医師監修│咽喉頭異常感症(ヒステリー球)って何?

喉の違和感・異物感の原因や病気、よくある症状を解説

市村恵一
監修者
東京みみ・はな・のどサージクリニック
市村恵一

公開日:2022.08.20

更新日:2023.09.19

喉がつかえる、詰まっている感じがする、食べ物が飲み込みにくいなどの症状はなぜ起こるのでしょうか? 長引く場合は、「咽喉頭異常感症(ヒステリー球)」の可能性も。考えられる病気やよくある症状について、医師監修のもと詳しく解説します。

監修者プロフィール:市村恵一さん

市村恵一さん

東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長。東京大学医学部医学科卒業。医学博士、自治医科大学名誉教授、日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医、補聴器適合判定医(厚生労働省)、日本気管食道科学会認定専門医。鼻血を繰り返す全身性の難病「オスラー病」の数少ない権威でもある。

喉の違和感・異物感の症状とは?

喉の違和感・異物感とは?

なんらかの理由によって、喉に以下のような違和感や異物感の症状が見られることがあります。

  • 喉の違和感や異物感を感じる
  • 唾が飲み込みにくい
  • 喉がつかえる感じがする
  • 喉に何かが詰まっている感じがする
  • 喉や口の中に酸っぱい感じがある
  • 喉に引っかかる感じがする
  • 喉に圧迫感がある
  • 喉がチクチクする
  • 喉に何か張り付いている感じがする など

喉に異物感がある場合や、つかえた感じ、詰まった感じなどの違和感がある場合、逆流性食道炎や咽喉頭逆流症など消化器の病気が原因になっている可能性があるでしょう。これらの病気は、近年増加傾向にあるといわれています。

咽頭炎や喉頭炎、扁桃炎など喉の炎症が違和感の原因となっている可能性もあります。

また、まれではあるものの、咽頭がんや喉頭がんの初期症状として喉の違和感や異物感が起こっている可能性もあるため、痛みがない場合でも放置せず、耳鼻咽喉科で詳しい検査を受けましょう。

喉の違和感・異物感の原因

喉の違和感や異物感などの異常が起こる原因は、主に以下の3つに分けられます。

  • 局所的要因
  • 全身的要因
  • 精神的要因

喉の違和感や異物感の約80%を占めるといわれているのが「局所的要因」です。

胃食道逆流症や慢性咽喉頭炎と慢性副鼻腔炎などが多く見られ、その他にも喉頭アレルギー(I型アレルギー疾患)もみられます。甲状腺の病気や頸椎の形態の異常、咽頭がん・喉頭がんなどの腫瘍性病変が原因となっていることもあります。

また、鉄欠乏性貧血やドライマウス(口腔乾燥症)という「全身的要因」が喉の違和感や異物感につながっているケースも15%ほどみられます。

更年期になると女性ホルモンが急激に減少する影響で自律神経のバランスが乱れやすくなります。

すると、唾液の分泌が低下してドライマウスを引き起こします。ドライマウスになると喉の奥に何か詰まったような感じがしたり、飲み込みにくくなったり、つかえた感じが起こることがあります。

残りの5%に、うつ病や神経症、心身症などの「精神的要因」があります。

喉に違和感・異物感を引き起こす病気

喉に違和感・異物感を引き起こす病気

喉には咽頭(いんとう)と喉頭(こうとう)があります。

  • 咽頭(いんとう)……扁桃とその周囲。一般的に喉といわれるのが咽頭で、空気や食べ物の通り道
  • 喉頭(こうとう)……喉の下の方の部分で、声帯を含む気管の入口部分

喉に違和感が生じている場合、これらの部分に何かの異常が起きているかもしれません。ここからは、喉に違和感や異物感を引き起こす病気について詳しく解説します。

逆流性食道炎や咽喉頭酸逆流症

逆流性食道炎とは、胃酸など胃の内容物が食道に逆流することで、胃の粘膜が炎症を起こす病気のことです。喉のつかえなどの違和感の他にも、胃痛や胸焼け、口の中が苦い・酸っぱい、げっぷなどの症状が見られます。

胃酸の逆流は健康な人でも見られますが、短時間のため問題ありません。しかし、食道と胃のつなぎ目の下部食道括約筋が機能低下を起こして緩むと、胃から食道への逆流が起こりやすくなります。

