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- 寝ても疲れが取れない原因と対策は?医師が解説
若い頃は朝までぐっすり眠れたのに……。「眠る力」は加齢で低下し、特別な理由がなくても、眠りが浅くなったり、途中で何度も目が覚めたりするようになるんだとか! 眠りの悩みを解消するために、まずは「眠りの深さ」を今すぐチェックしてみましょう。
睡眠の深さはどれくらい?「睡眠チェックリスト」
- 昼食後に必ず眠くなる
- 寝てもとれない疲れを感じる
- 電車などの座席に座ると、居眠りしてしまう
- 運転中、信号待ちなどで、ふっと眠気に襲われることが多い
- コーヒーを飲んだり、ガムをかんだりしていないと頭や体をしゃきっと保てない
- 日中、よくイライラする
出典:白濱龍太郎著『誰でも簡単にぐっすり眠れるようになる方法』を基に作成
夜はぐっすり眠り、すっきり目覚めた朝には疲れもちゃんととれている――そんな「理想の睡眠」をとれている人は少ないのではないでしょうか。上のチェック項目に一つでも当てはまる人は、ぐっすり眠れていない可能性が高いです。
50代以上の約95%の女性が睡眠に関して不満を抱えている
株式会社フジ医療器が2020年に行った「第8回 睡眠に関する調査」(※)で、50代以上の女性の回答に絞ってみてみましょう。
「睡眠に不満はありますか?」という質問に対して、50代以上の女性1084名の回答では「不満はある」と答えた人は94.5%(1024人)と、ほとんどの人が睡眠に不満があることがわかりました。
※調査対象:全国の20歳以上の男女6457人
睡眠に関しては不満な点は?
睡眠に不満があると答えた1024人のうち、一番多かった不満は「何度も目が覚める(中途覚醒)」。次に「寝ても疲れがとれない」「なかなか寝付けない(入眠障害)」と続きます。
これに対し「年齢とともに、睡眠はだんだん不安定になっていきます。これは男女ともにそうです」と解説するのは、これまで1万人以上を治療してきた睡眠の専門医、白濱龍太郎(しらはま・りゅうたろう)さんです。年を重ねると、満足な睡眠がとれなくなる理由は、「深く眠れなくなる上に、睡眠を阻害する要素が増えるから」と話します。
年齢とともにぐっすり眠れなくなる理由
「深く眠れなくなる」のは、なぜなのでしょうか? その話の前に、まず簡単に睡眠ホルモン「メラトニン」の働きと眠りのメカニズムを説明しましょう。
脳の松果体(しょうかたい)から分泌される「メラトニン」は、夜になると分泌量が増え、22時~深夜4時にかけて急増しピークを迎えます。メラトニンが分泌されると、眠気が高まるとともに脈拍や血圧、深部体温を下げて、眠りを深く持続させようとします。
メラトニンは、光の影響を大きく受けます。太陽光はメラトニンの分泌を抑える働きがあり、朝に太陽光を浴びた14~16時間後にメラトニンの分泌が始まるように、体内時計がリセットされます。つまり、7時に朝日を浴びれば21時~23時には、自然と眠くなるのです。
眠りに大切な「メラトニン」ですが、実はメラトニンの働きがピークを迎えるのは10代。
「その後は年齢とともにメラトニンの分泌量が減ってしまい、反対にメラトニンの働きを抑え、脳の覚醒を促すホルモン『オレキシン』『コルチゾール』の働きが強くなっていきます。そのため、60代ともなれば特別な理由がなくても、眠りが浅くなったり、途中で何度も目が覚めたりするようになります」と白濱さん。
悲しいかな、年を重ねるほど、10代のときのようなぐっすり感を味わうことはできなくなっていくものなのです。
深く眠れなくなるだけでなく、さらに睡眠を阻害する要素も増えていきます。例えば、体の痛みや夜間頻尿、うつ病、認知症の他、加齢によって自律神経のバランスが崩れてしまうことや、閉経後の女性に多い睡眠時無呼吸症候群などもぐっすり眠れなくなる要因です。
スマホ、見過ぎていませんか?
