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専門家監修│落ち込みは「怠け」「心の弱さ」じゃない
うつ状態・うつ病でつらいときの過ごし方や対処法は?
川村総合診療院院長
川村則行
公開日:2022.07.05
更新日:2023.09.01
うつ(鬱)状態になると、どのような傾向が見られるのでしょうか。感じ方、考え方、行動の3つが変化すると言います。気分の落ち込みや意欲低下からの回復、心を楽にするためにはどうしたらいいか、専門家監修のもと詳しく解説します。
取材先:川村則行さんのプロフィール
かわむら・のりゆき。川村総合診療院院長。1961(昭和36)年生まれ。東京大学医学部医学科卒業。同大学院博士課程(細菌学)修了。国立精神・神経センター心身症研究室長などを経て、2011年開業。臨床分子精神医学研究所所長。近著に『うつ病は「田んぼ理論」で治る』(PHP研究所刊)
「うつ状態」「抑うつ」「うつ病」の違いとは?
落ち込んで憂鬱な気分が続くことを「うつ状態」「抑うつ」「うつ病」などといいます。
「うつ状態」と「抑うつ状態」は基本的には同じ意味で使われており、うつ病とまではいかないが、精神的なエネルギー低下が起き、気分の落ち込み、無気力になる、やる気が出ない、憂鬱になる、疲れやすい、動けないなどの症状が出ている状態のことです。
「うつ病」は気分障害の一つで、これらのうつ状態(抑うつ状態)の症状が重く、長く続くことで生活に支障が生じている状態を指します。うつ病では、不眠などの睡眠障害も見られます。
また、うつ病と見分けが難しい病気として、うつ状態と躁状態(気分が高ぶり活動的になる)を繰り返す病気に「躁うつ病(双極性障害)」があります。
統合失調症や器質性精神障害などうつ病以外の精神疾患の人も、うつ状態になることがあります。
また、精神疾患を持っていない人も、悲しいことが起きたとき、対人関係で悩みを抱えているとき、大切な人に不幸があったとき、大きな環境の変化が起こったときなどに、うつ状態になることがあります。
うつ病などの気分障害は、更年期以降の女性に多く見られるため、注意が必要です。
うつ状態でつらいとき、調子が悪い日の過ごし方
うつ状態になると、以下のような3つの傾向がみられます。
- 感じ方の変化……やる気が起きない、抑うつ的になる
- 考え方の変化……「自分はだめだ」など、否定的な考えや嫌な考えばかりが思い浮かぶ
- 行動の変化……家に引きこもりがちになり、外に出たくない、外出できない
うつ状態やうつ病の多くは、ストレスがかかり続けたことが原因になっています。そのため、うつ状態のときは「十分な休養を取ること」が大切です。
ここからはうつ状態でつらいとき、調子が悪い日の過ごし方をご紹介します。
なお、ここで紹介するのはあくまで補助的な方法となります。食欲不振によって体重が減っている、いなくなりたいと考えるほどのひどいうつ状態のときなどは、補助的な対処法のみに頼るのは危険です。
そのような場合は、まずは医師や専門家のアドバイスを受けることが大切です。
医師や専門家のアドバイスを受ける
気分の落ち込みが激しいときや、うつ病・躁うつ病(双極性障害)が疑われるときは、心療内科や精神科に行き、医師や専門家のアドバイスを受けましょう。
信頼できる医師と出会えれば、自分が抱えている悩みや不安を相談しやすくなるでしょう。
環境を変えずに負担を減らす
家事をしている人や、仕事をしている人は、1日の作業量を減らしてみましょう。無理に環境をがらりと変えるのではなく、量を少なくすることで、負担を減らすことができます。
症状が強い場合は、仕事を休む、家事を他の人に任せるなど、できるかぎり休める時間を作れるようにしましょう。
できることから始める
うつ状態になると、これまで決断できていたことに対して、決断が難しくなることがあります。うつ状態のときは考え方が否定的になることがあり、冷静な判断が行えず、誤った判断をしてしまう可能性があるため、注意が必要です。
他人と比較せず、自分ができることから始めて、自信をつけていくといいでしょう。
うつ状態のときは時間帯によって気分に波があり、朝や午前中は気分が悪く、夕方や夜になると元気になる、楽になる人が多い傾向にあります。このようなリズムに合わせた生活を送るのも一つの方法です。
休みを取る
仕事が忙しくてストレスがたまる、家庭のことでイライラや不安が募るなど、日常生活で受けることのあるさまざまなストレスは、うつ状態を引き起こすきっかけになります。
無理を続けるとうつ状態が悪化してしまう可能性があるため、思い切って休みを取ってみてもいいかもしれません。
太陽の光を浴びる
うつ状態になると、午前中は眠い・だるい、昼間もすっきりした感じがしない、夜はなかなか寝付けないなど、1日のリズムが崩れてしまいがちになります。
また、外出が億劫になることもあり、すると、ますますリズムが狂ってしまいます。毎日、朝になったらカーテンを開けて、なるべく太陽の光を浴びるようにすると、体内時計が整い、気分の改善につながるでしょう。
音楽を聴く、気分が楽になることを取り入れる
うつ状態のときは、自分の好きな音楽を聴くことで、心をリラックスさせることも大切です。元気を出そうとして無理に明るい曲を聴く必要はなく、そのときの自分の気分に合った曲を聞いた方が心が安まります。
音楽だけではなく、散歩など自分の気持ちが楽になることを負担のない範囲で取り入れるといいでしょう。
生活リズムを整える
起床時間、就寝時間がバラバラで不規則になると、躁うつを繰り返す原因になります。
