに毎日新聞社刊)『おとな時間の、つくりかた』(PHP文庫刊)『暮らしと台所の歳時記 旬の野菜で感じる七十二候』(PHP研究所)『こぎれい、こざっぱり』『台所から子どもたちへ』(ともにオレンジページ刊)『家のしごと』(ミシマ社刊)ほか多数。公式ブログは http://fumimushi.cocolog-nifty.com/

ハルメクの通信制エッセー講座とは?

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。

募集については、2024年3月頃、雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。

エッセー作品一覧

ハルメク旅と講座

ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

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