逆流性食道炎は、食べ過ぎや飲み過ぎ、早食い、悪い姿勢、肥満や衣服の締め付けによる腹圧上昇、高脂肪食などが原因となって引き起こされます。

逆流がさらに上の方まで来てしまうようになったのが「咽喉頭酸逆流症」で、診断が難しく見逃されやすい病気です。

咽頭炎、喉頭炎、扁桃炎

ウイルスや細菌に感染すると、咽頭や喉頭に炎症が起こり、喉の違和感や異物感が起こることがあります。咽頭の一部である扁桃に特に炎症が強い場合は扁桃炎と呼ばれます。

違和感の他にも、発熱や頭痛、倦怠感などの症状が見られます。

風邪

風邪は、正式には感冒あるいは急性上気道炎といい、ウイルス感染が原因で起こります。喉がつかえるような感じ、喉の痛みや腫れ、喉のイガイガ、咳や鼻水、痰、息苦しさ、発熱などが見られます。

慢性上咽頭炎

慢性上咽頭炎とは、鼻と喉の間にある「上咽頭」が慢性的な炎症を起こす病気のことです。

上咽頭には免疫や自律神経(迷走神経)、舌咽神経などの重要な神経やリンパ管が密集しているため、慢性上咽頭炎になると喉の違和感や異物感の他にも、以下のようなさまざまな自覚症状が現れます。

  • 後鼻漏(鼻水が喉に落ちてくる、痰が絡みつく、鼻の奥から臭いがする)
  • 耳が詰まった感じがする(耳管狭窄症、耳管開放症)
  • 自律神経の乱れからくる症状(全身疲労感、めまい、肩こり、頭痛、集中力や記憶力の低下、睡眠障害(不眠・仮眠)、機能性胃腸症、起立性調節障害、過敏性腸症候群、慢性疲労症候群、線維筋痛症、むずむず脚症候群など)

また、慢性上咽頭炎の炎症が病巣となって関節炎、胸肋鎖骨過形成症、 IgA腎症、ネフローゼ症候群、掌蹠嚢疱症、乾癬、アトピー性皮膚炎、慢性湿疹などの疾患を引き起こすこともあります。

カンジダ性食道炎(食道カンジダ症)

カンジダ性食道炎(食道カンジダ症)とは、口の中に存在するカビ(真菌)が食道で増殖し、炎症を引き起こす病気のことで、食道の感染症の中では最も多いといわれています。

多くの場合は無症状ですが、食べ物を飲み込むときの痛みや違和感、胸の痛み、胸焼け、しみる感じなどの症状が見られることもあります。

ストレスや疲れなどによって免疫力が低下したときに感染を起こすことがあり、免疫力が戻れば自然に治ることもあります。治療には、抗真菌薬が使われます。

好酸球性食道炎

好酸球性食道炎とは、アレルギーや寄生虫に感染すると増加する「好酸球」という免疫細胞(白血球)が食道に集中し、慢性的な炎症を引き起こす病気です。10000人に2人ほどの頻度で起こる珍しい病気で、難病に指定されています。

好酸球性食道炎による炎症が続くと食道の動きが悪くなり、食べ物が飲み込みにくくなったり、つかえた感じ、胸の痛み、胸焼けなどの症状が起こります。進行すると食道が狭くなってしまい、食事が詰まることがあります。

アレルギー

喉に髪の毛や毛糸があるような感じがする違和感や、喉の奥がかゆい、チクチク感、イガイガ感、乾いた咳などの症状があり、咳が出るが普通の咳止めはあまり効かない場合、喉にアレルギー症状が出ている可能性が考えられるでしょう。

食品や薬、ハウスダストなどのアレルゲンが体の中に入り、喉や口の粘膜が腫れ、喉につかえ感が現れることもあります。

腫瘍性病変

咽頭がん、喉頭がん、食道がん、ポリープなども喉の違和感や異物感につながることがあります。その他にも、声が枯れたり、胸に違和感が生じることもあります。

喉に違和感が起こる「咽喉頭異常感症(ヒステリー球)」

喉に違和感が起こる「咽喉頭異常感症(ヒステリー球)」

喉の違和感や異物感には多くの場合、何らかの原因がありますが、耳鼻咽喉科の診察で病変が見つからない場合は「咽喉頭異常感症(ヒステリー球)」と診断されることがあります。

咽喉頭異常感症とは、喉の粘膜には異常がないにもかかわらず、喉の違和感や異物感がある症状のことで、喉や鼻の検査をしても、病変が見つからないことが特徴です。

咽喉頭異常感症の原因としては、主に以下のようなものがあります。

  • 全身性の病気や異常……更年期障害、自律神経失調症、糖尿病、鉄欠乏性貧血、嚥下機能の低下、喉の知覚過敏
  • 局所的な原因……逆流性食道炎、アレルギー性鼻炎、慢性咽頭炎、慢性扁桃炎、慢性気管支炎、甲状腺の病気、慢性副鼻腔炎
  • 精神的な原因……うつ病、がんへの不安、ヒステリー、神経症、心身症 など