家のことや仕事のことで忙しいと、つい寝る時間が遅くなってしまい、生活の乱れが起こってしまうかもしれませんが、無理をしてうつ状態を繰り返したり、体を壊したりすれば、元も子もありません。
いきなり大きく生活を変えるのは無理でも、できることから変えてみましょう。
食生活を整える
うつ状態になると、食欲の低下や、食欲にムラが出ることも多いです。
しかし、特定の食品ばかり食べて栄養が偏ったり、食事を取らない生活が続くと、健康にも精神面にも悪い影響があるなど、悪循環に陥ってしまいかねません。バランスのいい食事を心掛け、食生活を整えましょう。
落ち込みや不安感、不眠には「セロトニン」や、セロトニンから作られる「メラトニン」が関係しており、セロトニンの材料となるのが「トリプトファン」と呼ばれるアミノ酸です。
トリプトファンが不足するとセロトニンとメラトニンが不足してうつ状態や不眠の原因になるため、不足しないよう注意しましょう。
トリプトファンは豆腐や納豆、醤油、味噌などの大豆食品、米などの穀類、ヨーグルト、チーズ、牛乳などの乳製品に多く含まれています。
アロマなど、香りを利用する
薬を使うほどでない軽いうつ状態や不眠などには、アロマなど香りの利用も役立つかもしれません。
うつ状態にはレモンなど柑橘系、寝付けないなど不眠に関してはラベンダー、ペパーミント、ローズ、パインなどの香りがいいとされています。
アロマの他にもハーブティーなど、自分の好みに合わせたものを利用するとリラックスにつながるでしょう。
うつ状態で外に出たくないときの対処法
うつ状態になると「外に出たくない」「外出が億劫で家でゴロゴロ過ごしてしまった」ということがあります。しかし、1日中ずっと家で過ごした結果、余計に落ち込んでしまうことも。
このようなときは、まずは無理をしないことが大切です。そして、外に出られない自分を責めるのではなく「外に出なければならないと思っている=外に出ようとしている」と見方を変え、自分を褒めましょう。
また、行動活性化療法(行動活性化技法、行動活性化法)と呼ばれる認知行動療法を試すという方法もあります。
行動活性化療法とは「自分が前向きになれる行動」を少しずつ増やしていき、気分を改善していく方法のこと。前向きになれる行動を取り入れることで、行動から気分をコントロールしていくというものです。
専門家に相談して、このような療法を取り入れるのも対処法の一つです。
うつ状態のときや、うつ病治療で大切なこと
ここからは、うつ状態のときや、うつ病治療で大切なことをご紹介します。
家族や身近な人など、周囲の理解
気分が落ち込んでいるときは、家族や友達、職場の同僚など、周囲の人の理解や協力が非常に重要になります。周囲の人から理解を得られず、苦しんでいる人も少なくありませんが、うつ病は怠けや努力不足ではなく、うつ病の人にしかわからないつらさがあります。
吐き出せない感情を抱えてつらい人は、信頼できる医師やカウンセラーなど専門家に苦しい想いを吐き出すといいでしょう。
もしも周囲の人がうつ状態で苦しんでいる場合は、「気の持ちよう」「がんばれ」などの言葉は禁物。温かく見守ることが大切です。
十分な休養、睡眠
過労や不眠、心配事などのストレスが続くと、うつ状態やうつ病の発症につながります。つまり、うつ状態の人は非常に疲れている状態であるため、十分な休養と睡眠が必要です。
1か月で改善する人もいれば、3か月や6か月以上かかる人もおり、休養期間は人によって違いがありますが、焦らずゆっくりと休む時間を取ることが大切です。
ストレスのコントロール
ストレスが蓄積され続けると、うつ状態やうつ病につながります。症状の緩和や再発防止のためには、ストレスのコントロールが大切です。
ストレスのコントロールにはさまざまな方法があるため、専門家にアドバイスを受け、自分に合ったコントロール方法を見つけるといいでしょう。
適切な治療を受ける、薬を飲む
うつ病の主な治療方法には「休養」「薬物療法」「精神療法」がありますが、1つのみではなく「休養しながら薬物療法を行う」など、組み合わせて治療することが多いです。
多くの場合、うつ病は薬を飲んだ方が早く回復するといわれています。
自己判断で治療をやめない
症状が治まってきたから薬をやめるなどの自己判断は、うつ状態やうつ病のときにやってはいけないことの一つです。
服薬によって症状が消えたように見えても、油断はできません。うつ状態を再発させないためにも、症状が消えたからといって自己判断で治療をやめないことが大切です。
焦らず、無理しない
うつ状態やうつ病は「怠け」や「心の弱さ」ではありません。気を奮い立たせたり、無理をして治るものではないのです。
うつ病の治療は、少しずつ時間をかけながら進めていくものであり、少し気分がよくなったり、悪くなったりを繰り返しながら徐々に改善していくため、時間がかかります。
病院での治療を開始したからといってすぐに治るものではないため、焦らず無理をしないことが大切です。
うつ状態のときは無理せず、ゆっくり休むことが大切
気分が落ち込む、やる気が出ない、動きたくない、外に出たくないなどのうつ状態は、どんな人にでも起こる可能性のある症状です。
ストレスを受け続けるとうつ状態やうつ病につながることがあり、これらの症状が出ているときは無理をせず、焦らず、ゆっくり休むことが大切です。
更年期以降の女性はうつ病などの気分障害の患者数が多いため、ストレス発散をする、ひどい落ち込みがある場合は早めに専門家に相談してみましょう。
※この記事は2022年7月の記事を再編集をして掲載しています。
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