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- だから鉄道はおもしろい!秩父鉄道「夜行急行」ツアー
大の鉄道好きなアラフィフマンガ家・文筆家のYASCORN(やすこーん)さんが、食を堪能する鉄道旅の楽しさをご紹介します。今回は秩父鉄道の「夜行急行ツアー」を乗車レポート。漂う郷愁、そして鉄道好きにはたまらない特別な瞬間がいっぱいです。
スタート地点に一度戻り、一大ショーを見る!
秩父鉄道での「夜行列車の旅」が、特別に再現されると聞きつけ、参加した「あの時の感動をふたたび 重連電機・12系客車夜行急行の旅」ツアー。2時間半弱の移動距離を、7時間半かけて走ります。夜通し飲み食いできるように万全の準備をして、夜10時に熊谷駅を出発。ノスタルジックな雰囲気を味わえる車内で、ひとり宴会を始めてから、2時間が過ぎました――。
0時17分。
一人飲みしながら車窓を眺めると、見たことがある風景が現れました。そう、スタート地点の熊谷駅です。2時間前にここを出発したのですが、再び戻ってきたわけです。
2度目の熊谷駅では客車を牽引している電気機関車を入れ替えます。これは鉄道ファンにとっては一大ショーです。全員降りて、カメラを持って待機しています。
列車編成の一番前と一番後ろに1台ずつ付けられていた電気機関車ですが、後ろにあったものを前に持って行き、2重に付けます。つまり重連、ツアー名にあった「重連電機」です。
「あの時の感動をふたたび 重連電機・12系客車夜行急行の旅」というツアー名の表すところが、ご理解いただけたかと思います。
参加者は、夜行急行を懐かしむご年配の方が多いのかと思いましたが、年令層はかなり幅広く、女性の姿も。ほとんどがご夫婦だったり、鉄道趣味の彼に連れられてきた女性でしたが、私と同年代の女性一人客も見かけました。
今回のような旅行会社が企画するツアーなら、むしろ女性一人参加でも安全に楽しめるので、おすすめです。
車内販売もあります。飲みすぎに注意!
0時32分、入れ替えを終えて列車が走り始めると、「ただいまより減光いたします」という車内放送が入りました。「この放送をもちまして、特別な場合を除き、明朝5時15分頃まで放送を一時休止いたします。ごゆっくりとお休みくださいませ」というアナウンスとともに、車内がフッと少し暗くなります。
そうそう、夜行列車では、深夜帯は寝やすいように車内の照明の光を落としていました。
車内が暗くなると、ガラス窓を通した外の景色はむしろ見やすくなります。私はこれ幸い、とばかりに車窓を眺めながら、2次会を始めました。
減光の中で車内販売が始まりました。今回特別に日本酒やワイン、ウィスキー、お土産やグッズなども販売されています。
お酒はこちらも売るほどありますが、せっかくなので車内販売のお酒も購入。前日に発売したばかりだという赤ワイン「2018秩父ルージュ」と、「純米大吟醸・秩父錦」を1杯ずついただいてみました。
買ったお酒をちびちび飲んでいると、1時13分寄居駅に到着。ここで5分ほど停車します。改札から外には出られませんが、ホームに一瞬降りることはできたので、自分の席を外から見てみました。
これはひどい。
他の席と比べると、飲み散らかし具合がわかります。いや、それだけくつろいで楽しんでいる証拠です……たぶん。
夜中のそばと「みそぽてと」で、もはや耐久レースに
列車はさらに1時間半ほどかけて、三峰口に向かいます。さすがに私もだんだん眠くなってきました。うとうとしかけ、少し眠ろうか悩んでいるうちに、三峰口駅に到着してしまいました。全員、一斉に目を覚まし外に出ます。現在2時44分。ここではたくさん、やらなければならないことがあるのです。
まずは撮影会です。1番線で、三峰口側に電気機関車を重連連結の状態で留置します。留置というのは一時的に車両を停めておくことです。その状態でみんな撮影。しかし真っ暗な中での撮影は、なかなか困難でした。
そして機回し。機回しというのは機関車を列車編成の先頭部分から切り離し、最後部分に付け替えること。三峰口駅は終点なので、今度は再び熊谷駅まで線路を折り返します。そのために、三峰口に向かうときに先頭にあった2つの電気機関車を、今度は反対側、熊谷方面を先頭にするために、付け替えるのです。こちらも鉄道好きには一大ショーです。
機回しを見るのはそこそこに、私は駅そばコーナーに走っていました。この駅に停車するのは45分間。意外と時間がないのです。
三峰口駅にはもともと駅そば店がありますが、真夜中とは思えないほど賑わっていました。係りの方が「まだおそばやうどんを交換していない方〜!」と呼びかけています。
だいぶ出遅れました。慌てて手を挙げて、先ほどホイホイ買ったチケットと夜鳴きそばを交換しました。