普段からストレス発散するのが苦手な人や、つらいことや嫌なことを我慢してしまう人は咽喉頭異常感症になりやすいといわれています。また、比較的女性に多く見られる症状です。

咽喉頭異常感症の治療法

咽喉頭異常感症は、早期に治療することで悪化させずに治すことができます。

他の病気や異常が咽喉頭異常感症の原因となっていると考えられる場合は、そちらを優先して治療を行います。

原因に合わせて抗うつ薬、抗不安薬、消炎酵素薬、抗生物質、抗アレルギー薬などの薬を使った薬物療法を行ったり、心理療法(カウンセリングなど)を行うことも。

漢方薬もよく用いられます。咽喉頭異常感症でよく使われる漢方薬としては「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」、「柴朴湯(さいぼくとう)」、「茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)」があります。

その他の喉のよくある症状

その他の喉のよくある症状

その他の喉のよくある症状としては、以下のようなものがあります。

喉が痛い

喉に起こった炎症によって神経が刺激され、痛みが出ます。風邪、咽頭炎、扁桃炎、扁桃周囲膿瘍、喉頭炎、急性喉頭蓋炎などになると、喉に炎症が生じます。

中でも、扁桃炎や扁桃周囲膿瘍、急性喉頭蓋炎は、食べ物を飲み込むときに強く痛む傾向にあります。

息がしにくい、息苦しい

息がしにくい、息苦しいという状態は命にかかわることもあるため、早めに治療を受ける必要があります。

なんらかの原因で空気の通り道が狭くなっている、空気の通り道は正常であるものの呼吸に関係する筋肉の働きが弱っているなどの原因が考えられます。特に急性喉頭蓋炎は緊急を要する病気です。

飲み込みにくい、むせる

食べ物や飲み物が飲み込みにくい、むせるという症状がある場合、食べ物の通り道のどこかが狭くなっている、もしくは飲み込むための筋力が低下している、炎症による腫れができているなどの原因が考えられます。

悪性腫瘍の場合も考えられるため、早めに病院を受診して検査しましょう。

食道に入るべき飲食物が気管に入ると、むせてしまいます。これを誤嚥といい、肺炎リスクを高めてしまうことになります。高齢者は誤嚥を起こしやすいため、注意が必要です。

声が枯れる

風邪や咽頭炎などで炎症が起こると、声が枯れることがあります。ただし、声が枯れる症状が続く場合は声帯ポリープ、声帯結節、反回神経麻痺、喉頭がん、下咽頭がんの可能性も考えられるため、早めの受診が必要です。

咳・痰

1〜2週間ほどの咳や痰であれば、風邪、急性気管支炎、急性喉頭炎が原因の場合が多いでしょう。

しかし、それ以上続く場合は咳喘息、慢性気管支炎、喉頭アレルギー、逆流性食道炎、血圧の薬の副作用、肺結核、肺がんなどの原因が考えられます。

また、喉や食道、鼻や歯茎、気管や肺などの呼吸器から出血すると、痰に血が混じることがあります。耳鼻咽喉科の検査で喉・口・鼻を検査して異常が見られなければ、消化器科や呼吸器科で検査することになるでしょう。

喉の違和感・異物感の対処法

喉の違和感や異物感の一時的な対処法としては、以下のようなものがあります。

  • ミントタブレットやのど飴
  • 深呼吸
  • 運動によるストレス発散
  • 漢方薬
  • 加湿して部屋の湿度を上げる
  • マスクをする
  • うがいをする(特に昆布のだしを作り、それで行なうと唾液分泌が増し、有効性が高まります)
  • 喉を潤す

ただし、これらの対処法は根本的な解決にはなりません。

風邪であれば多くの場合1〜2週間ほどで治りますが、それ以外の病気が違和感の原因になっている可能性もあるため、症状が長引く場合は早めに病院を受診して検査しましょう。

喉の違和感・異物感が長引く場合は早めの検査を

喉の違和感や異物感は風邪などによる炎症の他にも、さまざまな原因が考えられる。症状が長引き、いつまでも治らない場合は他の病気の可能性があるため、早めに病院で検査をすることが大切です。

なお、検査をしても喉に異常が見られない「咽喉頭異常感症(ヒステリー球)」という病気が原因で喉に異常を感じている可能性も考えられます。

咽喉頭異常感症の場合も、薬物療法や心理療法などで治療ができるので、気になる症状がある場合は早めに病院で医師に相談してみましょう。

※この記事は2022年8月の記事を再編集して掲載しています。

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