こうした加齢による影響に加えて、「現代型の生活習慣も、深い眠りを妨げている」と白濱さん。特にスマートフォン(スマホ)の影響はあなどれないと指摘します。明るい照明やスマートフォン、パソコンの光でもメラトニンの分泌を妨げる要因となってしまいます。
「眠る前にスマホの強い光に触れると、体内時計が乱れて睡眠の質が下がる恐れがあります。また寝る前にスマホで新しい情報を見ることが、自律神経の交感神経を刺激し、眠れないきっかけをつくる可能性もあるのです」と忠告します。
ちょっと天気予報を見るつもりでも、スマホを開けばさまざまな情報が目に飛び込んでくるもの。その結果、交感神経が優位になり、脳が緊張モードのままになってしまうのです。
理想の睡眠時間は?短くてもいいと諦めるのが大事
また、そもそも睡眠時間がもっと必要だと考えることも、「眠れていない」という心理的ストレスを増やす一因になっていると白濱さんは話します。
上のグラフは、フジ医療器が50代以上の女性1084人に聞いた、平日と休日の平均睡眠時間と、理想の睡眠時間のグラフです。実際の平均睡眠時間は6~7時間ですが、理想の睡眠時間は7~8時間と考えている人が多いことがわかります。
「10代のうちは8時間寝る必要がありますが、50代以降は6時間~6時間半程度で十分です。『睡眠誤認』とも呼びますが、実際にはちゃんと寝ているけれど寝られていないと思い込んで、不眠症を自分で作り上げていることがあります。8時間必要とハードルを上げることはやめて、短い睡眠時間でも質を高めるようにしましょう」
「寝ても疲れがとれない」理由は「深睡眠」が取れていないから
では、満足できる睡眠をとるためにはどうすればよいのでしょう。白濱さんは「眠りに入って4時間以内に、『深睡眠』を2回以上とれるかがカギ」と話します。
「深睡眠」とは、最も深い眠りの段階で、いわゆる「ぐっすり眠っている」状態です。眠りの前半、上のグラフだとノンレム睡眠「ステージ3」での睡眠のこと。最初の深睡眠のとき、細胞の修復を行う成長ホルモンの分泌がピークを迎えることがわかっています。また、睡眠をとると、脳の大脳皮質が冷却されて疲労回復が行われます。つまり「寝ても疲れがとれない」と悩みを解消するには、深睡眠が必要なのです。
「しかし、年を重ねるほどノンレム睡眠がステージ2までになり、ステージ3の深睡眠に到達しにくくなります。そして体内時計も前倒しになって早寝早起きになると、眠りが足りないと感じるようになります」
深く眠るためには?
上のグラフのように、深睡眠が訪れるのは眠りの前半のみ。つまり長く眠るよりも、最初の4時間にいかに深く眠るかが重要です。
「深く眠るには、メラトニンが働くメカニズムと『深部体温』を意識しましょう。深部体温とは内臓など体の内部の体温で、私たちの体には、深部体温が下がると眠くなるという性質があります。そのため就寝時刻に向けて、入浴などで意識的に深部体温を上げ、スムーズに下げていくことが大切です。同時に、自律神経のうち交感神経の働きを少しずつ鎮め、リラックスして副交感神経を優位にすることも、とても重要です」と白濱さん。
次の記事からは、深い眠りを得るための生活習慣と栄養、簡単な動作で深部体温と自律神経に働きかけるストレッチを紹介します。
取材先・監修
RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック 院長 白濱龍太郎さん
しらはま・りゅうたろう 2002年、筑波大学医学群医学類卒業。東京医科歯科大学大学院統合呼吸器病学修了。東京共済病院、東京医科歯科大学附属病院を経て、13年にクリニックを開設。日本睡眠学会専門医。『誰でも簡単にぐっすり眠れるようになる方法』(アスコム刊)をはじめ著書多数。
※この記事は2021年5月の記事を再編集して掲載しています。
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イラストレーション=北原明日香
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