夜中に振る舞われたおそばでしたが、しっかり通常と同じ量が提供されました。なかなか食べ応えがあります。そしておそばがおいしい! 温かいものが食べられるとほっとしますね。容器は車内に持ち込んでもいいそうですが、ほとんどの方がここで食べていました。
おそばのポスターに「皇太子さまご御来秩献上 せきたの特挽地そば」と書かれていました。駅そばにも歴史があります。
知り合いの鉄道ライターさんはカレーうどんを頼んでいました。カレーうどんはSLパレオカレーというレトルトカレーを使用したうどんだそうです。そちらもおいしそうでした。
さらに私はお腹いっぱいだというのに、「みそぽてと」も買ってしまいました。いつも以上に食べすぎ……いえ、食べ続けています。だんだん耐久レースのようになってきました。
改札口には出発したときと同じように発車案内板がありました。もちろん通常の運行時にはないものです。昼間の3時36分出発ではなく、夜中の時刻だというのがすごいです。
三峰口駅は、関東の駅百選に認定されているだけあって、趣があります。このホームに12系客車が停車しているのが、とても夜汽車旅らしい光景だと思いました。
さて、列車はいよいよ帰路につきます。どこまでが行きでどこからが帰りなのかわかりませんが、なんとなくここからが帰路のように感じました。
三峰口を出た夜行急行は、最後の目的地、熊谷駅(3度目)に向かって走り始めました。
列車は帰路へ。明け方の冷気で頭を冷やす
さすがにあれだけお酒を飲んで、〆に夜鳴きそばを食べたのですから、お腹もいっぱいですっかり眠いです。3次会は行わないことにしました。
乗客はほとんどが寝ています。私も半分寝つつも真っ暗な車窓を眺めていました。どこを走っているのかもわからずスマホでGoogle Mapを見ると、秩父駅手前。
さらに航空写真にすると、周りが森なのか畑なのか、明るいときはどんな景色なのか確認できます。こういうことは、昔の夜汽車では、できなかったことです。
列車は秩父駅でしばし留置線に停車しました。「留置というのは一時的に車両を停めておくこと」と先ほど書きましたが、留置線は停めておくための線路です。
アナウンスが特にないと思ったら、どうやらこれはサプライズだったようです。はたしてこんな時間のサプライズに、いったい何人が気付いたのでしょうか。
停車している様子を確認したいと、急いで列車の一番後方に行ってみました。両側の線路にはラッピング列車が停車していて、その間に隠れるように夜行列車が停車しています。
動かない電車に挟まれて停車するなんて、普段なら絶対に見られない光景。2分ほどのわずかな間でしたが、なんだかすごく興奮しました。こうして鉄道沼にはまっていくのです。
頭は興奮冷めやらずで、だんだん明るくなっていく外を眺めていると、荒川が見えてきました。列車はしばらく川沿いを走ります。長瀞のライン下りもまた行きたいです。そういえば、この列車は窓が開くのでした。都心ではすっかり珍しくなってしまいましたが、夜汽車のイメージはこれです。夏は涼しい風を通すために、冬は熱くなり過ぎる暖房の換気に、窓を開けたものでした。
私も周りに気づかれない程度にそっと窓を開け、写真を撮りました。朝の冷気がスーッと入ってきて、頭を冷やしてくれました。
5時33分、ついに終点の熊谷駅に到着
その後、小1時間ほど、うとうとしたでしょうか。「シレソシラファレ〜♪ファ・ミ・レ〜♪(ホ長調)」というハイケンスのセレナーデのメロディーが車内に鳴り響きました。ああ、懐かしいこのメロディー、「はまなす」をはじめ、数々のブルートレインで聞きました。一気に郷愁が押し寄せてきます。
「おはようございます。あと20分ほどで、終点熊谷に到着です」という車内アナウンスが流れ、先ほどまでピクリとも動かなかった乗客が一斉に動き出しました。
そして列車は5時33分、ついに終点の熊谷駅に到着。長い旅が終わりました。
夜行急行の旅、いかがでしたでしょうか。この秩父夜行ツアーは、今回が2回めでした。
大人気のため、1、2回ともWEBでの発売開始20分ほどで売り切れたそうです。そして3回めが12月7、8日に行われます。私もまた参加する予定です。
今後のツアーはまだ未定ですが、また必ず第4弾、第5弾と続くことでしょう。
今回乗った12系客車は、通常、秩父鉄道の「SLパレオエクスプレス」で運用されています。
「SLパレオエクスプレス」は「都心に一番近い蒸気機関車」とも呼ばれており、土日を中心に運転していますが、2019年度は12月8日まで。それ以降は全般検査に入ります。検査には1年ほどかかるので、来年度の運行はありません。現在全席自由席で気軽に乗りに行けるので、ご興味ある方は、ぜひ今のうちに乗りに行ってみてください。
☆本記事に記載されている写真や本文の無断使用・ 無断転載を禁じます。また掲載情報は取材時点のものであり、最新の情報は施設等へお問い合わせください。
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